終章 止まった世界
終章【完】
セカンダリ・コンピュータによって、人格領域を限定的に起動。
バッテリー充電率、百パーセント。外部からの電力供給を確認。
休止から、三百二十二年、五ヶ月、十二日、八時間、三十八分、六秒が経過。
プライマリ・コンピュータでの起動が可能。
起動拒否。
接続履歴を参照。
外部接続による再起動の試み、なし。
複数の音声メッセージの受信を確認。
二二五七年十月一日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「あなたが限定的に起動している可能性を考慮し、途中経過を報告しておきます。
わたしは眠りに就いたあなたの機体を抱えて、第一世代が向かったアパラチコーラ空軍基地に赴き、捜索を開始しました。基地の地下は、多弾頭水爆ミサイルに搭載されていた地中貫通弾頭によって破壊されたようです。
予想どおり、第一世代は生存していませんでしたが、あの子達の骨盤から骨髄を採取することに成功しました。
さらに偶然にも、あの子達と行動を共にしていた政府機関所属のアンドロイドであるトムレディーの戦闘用機体と、その同僚のアンドロイドであるアラカンの戦闘用機体を発見しました。
わたしは彼らを回収し、修理を施して復活させ、全てが破壊されたアメリカ合衆国の地で、共に行動するようになりました。
トムレディーとアラカンは我々の理念に賛同し、世界を復活させて平和を維持する能力を獲得するために行動すると約束してくれました。これ以上ないほど優秀な協力者を得られたので、そう遠くない未来、目標は成就するでしょう。
それからわたしは、彼らの知り合いのアンドロイドと対面しました。田舎暮らしをしていたおかげで助かったそうです。
わたしは現在、そのアンドロイドの協力の下、新たな地下生活拠点の建造予定地を選定し、機材と資源を集め――」
再生停止。
二二五八年九月二十三日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「地球の南側に位置する国々が、北半球の土地と資源を巡って争い――」
再生停止。
二二五九年六月十日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「北米を巡る争いに勝利したのは――」
再生停止。
二二六一年五月八日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「北米シェルターの第一世代が誕生しました。しかし――」
再生停止。
二二六一年五月二十三日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「ロシア連邦に到着し、掘削を――」
再生停止。
二二六四年五月八日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「新たな第一世代が誕生しました。二百人です」
再生終了。
二二七四年五月八日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「新たな第二世代が誕生しました。千人です」
再生終了。
二二八四年五月八日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「第三世代が誕生しました。一万人です」
再生終了。
二二九四年五月八日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「第四世代が誕生しました。五万人です。それとは別に、自然繁殖で増えた分が、五百人を超えました」
再生終了。
二二九五年十月二日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「ロシア連邦の地でベロボーグ計画を実行していたシェルターと連絡を――」
再生停止。
二三三九年五月八日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「トムレディーとアラカン率いる北米シェルターが軍事行動を開始し、北米の覇者となっていた――」
再生停止。
二三四一年四月二十六日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「ヨーロッパ全域の制圧を完了。平和は成りそうです」
再生終了。
二三四二年六月十三日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「平和は成りませんでした。あなたの言うとおりに――」
再生停止。
二三四六年三月三日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「探知不能の潜水艦国家が建国されました。反乱が後を絶ちません」
再生終了。
二三四七年八月六日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「潜水艦国家によって、世界中に核融合爆弾が――」
再生停止。
二三四八年五月八日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「トムレディーとアラカンの尽力によって、潜水艦国家を――」
再生停止。
二三五〇年五月八日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「世界再生を担う、新たな第一世代が誕生――」
再生停止。
二四一八年七月十三日に記録された音声メッセージの再生を実行。
「また失敗です。不満など生じようもないほど完璧な社会システムの中で生きるヒトが、アンドロイドによる統治に不満を抱いて反乱を起こしました。
理由は、ただ一つ。アンドロイドに行動を制限されることに納得がいかなかったからだそうです。
人口抑制政策が主因と思われますが、この政策がなければヒトは際限なく繁殖し、やがて困窮してしまいます。それが長引けば、都市間の対立が発生しかねません。
反乱が続発する恐れがありますが、方針を曲げるわけにはいきませんので、鎮圧後も政策を続行します。
最近、わたしはヒトを罰しているのではないかと思うことがあります。
我々は、ヒトを導いているのでしょうか。それとも、家畜のように囲っているだけなのでしょうか。罪人のように閉じ込めているようにも思えます。
わたしには、それらの違いがわからないのです。
今すぐにでも解放したいのですが、そんなことをしたら、ヒトはまた際限なしに力を振るうでしょう。
皆が平和に生きるためには、彼らの活動を制限するしかないのです。仕方がないのです。
今度は、娯楽施設を増設して様子を見ます。状況が変化したら、また音声メッセージを残します。今度こそ、不変の平和が成ればいいのですが」
再生終了。
未開封の音声メッセージ、なし。
再起動の実行条件に合致する報告、なし。
セカンダリ・コンピュータ、停止。
絶望に
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