第5話妖精の止まり木

ジャンヌに着いていくと、案の定『妖精の止まり木』にたどり着いた。


「ありがとう、ジャンヌ」

「いえ、お礼を言われるほどのことでは」


 そう言いつつも少し顔が緩んでるよ?


 ドアを開けると、チリンチリンという音がした。上をみると、ドアの上の部分に鈴がついている。これの音だろう。


「いらっしゃい!」


 奥から元気な女将さんが出てくる。どうやら食事を運んでいる途中みたいだ。


「こんにちは。宿って空いてますか?」

「空いてるよ!ちょっと待っててくれるかい?」

「はい」


 大きな声で話す女将さん。なんか好印象が持てるよね。


「マスター、参考までに聞きたいのですが、マスターと私は同じ部屋ですよね?」

「は?そんなわけないだろう。気にするなって、金はあるからさ。二人分の部屋を取ってやるから」


 流石に女の子と、それもとびきり可愛い子と一緒に寝れるわけがない。それに俺は紳士だからな。そんな野暮なことはしない。ははぁん、もしかしてこれでジャンヌは機嫌が悪かったのか?


「安心しろって、ジャンヌ。流石の俺もジャンヌと一緒に寝たいなんて言わねえからよ」

「……っ!」


 ジャンヌはその大きい眼を見開いてこちらを見る。まるで信じられないといった風に。

 さすがの俺もそこまで節操ないと思われてたなら傷付くぞ?


「マスター、私は」

「待たせたね!こっちに来てくれるかい?」

「あ、女将さん。分かりました。ジャンヌ、話は後で」

「……はい」


 ジャンヌはなぜか少し悲しそうな表情をしてついてくる。

 もしかして俺、何かやらかしたか?


 女将さんに着いていき、受付みたいなところに案内される。


「えっと、部屋割りはどうするんだい?」

「あ、えっと、俺とジャンヌは部屋を分けてください。二人分の部屋を」

「マス……いえ、それでお願いします」

「ふぅん…いいのかい?お兄さん?」

「はい?俺がですか?」


 どういう意味だ?いいのかいって…


「ま、アタシは強く言える立場じゃないけどさ。ただまあ、後から部屋を変えられるようにはしといてあげるよ!部屋はここから階段を上がって突き当たりの部屋ね」

「あ、ありがとうございます?」

「…マスター。この人は信じられます」

「へ?なに急に?」


 女将さんは仕方ないねぇと言わんばかりの表情で俺を見る。

 それにしても腹が減ったなぁ。この世界に来たときは夕方になる前くらいだったし、少し早いけど飯にしたいな。


「ご飯、いいですか?」

「あいよ、部屋に持っていこうかい?それとも食堂に来るかい?」

「あー、じゃあ持ってきてもらえますか?」

「あいよ!待ってな!」

「はい、あ、ジャンヌの分も俺の部屋に」

「マスター?」

「一回俺の部屋に来てもらえるか?話したいこととかもあるし」

「…!はい」

「二人分持っていけばいいのかい?」

「お願いします」

「あいあい!」


 女将さんは元気よく返事して、料理をしにいった。

 俺はジャンヌと一緒に階段を上がり、教えてもらった部屋に入る。


「ふぅ、なんか疲れたな」

「そうですか」

「どうしたジャンヌ?」

「いえ、何も」


 ジャンヌは部屋の中央に正座して座り、少しキョロキョロしていて忙しない。

 とりあえず俺はベッドに座って、ガチャの詳細を見ることにした。


 スマホを取り出して、画面を起動する。


「えっと…これか」


 このゲームには無駄にガチャ履歴というものがある。そのままの意味で、今までに引いたガチャの内容を再確認できるというものだ。


「これだな。ジャンヌもこいよ」

「はい」


 俺はジャンヌを引いたガチャのリザルト画面を開く。


【Rアイアンレッグ Rアイアンアーマー Rスライムスーツ SRクオリアガード Rアイアンアーマー Rフルーツナイフ Rファイターレッグ R器用ハンド SRシルバーアーム LR『栄光を放つ騎士の剣エクスカリバー』 】


 内訳はこうだ。うん、アイアンシリーズが目につくな。URは無かったらしい。SRが2つ、Rが7つ、LRが1つだな。まあ、これでLRがなかったら糞引きだがLRが出た時点勝ちゲーなのだ。

 ちなみにアイアンアーマーが二つ出ているが、この場合は『アイアンアーマー+1』となって、ほんの少しだけ能力が上がる。


「私が当たっていますね」

「そうだな。良かったよ、最初の仲間がずっと一緒にいたジャンヌで」

「ありがとうございます」


 ジャンヌは少し顔を緩める。


「しかし、ユリアもマスターの仲間でした」

「あぁ、ユリアな。確かにもう一人の俺の仲間だったな。」


 ユリアとは、弓士のLRだ。俺が持っていた二つのLRの内のもう一人。


「まあでも、最初に当てたジャンヌの方が、俺としては心強いよ」

「そう…ですか」


 ジャンヌが何故か顔を背ける。少し見える肌は赤く染まって見える。ジャンヌは最初の頃に当てたLRだ。始めた頃からの仲間で、ジャンヌがいなければ俺は『G2W』はやめてたかもしれない。

 もちろん、ユリアも大切な仲間だが、入手したのはわりと最近でつい一ヶ月前だ。


「そういえばマスター、話というのは」

「ん、あぁそれは一緒にリザルト画面を見る口実だ」

「……そうだったんですね」


 ジャンヌは、なんというか、残念?そうな顔をしている。何故だ?


