第4話邪教の存在
今の声は…男だな?それも遠い。
「行きますか?」
「おう、探知できるか?」
「お任せください」
ジャンヌの『索敵(ソナー)』を頼りに先導してもらう。
本当に頼もしい仲間だ。そういえばゴッドちゃん。ガチャでゲットしたキャラは言いなりと言っていたけど…はは、まさか。仮にそうだったとしても、僕のような紳士がそんなことをするわけが…
「マスター」
「はい!すみません!」
「なにがですか?それよりも、そろそろです」
不意に話しかけられてつい謝ってしまった。いやいやいや、冷静になれよ俺。そんなことになるわけがないだろう。ポリシーを思い出せ。
「方向的にあそこの路地裏ですね」
「わかった、俺から行く」
「私が先導します」
「え?いやでも、流石に女の子に行かせるわけには…たぶん暴力沙汰だと思うし」
「私のことが心配なのですか?」
「うん。当たり前だろ?仲間だぞ?」
「…そうですか。では前を譲ります」
「うん?そうか、よし!いくぞ!」
「はい」
急な態度の変化に驚きつつ、声の主の元へとたどり着く。
路地裏へ入るとまず目に入るのは、少し小柄な女の子と筋肉のついたしっかりとした男性。
そしてその二人を囲むように立っている鳥のような仮面をつけて黒いローブに身を包んでいる男が三人。これは…
「あんっ!?誰だ!?」
筋肉質な男性がこっちへ問い掛けてくる。さっきの声と重なるな。この人の怒号だな。
「すいません、ただの旅人です。どうしたんですか?こんなところで大勢で」
「分からないのか!?俺たちが襲われてんだよ!」
筋肉質な男が叫び、そのとなりにいる黙っていた小柄な女性が何度もうなずく。
なるほど、まあどっからどう見ても怪しいのはこの三人だよね。ださい仮面つけてさあ。
……それにしてもあの仮面、見たことあるな?気のせいか?
「………」
「マスター、おきをつけて」
三人のうち一人が無言でこちらへと近付いてきて、ジャンヌが俺に注意する。
分かってる。流石にここで気を緩めているほどバカじゃあない。
「て、うぉっ!?」
無言で近付いてきた鳥仮面が急に腕を振り抜いてくる。咄嗟にかわして手をみると、ナイフが握られていた。
「急に襲ってくるとは。それにマスターに手を出すのは許せません」
ジャンヌが俺の前に立ち、『
「待てジャンヌ。ここじゃあ被害が大きくなるかもしれない。それに狭いから長剣は危ないぞ」
「そうですね、では」
ここは路地裏だ。それにあまり広い場所ではない。下手に長剣を使って引っ掻けたりしたら隙が出来てしまう。
するとジャンヌは手を広げてチョップの形にする。手刀というやつだ。
「……三人で行くぞ」
鳥仮面の一人が喋り、三人が一斉に走ってくる。全員、手にはナイフがある。
「ジャンヌ!」
「大丈夫です。この程度」
ジャンヌは全てかわして、更に避わす瞬間、鳥仮面の手首に手刀を打ち、ナイフを落とさせた。
「……ちっ!」
「…一旦出直す」
「…はい」
三人は舌打ちを打って逃げ出す。
路地裏から走っていき、広場に出ていく。もうその人混みの中から探し出すのは困難だろう。
「マスター。あいつらは『索敵(ソナー)』でマークしました」
「さすがジャンヌ。頼りになるな」
ジャンヌがいなかったらね。
「すまない!ありがとう!」
筋肉質な男がこちらへ感謝してくる。
どうやら危機は去ったみたいだ。男は安心しきった顔でこちらを見ている。
隣の小柄な女の人も、安心したのかため息を吐いているようだった。
「いえ、お礼ならジャンヌに」
「マスターが優しいからです。私はなにも」
「いやいや!お二人のお陰だぜ!それにしても綺麗な嬢ちゃんはすげぇな!!素手で渡り合ってやがった!ふははは!」
「あ、私からも…ありがとうございました!」
男は豪快に笑いながらジャンヌを褒めて、女の人は遅れて感謝する。
「綺麗な嬢ちゃんだって、ジャンヌ」
「そうですね」
「あれ?嬉しくないの?」
「私からすればマスター以外からの褒め言葉も悪口も気になりません」
「そ、そっか?」
ジャンヌはツンとした表情で本当に嬉しくも悲しくもなさそうだった。
とりあえず、嫌われてないのかな?多分。
「俺の名前はカイド!よろしくな!こっちは」
「トーナです。この町のギルドの受付をしてます」
「おぉ!そうだった、俺もこの町のギルドで働いてるから、よかったら顔出しな!」
