『夕輝』

 夕輝という男は、いつ死んでもおかしくないような奴だった。

 青白い肌。落ち窪んだ目。消毒液のにおい。細すぎる体はいつだって管に繋がれていた。厄介な難病に罹っていたらしいが、詳しいことは知らない。

 肉体とは裏腹に、心は前向きで無邪気で単純だった。そんな奴と喋るのは純粋に楽しかったし、羨ましかった。歳が一緒だったこともあり、僕たちはすぐ友人になった。そして、その関係も長い間良好に続いていた。

 だが、夕輝が纏う死の香りは、年々強くなっていった。

 そして、四年前。夕輝は亡くなった。

 僕は……泣かなかった。悲しいとすら、思っていなかった。

 そして、それは僕だけではなかった。夕輝の妹。夜美も、葬式で一切涙を流さず、焦点の合わない目で前を見ていた。

 あの日。葬式の行われたあの日。

 葬式会場を抜け出して、僕らは併設された庭に来た。夜美は高校生なのに、喪服を着ていた。もちろん、僕も買ったばかりの喪服を身に着けていた。

 地面には真っ赤な彼岸花が一面に咲き誇っていた。まるで鮮血が広がっているようだった。

 


 

 そして、僕たちは約束を交わした。まるで物語のように。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る