ロボコック
木下森人
RoboCook
「ドクター、いったい何なんだこいつは?」
「驚いたかいウフコック。いや、最初はちょっとした思いつきだったんだがね、いざ完成してみれば、我ながらなかなかの出来栄えだと思うよ」
ドクター・イースター=得意げ――自身の才能を誇示。
「冗談じゃないぞ。他人事だと思って。俺の立場になって考えてみろ。気持ちが悪いなんてもんじゃない」
ウフコック・ペンティーノ――目の前にいる存在を観察/それはネズミだった。体格/手や足の長さ/顔のつくり/真っ赤な瞳/まさしく自分と瓜二つ/生き別れの二卵性双生児のよう。
ただしひとつだけ異なる点。
ウフコック――卵の黄身を思わせる色をしたフサフサの体毛。
そのネズミ――全身を覆う硬質で冷たい金属の皮膚。
「ネズミ型アンドロイド、名付けて〈ロボコック〉だ」
「なんだか微妙にギリギリなネーミングだな」
「なんのことかな?」
《へえ、ホンモノそっくり》
「バロット」
ルーン・バロット――ふたりのいる部屋へ入って来るなり、ロボコックを手のひらの上に載せた。《ホンモノよりちょっと重いかな》
本来ウフコックの体重はロボコックよりはるかに重い/増殖し続ける細胞の大部分を亜空間へ収納。
「やめろバロット。そんなヤツに触るんじゃない」
「おや、妬いているのかいウフコック」
「そんなんじゃな――」
《こんばんは、お嬢さん》
《しゃべった!》
《ネズミはお嫌いじゃないですか?》
「ウフコックの声をサンプリングした合成音声だよ。
《当方は、普通のネズミとは、微妙に違いますので、そう気持ち悪がらずにお話してください》
「そりゃ普通のネズミとは違うだろうさ」ウフコックは不機嫌そうに言う。
《いたぁ……い、の?》
「こいつ会話が成立してないぞ」
「そりゃそうさ。過度な期待をされても困る。そのオモチャを作るのに、どのくらい時間をかけたと思う? たったの一時間だよ」
「それは逆にすごいな」
ロボコック――小首をかしげる/後ろ足で頭をかく/自分の尻尾を追いかけてグルグル回る。
《かわいい――かわいいっ!》
「俺はそんな風に媚を売るような真似はしない」ウフコック=不機嫌。
「そうかい? 保護証人の女性相手に結構やってたと思うけど」
《俺は、最強の白兵戦用として開発された、
《ねえドクター、この子はどんなことができるの?》バロット――興味津々/目を輝かせる/普段の大人びた雰囲気とは違う、年齢相応の子供っぽさ。
「それじゃあご要望にお応えして、このロボコックの優れた機能を紹介しよう」
《俺は俺の有用性を証明する》
ドクター――なぜか鍋を用意/水を汲んで火にかける/沸騰するまで。
「おい、何をするつもりだ。ドクター」ウフコック――怪訝。
「なにって、だから言っただろう。『
ドクター――冷蔵庫から卵を取り出す/ロボコックの尻尾をつまんで持ち上げる。
「やめろドクター、その持ち方はやめろ。尻尾を持つな。とても不愉快だ」
「なんだい。別に君が尻尾をつままれているわけじゃないだろう。だいたいロボコックのことは嫌いじゃなかったのかい?」
「それとこれとは話が別だ」
「ふーん。まあいいや。ほら、放すよ」
ロボコック――卵もろとも煮えたぎる鍋のなかへ。
「ああ! なんてことを!」
「大丈夫。耐熱・防水ともに完璧だから」
「そういう問題じゃない」
数分後=ロボコック――けたたましいアラーム/卵とともにお湯から上げられる/歯を使って器用に殻を割る/傷ひとつないつるりとしたゆで卵。
「ほらバロット、食べてごらん」
バロットが卵を手に取る――小さな口でかぶりつく――ほころぶ笑み――
《美味しい。美味しいよドクター。ちょうどいいゆで加減の
「そうかい。喜んでもらえたならよかった」
「いやドクター、まさかとは思うが、こいつの機能は卵のゆで時間を計って、殻を綺麗に割るだけじゃあないだろうな」
「だけとは心外だな。さっきも見ただろう。数パターンの台詞をしゃべるし、愛らしい動きもできる。充分な有用性だ」
「……ちなみに、ゆで加減は好みで変えられるのか?」
「ウフコック、君にハードボイルドは似合わない」
「できないのか……」
ロボコック 木下森人 @al4ou
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