水中宮殿第三
(一)
「――
「は、はい。申し訳ございません」
殺気だった
「……
その下は、深さの知れぬ底なしの淵。そこには昔から、九水の神である大蛇が住まい、落ちた人間を食らう、という言い伝えがある。
実際、そんなものがいようがいまいが、あの高さと深さ。落ちてしまえば、人間になす術などない。
すでに、芝蘭が行方不明になって五日。冷伯の
毒は既に出したものの、その影響はまだ随所に残っていた。特に腕が動かしにくい。睡眠も取っていなかったため、目の下にははっきりと隈ができていたし、顔色も悪い。が、そんなこと構うものか。
「失礼いたします。――公子、少しお休みになられては」
「この状況で、寝てられる訳ねえだろうが!!」
ぴしゃりと返す。言いながら、冷伯は内心首を傾げた。見慣れない顔だ。こんな男、
「しかし、いざというとき、公子が倒れられては」
「俺が倒れるかよ」
「……ではせめて、これをお召し上がりください。疲れが和らぎます」
言って青年は、温かな粥を差し出した。その香りに、忘れていた空腹を思い出して、冷伯は素直に受け取った。
匙ですくい、口に含む。ほんのりとした甘みが、口の中に広がる。頭がぼうっとする、知らず、くらくらとした。しまった、と思ったときにはもう、抗いがたい力に引かれるように、意識が沈んでいく。
崩れるようにして眠りに落ちた冷伯の手からするりとこぼれかけた器を受け取って卓子に起き、その背に衣を掛けると、青年は微笑んだ。
「ゆるりとお休みください。――こういうときにこそ、夢の中に、導きはあるやもしれませんよ」
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