レナスの告白
「ねぇ! どこまで行くつもり!?」
だだっ広い空間をレナスの手を取り、滅茶苦茶に移動しまくるファリス。
「ねぇったら!」
「……」
妹の呼びかけを無視するように進むファリス。
遂にレナスの方から手を振りほどいたことで、ようやく移動をやめた。
「……流石にここまでなら追って来れないか」
辺りを見渡すと森のような場所に着いていたのがわかる。生えているのは白い植物のような何かであって、木や草ではない。ゼンマイのように丸まったり、
「それにしても……久し振りだね、お姉ちゃん」
姉の後姿に、妹は声を投げかけた。
35年振りくらいか。神々の時間の中ではあっという間だが、それでも暫く会っていなかった事には変わりない。
「今までどこで何してたの?」
「……」
「ヴァルダスとアエリアスは一緒じゃないの?」
「……」
「ねぇ」
「黙れブス」
妹の方を振り返り、ようやく顔を拝むファリス。
しっかりと身なりを整え煌びやかな杖を握るレナスに対し、姉のファリスはボロッたいローブを羽織り古臭い杖といった
「話せ。さっきユーファリアから聞かれてたこと」
「……どうして」
「いいからさっさと話せブス! こっちは急いでんだブス!」
余りにも勝手。そしてブスブス言ってくる姉に、レナスは段々腹が立ってきた。
「……なによそれ。久し振りに妹に会って言うことがそれなの? それに私がブスってことはお姉ちゃんもブスってことだからね?」
「はぁ? あたしめっちゃ美人でかわいいし。お前はクソブスだけどな」
「はぁぁ!? ばっかじゃないの!?」
神々の会話とは思えないやり取りは続く。
「最強ブスのお前に百億歩譲って望む答えをくれてやる。あたしが出て行ったのはあいつらと居るのに嫌気が差したからだ! 身勝手でブスの女王ユーファリア! 性格も風貌も凶悪に最低センスのラプリウス! むっつりすけべデカ筋肉のギースハルト! 頭でっかちイキリ兎のゼファー!」
「なっ……」
「あんなやつらと一緒によく残れたなお前! 性格ブスのいい子ぶりっこレナス!」
「っ!!!」
言われ、遂にレナスも怒りがピークに達した。
「何よっ!! お姉ちゃんなんか、ただの根暗女じゃない!!」
ファリスの頭の中で「ガーン」という音が響き渡る。
「……言ったなてめぇ、姉より優れた妹などいないことを思い知らせてやる」
「い、いやっ!!」
ファリスがレナスへ掴みかかろうとした時、茂みから二人の影!
『何やってんだお前ら! やめろ!』
『姉妹で何としたことですか……。今年は地上の不作間違いなしですね』
ヴァルダスとアエリアスであった。
「二人とも!? どうして!?」
「……でたな。覗き魔ストーカーコンビ」
「誰が覗き魔ストーカーコンビだ!?」
「心配で後をつけて来たのですよ。それより順を追って情報を交換し合いませんか」
秩序と空間の神に
…………
「……最初に私が見たのは、2500年くらい前だったと思う。みんなは憶えてる? あの頃は四柱も大陸から姿を消して、みんな必死だったよね……」
「地上では超魔道文明、その滅亡直後の頃ですね」
2500年前のアスガルドでは、人間以外の知的生命体が
しかし大陸の外部から来た者から圧力を受け、それを皮切りに大戦勃発。大陸では凄まじい魔道戦争が繰り広げられた。その結果、大陸の先住民たちは滅亡。外部から攻めてきた者らも大陸を住めぬ場所と判断したのかどこかへ行ってしまった。
これに当時十二あった柱のうち、四柱が追放となった。
追放処分された神はその後どうなるのかわからない。消滅するのか、再びどこかの世界の神になるのか、もしくは他の生命体へ転生するのか……。
「確かにあの当時は皆、自分のことだけで精一杯でしたね」
「……みんなが下手くそだっただけだ。あたしはうまくやれてたし」
アエリアスの言葉にファリスが茶々をいれる。
「お前が一番何もしてなかった気がするが」
「……うるせー」
「とにかく、大陸をまた生命の
ユーファリアの私空間を訪ねたレナスが目にしたのは、水鏡で誰かと話す彼女の姿だった。慌てて姿を隠し様子を見ると、水鏡に映っているのは女性のようであったという。何を話しているのかよくわからなかったが、レナスに気付くと水鏡は消えた。
一体誰と何を話していたのか、レナスはユーファリアに聞いた。彼女曰く、異界の神と名乗る者から協力取引の申し出があり、先ほど断ったのだという。皆には心配をかけたくないから黙っていて欲しいと口止めをされ、話は終わった。
内容はどうあれ、勝手に異世界の者と口を利くことは神々の間で禁じられている。
「ご法度じゃん」
「ご法度だな」
「ご法度ですね」
「ユーファリアばかり責めないで! この時は彼女が悪かったわけじゃない!」
口を揃える三柱に、今回ばかりはレナスもユーファリアを
「それに空間の管理はアエリアスの
「……耳が痛い話です。当時私もかなりナーバスになってましたからね。手が回らなかった箇所を突かれてしまったのでしょう」
「同情するぜ。あの時一番大変だったのお前だもんな。……今も大して変わらんが」
頭を抱えるアエリアスにヴァルダスが頷く。そしてレナスの方を向いた。
「けどなレナス。お前が後で落ち着いた時にでも問題提起してくれれば、事が大きくなる前に何とかなったかもしれないんだぜ? 向こうが『万有の女神』でおっかなかったのかもしれねぇが、俺たち七柱相手に
「……それは、私も悪かったと思ってる。でもその後は大きな問題も起きなかったし、みんなうまくやっていけてたから私も無かったことにしようとしたの。……でもユーファリアはその後もたまに誰かと連絡を取り合ってるみたいだった……」
「……話にならねー。ブスの上に馬鹿とか終わっとるマジで駄目だわこいつ」
話の腰を折るかのようにファリスが漏らす。
「おい、そんな言い方はねぇだろ!」
「いくらなんでも言い過ぎですよファリス」
「……ふん、お前ら甘ちゃんだよ。大体こいつさ、あたしらが出てったのに自分だけ残ったじゃん。姉のあたしが出てったってのに残ったんだよ? 普通ありえなくね? きっと自分だけいい思いしようとか、ちやほやされたいとか思ってたに違いな」
「だってあたしまで出てったら! お姉ちゃんたち追放されちゃうでしょ!!」
「っ!」
三柱が一斉にレナスを見ると、彼女は大粒の涙をこぼしていた。
レナスは残りたくてユーファリアたちと一緒に居たわけではなかった。本当はファリスたち三柱と出て行きたかったのだ。
しかしそうなると神々の追放審議にかけられる可能性があった。現に今までに何度か三柱の処遇について、均衡と制裁の神「ラプリウス」から提唱があったのだ。その都度処遇は保留となっていたわけだが……。
追放の決定は神々の満場一致が条件である。
それを知っていたレナスは残り、審議が行われたら反対を貫こうとしたのだ。
無論、姉妹神である姉を追放させないために……。
「……私だって……お姉ちゃんたちと一緒に居たかった……。ユーファリアのことだって信用してたわけじゃない……。異世界から勇者を呼ぶって話も、本当は反対したかったし……。勇者たちのために神具を造ろうってなった時だって……」
「神具、ですか。あんな強力な代物をどうやって造ったのです?」
アエリアスの問いに、レナスは激しく首を振った。
「みんなユーファリアから『神具の材料』を渡されたのよ! ……でも私は造れなかった。……得体の知れない異界の者から手に入れた物だって感付いて、怖くて造らなかったのよ!」
「な、なんだと!? じゃあ勇者の仲間だったあの『ルシア』ってのは何者だ!?」
驚くヴァルダスの言葉にも、やはりレナスは首を振った。
「知らない! だって神具を造っていないし、誰も選定した覚えはないもの! だから彼女が現れた時は恐ろしかった……。誰にも相談できなくて怖かったの……」
そう言ってレナスは顔を覆い、泣き出してしまった。
「……すまん、苦労を掛けたな。よくぞ話した。それでこそ姉ちゃんの妹だ」
レナスに手をかけ慰める振りをするファリス。これにアエリアスとヴァルダスは「こいつ適当だな」とか「いい性格してやがる」とか心底思うのだった。
「これでようやく謎が見えて来たぜ。……見ろよ、地上じゃ勇者の奴が動き出した。このまま本気で魔王城へ攻め込む気だ。干渉はご法度かも知れねえが、このまま黙って見てるだけでいいのか? 俺たちは」
水鏡を作り出すヴァルダス。
そこには雲の上を行く空中戦艦の姿が映し出された。
「我々の仕事ならあります。実はここに来るまでにまた異界からの干渉、今度は大規模なものを捉えました。発生源はなんとユーファリアの私空間付近です」
「なんだと!? ようし、行ってやろうじゃねぇか! 今度は逃がさねぇぞ!」
「……だと。レナス、一緒に来れるか?」
「……うん」
団結した四柱はユーファリアが居た空間付近を目指すのだった。
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