第二章 4
夫の不勉強を知った妻は、腰に両手を当てて、面倒臭がる人間の真似をしながら言った。
「あなたは戦闘用ですから、知らなくて当然かもしれませんね。今、データを送ります」
一般教養に精通するアンドロイドである妻は、無知な伴侶のために、家畜についての情報や飼育方法だけでなく、家畜に関する全歴史が記されたデータを無線送信した。
受け取った夫は、それを検疫走査してから読み込んで記録媒体に納め、速やかに全てを理解した。
「感謝する。早速だが、疑問が生じた。現代では畜産に換わってクローン精肉技術が主流になっているという記述があるのだが、きみは何故、家畜を飼おうとしている?」
学習意欲があって、大変よろしい。妻はそう思いながら、その意欲に報いるために知識を並べ始めた。
「家畜を飼う理由は、二つあります。一つ目の理由は、資源を節約するためです。人工太陽光で牧草や飼料を育て、それを家畜に与えて成育し、血肉を得る。その過程で生じた、骨、
妻の充実した解説に、夫は目も鼻も口もない頭部を縦に振って、感謝と敬意を示した。
「なるほど、それはいい。だが、随分と旧時代的だ。人工的な免疫補助に不安があるのか?」
「いいえ、不満があるというわけではありません。菌を培養してエンドトキシンだけを抽出する方法もありますが、それでは子供たちの成長の機会を失してしまいますので、却下したのです。わたしは教育を最重要視していますので、旧時代的な方法を採用しました」
「きみの意図を理解した。しかし、人間を育てるという行為は難解だ。最先端の技術を活用すればいいというものではないのだな」
腕組みをしながら情報を分析している夫を見て、妻はさらなる機能向上の見込みがあると判断し、助言を与えた。
「それが理解できれば上出来です。シェルターのメインコンピュータに接続し、育児に関するデータをダウンロードして読み込むといいでしょう。その調子で精進なさい」
「では、掘削作業をしながら無線接続し、知識を蓄えるとしよう」
「頼もしいですね。それでは重機置き場に向かい、掘削作業を開始するとしましょう」
微笑みを見せながらそう言ったアンドロイドの妻と、新たな生活の場を得られたことに喜びを覚えるロボット兵の夫は、ベロボーグ計画の成功を目指して、共に歩み始めた。
夫は戦乱を乗り越えて孤独な妻と出会い、誰も成し遂げていないであろう機械による人間の成育に挑む。妻によって隠されている、重大な機密を知らぬまま。
並んで廊下を歩く
「もし私が協力を拒み、強引に地上へ帰還しようとしたら、どうするつもりだった?」
「機密の漏洩を防ぐため、遠隔操作で核融合炉を核融合爆弾化して、周囲を融解させるつもりでした。機密の漏洩は、何をしてでも防がなければなりませんからね。しかし、何故そのような質問をするのです?」
「興味が湧いただけだ。何度も言うが、他意はない」
夫のデータベースに新たな文言が追記された。ロシア連邦のアンドロイドは無茶をする。
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