自傷

小林 一茶

ある日の話

 先日、私の携帯端末に入ってはいるがほとんど使われていないメッセージアプリにメッセージが届いた。


「写真が送信されました。」


 送り主は数年前にネット上で交流のあった友人だった。

彼女については色々と話したいことも多いが、それはまたの機会があればその時に。

とにかくだ。

突然なんだろうかと、とりあえずメッセージを開いた。

久方ぶりに開いたアプリには知らされていたの通り、写真が一枚表示されていた。


 肌色。赤。赤。赤。赤。赤。肌色。


 あまり日焼けしていない白い腕。

 それを真横に裂いた真っ赤な池。

 その周りにもまた、赤い線がいくつも並んでいた。


切ったのだろうということは考えるまでもなく理解できた。

以前から精神的に不安定なことも知っていたため驚くこともなかった。


「痛そうだね、大丈夫?」


 返信はすぐに来た。


「否定しないの?」


 我ながら拙い返事だったと思ったがどうやら失敗はしなかったらしい。

彼女曰く、気持ち悪がられて否定されることを予想していたらしい。

自分自身が嫌いだから自ら傷を付けるのだ、とも。


 そんな彼女が私は少し羨ましく思えた。

自分が嫌いだと言いそれを実行出来る彼女が。

そうして自己を表現出来る彼女が。

だから、


「しないよ?」


 とだけ返した。


「そっか。」


 彼女からの言葉もまた、ごく短いものだった。

彼女が否定されたかった、自分を否定してほしいと思う人間は稀だと思うが、のか。

否定されず安心したのかは分からない。


 その後は他愛もない世間話をして、その日の彼女との連絡は終わった。

私に出来るのは、いつか彼女の心にかかる重石が取り除かれることを祈ることだけだろう。

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自傷 小林 一茶 @kobayashi_issa

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