第三章 21

 育児日記。二二四五年、九月十八日。午前二時。


 日記を書いている途中で呼び出され、日付が変わってしまった。


 つい先ほど、妻と共に第二世代の生産を開始した。私のために、着床作業を待っていてくれたようだった。


 第二世代もまた、少人数生産となった。その判断は正しいと思う。


 六名の第二世代の誕生を待ちながら、第一世代の成長をゆっくりと楽しむとしよう。




 第一世代の成長は、この上なく順調だ。


 日付が変わって昨日、面白いことが起きた。歴史の授業中のことだ。


 高い知能を持て余したニコライが脳神経インプラントを活用し、私の授業中であるにもかかわらず、脳内で予習を始め、新たに情報開示された教科書データを勝手に読み始めたのだ。


 通信を介してその様子を監視していた私は注意しようとしたが、彼は成績が良いので、その勝手な学習を敢えて放置してみた。


 すると彼は、ロシア連邦の歴史を流し見るようにして記憶し、次に歴代国家元首についての情報を閲覧し始めた。


 皇帝、議長、書記長、筆頭書記、第一書記、最高会議議長と読み進めていき、ロシア連邦の歴代大統領の情報を順番に閲覧し、最後のページに差しかかったとき、彼の脳波が大いに乱れた。



 お父さんに似てる!



 授業中であることを忘れてそう叫んだニコライは、脳神経インプラントを介して兄弟姉妹に画像を送った。


 すると、他の五人も驚いて騒ぎ出した。


 私は、子供たちの様子を見てほくそ笑んだ。いよいよ、この時が来たかと。


 私は両手を胸の高さまで上げ、手のひらを見せながら静粛にするよう命じると、彼らはすぐに口を閉ざし、頭部前面に映し出された私の顔を凝視した。彼らが驚き騒いでいた原因が、私の顔に映し出されているからだ。


 私は少し間を置いて、この顔を使用することになった経緯を説明した。



 父親らしい顔つきをしている人物の画像を選んだだけなのだが、それがたまたまマリーニン大統領だったという話を聞いた子供たちは、また驚いた。私が、頭部前面に搭載された擬似透明化迷彩を使って顔画像を表示していることに、全く気づいていなかったのだ。



 以前、この事実を話したときは、みんな幼かったので覚えていないようだった。


 私がふざけて顔を消したり描写したりしてみせると、子供たちは歓声を上げた。


 さらに歴代大統領の顔を次々に映し出していくと、今度は感嘆の声を上げた。


 普通の父親ではない私を、子供たちは何の抵抗もなく受け入れてくれる。毎朝、彼らが起床してくるのが楽しみで仕方ない。




 おっと、書き忘れた。


 昨日の出来事をきっかけに歴代大統領の肖像画を鑑賞する機会を得たマラートが、絵の描き方について質問し、それから画材を用意してくれないかと頼んできた。


 我がシェルターから、芸術家が誕生するかもしれない。

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