ギルドか、やっぱりこの世界にもあるよな。G2Wでもあったし。
「俺はユウタ。こっちは仲間のジャンヌだ」
俺が名前を言うと、ジャンヌは軽く頭を下げる。
「そうか!ユウタとジャンヌだな!助かったぜ!」
「うん、それよりも、なんでさっきの人たちに狙われてたんだ?」
「あぁ、それについてなんだが、アイツらはここらで有名な邪教なんだよ」
「邪教?」
「マスター、邪教とは過激な宗教のことで、偏った教えを広めるやつらのことです」
「あぁ、なんとなく分かるよ」
「それで、だ。俺たちはギルドを運営しているんだが、最近は冒険者たちによく布教しているんだ。俺たちに関わらないんだったら放っておくてもりだったが、冒険者を引き取られちゃな。こっちも商売だ。だから話をつけるために、関わっちまったらこれさ」
「急に襲われたと」
「あぁ」
「それは災難だったな。じゃあ、ジャンヌ。宿屋を探す続きをしよう」
「はい、マスター」
俺は可哀想に、と思いながら路地裏から出ようと足を運ぶ。
可哀想に、とは思うけれど、これ以上関わるつもりはない。俺はスローライフを楽しみたいからね。正義感に惑わされて無駄に働くつもりはない。
「お、おい!待ってくれよ!」
「なんですか?マスターの手をこれ以上煩わせるのは」
「ぐ……頼むよ…金なら出せるだけ出すからよぉ!邪教の動きが最近活発になってきたんだ!放っておいたらあんたたちにも迷惑が降りかかるかもしれない!そうなる前に!頼む!」
「お願いします!」
出ていこうとする俺たちに、カイドとトーナは頭を下げる。
うーん…そうなると弱いなぁ。俺、今はなんとなく厳しい感じで行こうとしたけど、そもそも人に頼まれるのって嫌いじゃないんだよ。
「ジャンヌ、ダメかな?」
「マスターがしたいことをしてください。私は着いていきます」
「そっか。じゃあ、なんとかしてみるよ」
「本当か!?」
「うん。でも具体的にどうすればいいんだ?」
「場所もある程度分かってる!こちらで詳しく調べて、正確な場所が分かったら壊滅させに行ってほしい!」
「分かった」
カイドがありがとうと叫び俺の体をおもいっきり抱き締める。
ちょっ…ギブギブ……痛い痛いって、ちから強いなお前!?普通に戦えたんじゃないのお前だけでも!
「あ、すまん。」
「い、いてぇ…」
「マスター…そういう趣味が」
「ないよ!」
ジャンヌが恐る恐ると言った感じで聞いてくる。いや、ないから!あり得ないよ!
「じゃあこっちで調べとくからよ!頼むぜ!」
「分かった」
「あ、あの!」
カイドが路地裏から出ていこうとすると、トーナが急に話しかけてくる。近付くと更に小さく見えるな、150後半無いだろう。
「宿屋を…探してるって……言ってました?」
「え、うん。そうそう」
どんどん声が小さくなっていき、最後はほぼ聞こえなかった。もっと自信もって!
「じゃあここからすぐ南にある『妖精の止まり木』って宿屋に行くといいかもしれません!そこを曲がればすぐなので!」
急に声を上げて近付いてくる。おうおう、そんなに良いところなのか?
「あ……すみません」
「いやいや、気にしないで。『妖精の止まり木』ね。行ってみるよ」
「はい!」
トーナは笑顔で返事をするとカイドに着いていく。うんうん、笑顔がいいよね。妖精の止まり木か、行ってみようか。
「ジャンヌ、行こうか」
「マスター」
「?」
ジャンヌがこちらを見つめる。なんだろう、少し、怒ってる?はは、そんなまさか。俺が怒らせるようなことを
「マスターは小さい子が好きなのですか?」
「小さい子?」
子どもってことか?もちろん、大好きだよ。可愛いしな。
「うん、可愛い」
「へぇ。そうですか」
「え!?ジャンヌ!?」
ジャンヌが急に頬を膨らませてこっちを見る。
やっぱり怒ってた?え、でもなんで?てゆうか頬を膨らませてるのも可愛いな。
「知りません、マスターなんて」
「お、おい?待てってジャンヌ!」
ジャンヌは何故か怒って俺の前を歩く。
しかし道は南へ行っているので、多分『妖精の止まり木』まで先導してくれてるのだろう。なんだかんだ、俺のために動いてくれる辺り、やっぱり嫌われてないようだ。
好かれてると思ったら、それは調子に乗りすぎかな?
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