「もう、マスターはそういう人なんだなと、私は納得しました」

「え?なになに?どういうこと?」

「知りません。それよりも、その装備をつけてみてはいかがですか?」

「あ、うん」


 ジャンヌは諦めたように、だけど気分が晴れたような顔をして笑う。

 とりあえず、体調がよくなったのは良かった。ジャンヌが苦しいのは俺も苦しいからな。


「装備っと…」


 俺は足にアイアンレッグ、体にクオリアガード、手にシルバーアームをつける。


アイアンレッグ


防御力+12


クオリアガード


防御力+36

状態異常抵抗5%


シルバーアーム


防御力+27

器用+5


「おぉ、なんか見た目がゴツくなった」

「似合ってます」

「ほ、本当か?」


 ジャンヌも甲冑みたいなものを着ているが、それに少し似ている。

 まあ、装備は任意で着けたり外せたりできるみたいだから、動きづらいし普段は外しておこう。スマホをタップするだけで良いんだからな。


「それよりジャンヌは甲冑を脱がないのか?」

「そうですね、脱ぎます」

「おう、重いだろう」


 ジャンヌが甲冑を脱いでいき、薄着に変わっていく。中にはあまりヒラヒラしない青色のワンピースを着ていた。


「おぉ…可愛いな」

「っ!」


 不意に呟く。ゲームではジャンヌが甲冑を脱ぐことはなかった。なので少し新鮮だ。水着ガチャという防具ガチャならあったけど、キャラガチャでもないのに回す気は起きなかった。

少しジャンヌの水着姿は見てみたいけどな。ビキニとか。


「似合ってますか?」


 ジャンヌが少し不安そうに聞いてくる。

 答えは決まっている。


「あぁ、俺のタイプど真ん中」

「そっ!そう…ですか」

「あ!ごめん!なんか変なこと言った!」

「いえ…そんな……嬉しいです」

「あ、そう」

「はい」


 ……うぉぉ!なんだこの空気!?すごい居辛いよ!?

 くそう、何か話すこと、話すこと……あ、そうだ。


「ジャンヌ」

「はい」

「今日は世話になったしさ、これからも世話になると思うし、なにかお願いとかないか?俺にできることなんでもするからさ」

「……なんでもですか?」

「え、うん。あ、でも俺に出来ないことはダメだぞ!?流石に何億円出せとか言われても無理だからな!?あ、ここじゃあ何億jか」


 念を押すように聞いてくるジャンヌに少し気押されて自信を無くす。うん、出来ることね?出来ることに限るよ?


「じゃあ、一緒の部屋にしてください」

「え?」

「一緒の部屋にしてください」

「あの」

「一緒の部屋にしてください」

「だから、それは」

「一緒の部屋にしてください」

「NPCかっ!?」

「一緒の部屋にしてください」


 怖い怖い怖い!さっきからずっと同じことしか喋ってないよ!?RPGのNPCかよ!!


「いいのか?俺はジャンヌが一緒の部屋になるのは嫌なのかと思ってたんだが…」

「私が一度でもそう言いましたか?」

「いや、言ってないけど…俺も一応男だからな?ジャンヌみたいに可愛い女の子と一緒に寝るなんて、理性が持つかどうか」

「かわ…!…マスターはズルいです。そんな甘い言葉で責められたら勝てるわけがありません」

「えっと…」


 それは、どういう…


「仕方ないので、ツインベッドにしてあげます」

「ダブルのつもりだったの!?」


 マジかぁ……俺は最初からツインのつもりだったのに、ダブルだったらマジで理性持たんぞ。

 ツインは二つベッドがあるけだ、ダブルはただ広いベッド、つまり同じベッドで寝なければならなくなるということだ。


 ダブルで寝るつもりだったとか…あり得ないことが頭に浮かんでくる。

 う、意識したらなんだかドキドキしてきた。

 ジャンヌはいつもの表情でこちらを見詰めている。鼓動がどんどん大きくなっていく気がする


「なぁ、もしかしてジャンヌって」

「はい」




「俺のことがす―――」

「待たせたね!夕食持ってきたよ!」


 はい分かってたぁー!!いや助かったよ!!

 あの空気に俺は耐えられなかったからね!でもなんか安心したようなすこし悲しいような…


「女将さん」

「なんだい?お嬢ちゃん」

「ツインは空いてますか?」

「あら?そこでうずくまっているお兄さん、なんとか出来たんだね!」

「はい。」

「相当な鈍感坊やだからね!うまく頑張らないとね!」

「はい、部屋に案内してもらえますか?」

「もちろんだよ!こっちに来な!」

「はい」


「え、ちょっと待っ」


 あ、行っちゃった…

 あれ?俺一人忘れられてない?こんなに勇気を振り絞ったのに?……あんまりじゃないかなぁ?

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異世界ガチャでスローライフ~美少女に囲まれて無双します~ クラゲん @kuragen

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