第17話 古典的な罠に引っかかる
ツバサたちは水の精霊ミスティーと出会った湖から西へ向かい、最初の森に侵入した。
「進行方向に魔獣の反応があります」
クラウは常に魔獣の警戒をしている。
そのお陰で出会い頭に戦闘になることはない。
「オープン・マップ!」
ツバサの目の前に表示された半透明のマップに、赤い点滅が幾つか確認できた。
赤く点滅しているのは魔獣で、その横には種族名が表示される。
「オークロードが八体に、オークキングが一体か」
「お兄ちゃん、今度はわたしが倒すわ!」
「俺にやらせてくれないか? オークロードと戦ったことないしね」
「え〜仕方がないわね。今回は譲るわ」
ツバサはミストガルの剣士として魔獣と戦った経験はある。
しかし、アルフェラッツ王国内にオークロードやオークキングクラスの魔獣は滅多に現れないので、これは経験を積むチャンスだ。
それにしても組み合わせがおかしい。普通はオークロードの下に多数のオークが仕えているはずなのに、それが一体もいない。
「この大陸だと魔獣のランクが一つ繰り上がっているみたいだな」
「ここではこれが普通なんだよ」
しばらく進むと、予定通りにオークロードがいた。
左に三体、右にも三体、残りの二体はオークキングの護衛だろう。
オークロードたちは夢中になって何かの獣を解体しているせいか、こちらに全く気づいていない。
「それじゃあ、右からだ!」
ツバサは風神剣を抜刀すると、右側のオークロードたちに走り寄る。
あっさりと接近に成功した。
「何で気づかないんだ?」
接近できてしまったので、風神剣に少しだけ魔力を流して、オークロードたちの首を次々と刎ねた。
傍から見ると、まさに瞬殺だった。
「次は風神剣の真空刃だ!」
ツバサは残りの三匹に風神剣を向けて、魔力を流し込んだ。
風神剣から無数の真空刃がオークロードたちに向かって放たれる。
だが、予想に反して真空刃が何かにぶつかったように砕け散った。
「あれっ?」
『魔法障壁を感知しました』
「オークロードは魔法が使えるのか! それならこれはどうだ!」
ツバサは右手をオークロードたちに向けた。
「アイスキャノン弱!」
キューン!
「発射音がかっこいい!」
音はともかく、氷の弾丸がオークロードの魔法障壁に着弾した。
パリン!
「あっ、破れた」
魔法障壁が破られるとオークロードたちは一斉に突っ込んできた。
どこで手に入れたのか知らないが、彼らは剣や斧を持っている。
「アイスバルカン弱」
ブーーーン!
一分間に五千発ほどの連射で氷の弾丸がオークロードたちを貫いていく。
一つ一つの威力は弱いが、オークロードたちは為す術もなくミンチにされていく……。
「グロいな……」
「あ~ん、どうやって食べたらいいの?!」
「そっちか! ハンバーグにするしかないだろ」
因みにオークの肉は高価で取引されるくらい美味しいらしい。
もっとも、大量に仕入れることはできないから、値段が高いのは当たり前かもしれない。
その後、クラウがオークで料理を作ってくれるというので、フェルと一緒にグラン邸に入った。
料理ができるまでツバサは単独で森の中を進むことになる。
もちろん、探査スキルでしばらくは魔獣に遭遇しないことが判っている。
「久しぶりに独り切りになったな」
鬱蒼とした森の中を独りで歩くのはけっこう心細いものだ。
喩え迷わないことが確約されていても――
ツバサが獣道をしばらく歩いていると、開けている場所に出た。
「自然とできた場所かな?」
一口に森の中といっても、地形が変化するし地質も違う。当然植物の育ちにくい環境もあるのだ。突然開けた場所に出くわすこともある。
もちろんツバサもそれくらいのことは知っているが、何か不自然さを感じていた。
ツバサの右足が地面に着いたと思った瞬間、右足は地面を捉えることができなかった。
「うわっ!」
体重の残った左足で地面を蹴る。
普通の人間ではありえない脚力で十メートル先までジャンプする。
「びっくりした! 落とし穴か?」
ツバサの後ろの地面には、直径三メートルほどの穴ができていた。
中には槍が剣山のように埋め込まれている。
「罠か……。獣とか魔獣とか?」
ツバサが気を緩めた瞬間、地面が突然凄い勢いで浮かび上がり、ツバサはわけも分からず網に捕まって宙吊りになった。
「うっ……。何だよこれは!」
ツバサはその網から逃れようと藻掻いたが、網はびくともしない。
戦闘レベルが255のツバサでも破れない網など存在しないので、それは魔法が付与されているとしか考えられなかった。
「剣で切ってみるか」
しかし、異次元収納は開かなかった――
この網には魔力を封じる強力な魔法が付与されていることが明白になった。
「どうすればいいんだ? クラウに相談してみるか……」
何でもかんでもクラウに訊くのは気が引けたが、この状態が長く続くと危険だ。
この罠を仕掛けて者が戻ってくる前に脱出し無くてはならない。
『クラウ! 聞こえるか?』
『はい、聞こえますツバサさま。どうかしましたか?』
『よかった……。通じないかと思ったよ』
テレパシーは魔法とは異なるので通信は阻害されないようだ。
『今ね、網に捕まって宙吊りなんだ。助けてほしいんだけど』
『はい、直ぐに参ります』
(戦闘レベルが上がったからといって、油断しちゃだめだな……)
『ツバサさま……。悪い知らせです』
「えっ、もしかして……』
『外に出られません』
グラン邸はツバサの異次元収納を応用したスキルであるが、グラン邸の中にいる人は中から扉を開ければ普通に外へ出ることができる。ただし、扉が出現するのはツバサの周辺に限る。
ところが、ツバサは魔法遮断網に捕まっているので、グラン邸の扉を出現させることができないのだ。
『これりゃ参った……。お手上げ?』
数時間の間、ツバサとクラウは相談しながらいろいろと試そうとしたが、そもそもやれることがない。
罠を仕掛けた何者かに助けてもらうしかなさそうだった。
「ベヒーモスを穴に落とそうとしていたんだが、珍しいものが捕まったな」
「オ、オーガ?」
「誰がオーガだ!」
そこに現れたのは筋骨隆々の逞しい男だった。
その男は人間の狩人のように見えるが、頭には二つの角が生えている。
ツバサは彼の角を見てオーガだと勘違いしたようだ。
「俺は龍神族の長の息子、エルネスティだ。お前は人間のようだが、どうやってここに来た」
「俺はツバサ。ツバサ・フリューゲルだ。アルフェラッツ王国から流刑者の谷へ転移させられた」
「流刑者の谷……。古代魔法文明の遺物……。まだ稼働していたのか?」
「アルフェラッツ王国側の……エルカシス遺跡の転移魔法陣は活きている。ところで……」
「だめだ!」
「まだ何も言ってないだろ!」
「お前は怪し過ぎる。ここは暗黒大陸だぞ。只の人間が無傷で生存できるはずはない」
「え~と、運が良かったんだよ。そういうことってあるだろ。奇跡的なことって」
「俺は運を信じていない。諦めるんだな」
「そんな……」
その後、エルネスティと名乗る男は仲間を数人連れてきて、ツバサを龍神族の本拠地に引き摺っていった。
【後書き】
いつも応援して下さって、ありがとうございます。
とても励みになります。
次回の更新は5/31(木)になる予定です。
それから、できれば感想などをいただけると物語に反映できますので、よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます