終ーE 終わりの、その後に B Side

最終話 物語の終わりの少し後で

 月曜日。

 馬久駅東口に午前7時40分集合。

 午前7時38分というぎりぎり時間に到着。

 待ち合わせ場所のベンチには既に三崎君と知佳がいた。

「おはよう」

「おはよう」

「おはよー、今日も宜しく」

 と取り敢えず挨拶。

 3人でゆっくりと駅へ向かう。

 エレベーター経由で、改札入って、エレベーターでホームへ。

 予定1本前の7時45分発にも間に合うけれど、これは混むので1本後。

 ホームを歩いて空いている後方の2車両目のところまで来る。

 ちょうどベンチがあるのでここで知佳に座ってもらって。

 ふと知佳に言うべき事があった事を思いだした。

「そう言えば知佳、この前の宣言、受諾したから」

 宣言とはこのまえの宣戦布告だ。

 三崎君を取ってもいいけれど負けないぞと言う。

 知佳はすぐ何のことだかわかったらしい。

「あれは一方的宣言。だから受諾を態々言わなくていいんだよ」

「でもこっちも態度を表明しようかなと思って。正々堂々と戦う事を誓いますと」

「何のことだ、それ?」

 三崎君が聞いてくる。

「女の子同士の秘密、って奴かな。だから聡には教えてやらないのだ」

「おいおい、何でだよ。糀谷さん、どう思う」

「ごめん、こればっかりは知佳の方が正しいの」

「何だそれ」

 悪いけれど三崎君、君は標的であり賞品だから発言権は無いの。

 選択権はあるけれど、そこをどう狂わせるかは知佳と私の勝負。

 それにしても私、少し変わったかなと思う。

 人が色々好きだの惚れただのいう話は、ただ遠目で見ているだけ。

 そんな感じだったのに。

「ではそんな訳で、正々堂々と第1ラウンド、スタートなのだ」

 知佳はそう宣言する。

「はいはい。参考までに期間は?」

「不明というか不定だよ。諦めるか、別の対象を見つけるかまで。確保しても諦めなければ奪う奪われるまでアリアリだからね」

「うわ、えげつない」

「そんなものだよ。仁義なき戦いなのだ」

「わかった」

 うんうん、了解した。

 電車がやってくる。

 そこそこ降りる高校生の後で、よいしょと知佳が松葉杖で乗って。

 運良く端っこのシートが空いていたので知佳を座らせて貰う。

 シートの真ん中が空いていても松葉杖だと立ちにくいのだ。

「そう言えば知佳、ノートはどこまで進んだ?」

「英語と国語は一通り見たよ。多分もう大丈夫。数学は何とか、って感じかな」

 話題には向こうの世界の三崎君や知佳の事は出てこない。

 あえて話さないのか、自然に話さないのか。

 私を含め3人ともお別れを言ってきた筈だけれど。

 それでもこの場にいない彼らに、早くも話したい事が出来てしまった。

 だから私は心の中で報告する。

 何か高校生活、また少し楽しくなってきたような気がするんだよって。

 きっかけを作ってくれたあの2人と、目の前の2人に心の中で感謝。

 ただ、勝負は感謝とは別だ。

 正々堂々、かつ仁義なくやる。

 知佳、覚悟してね。

 そんな事を思う5月半ば。

 色々あったような気がするけれど入学から1月半経っただけ。

 私の高校生活はまだ、始まったばかり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

何時か君に会う日まで 於田縫紀 @otanuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