魔王代行編

『神のお告げ』の正体



 勇者は深い眠りに落ちていた。



……勇者よ。


……勇者よ。魔王軍討伐、見事でした。


……ですが大陸にはまだ貴方の力が必要です。


……今度の敵は魔王でも人間でもない。


……戦うためには新たな力が必要です。


……魔王の石を手に取りなさい。


……私は万有の女神ユーファリア……。


…………


……




「俺はパンキー・モンチじゃないと言ってるだろ!!」


 寝ぼけて突き出した拳の先、何かが当たった。


『ぐおっ!?』


(……あ、やべ)


 どうやらアレイドに当たってしまったようだ。本人はびっくりしてキョロキョロするも、またその場へと横たわる。殴った方は手を引っ込めタヌキ寝入りだ。


(……寝たか?)


 ノブアキはむくりと体を起こし、辺りを見回した。


 昨晩、グライアス迎賓館げいひんかんの大広間を貸し切って祝魔王軍壊滅無礼講ぶれいこうパーティーを行ったのだ。辺りを見渡すと身分の上下を問わず、大勢の男どもが酔いつぶれて寝込んでいる。横にいるアレイドだけでなく、アルビオンまで巻き込みドンチャン騒ぎとなったのだった。


(……のど乾いた)


 器を見ると水が空になっており、大広間を後にするノブアキ。

 回廊に出て窓を見ると、まだ外は暗かった。


(そういえば昨日、また神からのお告げがあったな……)


 ぼんやりと夢の内容を思い出す。確か中学生時代の教室で……。


(違う違う! それではなくてだな……)


 そう、ユーファリアからの……。

 そうだ、確かにお告げの主は女神ユーファリアと名乗った。


(新たな敵、そして魔王の石か……)


 考えると気になって頭が冴えてしまった。保管してある割り当てられた部屋へ行くと、金庫から例の筒を取り出す。一日経っても魔王の結晶は赤黒い光を放っていた。


 蓋を開けて結晶を取り出そうとしたところ、全身にしびれを感じた。

 あまりのことに叫ぶこともできず、激しい痛みにただ打ちひしがれる。


 やがて痛みが治まると結晶が消えていたのだ!


(ど、どこへ行った!?)


 右手の甲を見ると、いつも神具で光る場所が赤黒く光っている!


「ひっひぃぃ!?」


 血の気が引き、思わず左手で掴む。すると光は収まった。


(なんだったんだ、今のは……)


 まさか魔王の呪いを受けてしまったのか!? すぐアルビオンに相談したかったが、今は寝ている。無理やり起こして機嫌を悪くさせたらこっぴどいお説教が待っているのは明確である。


(……お昼に聞いてみよう)


 自分は女神のお告げ通りにしただけ、害があるものでもあるまい。

 そう自らを納得させ、何事も無かったかのように水を求め出て行くのだった。



…………


 アスガルドとは別の「異界」の密室、一人の娘が水鏡をのぞきながらいらっていた。彼女は言いつけられた仕事をこなしていたのだが、つい昨日同じ組だった二人が不慮ふりょの事故にってしまった。幸い命に別状はなかったものの、重傷を負い暫く安静が必要だという。


 仕事を一人でこなすことになってしまったが、むしろ面倒が無くなってよかったと娘は思った。男など鈍くさくて邪魔なだけ、親の口癖だった言葉通りだと改めて再認識していたところだ。


(このアホといい、ほんま余計なことばかりしくさって。……まぁええわ)


 片方しかないが、大人の倍はあろう彼女の右腕には13本もの指がついていた。

 その指が恐るべき速度で機械のボタンを叩いていく。

 作業が終わると伸びたパイプをくわえ、水煙草みずたばこを吹かした。


堪忍かんにんな。こうせえへんと、うちらがかかさまにお叱り受けてしまうんよ)


 水鏡にはノブアキの右手の甲が映り、二度赤黒く瞬くのだった。

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