現れた秘密兵器


 後日の朝方。魔王軍作戦室は進軍しつつあるグライアス軍を捕捉ほそく。こちらからも打って出る戦術を展開した。戦車を横列に並べての進軍、乗っているのはグライアス幽霊ゴースト兵だ。

 ゴーストは憑依ひょういした人間を自由に操れるだけでなく、記憶を読み取り、更に書き換えることまでできてしまう。戦車の修理、操縦までお手の物だったというわけだ。


 会敵かいてきするまでゆっくりと前進する戦車隊を盾に、後方から続くリザード部隊。

 今回、ルスターク将軍が自らが出ている。

 やはり先日のことが関係しているのだろうか……。


「自軍の戦車隊についてどう思う?」


 前進しながら将軍は、横を歩くマードルに声をかけた。



「あっしはまぁ、魔王軍へ配属になったらこういうこともあるだろうなとは覚悟しておりやしたが、よく思わない者もいるかと……」


 作戦行動中に突然声をかけられ、困惑気味に答える。


 リザードマンの戦いには美学があった。例えば他種族であっても非戦闘員、女子供に極力手を出さない。

 そしてスケルトンやゴーストなど、アンデッドを人一倍嫌う傾向にあった。不死者の多くは元々戦死した者たちだ。誇り高き戦闘種族にとって、戦死者すなわち絶対的な敗者なのである。敗者が未練がましく戦場に出てくるのはこの上なく恥ずべきこと。そう考えるリザードマンも少なく無かった。


 リザードマンの里を訪れた魔王軍の骸骨兵が攻撃された理由も、恐らくは……。



──将軍。いま一度、戦場へ


 ルスターク将軍は先日、自ら不死部隊へ志願した老兵へと思いをせる。


 将軍、いや、リザード兵の殆どは生前の彼がどんな立場の者なのかを知っていた。30年前の大戦で彼の隊は少数の人間により半壊に追いやられ敗走。命からがら帰郷を果たすも、皆から白い目で見られ、一人里のはずれに住んでいた。過去の雪辱せつじょくを晴らすこの上ない機会、そう考え今回の義勇軍へ参加したに違いない。


 リザード隊に老兵を悪く言う者はいない。

 ルスターク将軍を始めとする義勇軍は、むしろ彼を応援する立場にあった。


 それでもやはり、戦死者は敗者なのだ……。


(……わからない。戦に敗北し、また立ち上がり、そして戦う。その果てに一体何があるというのか? 価値ある勝利への喜びか、はたまた無限地獄か……)


 生ある者は理由あるからこそ戦う。

 理由なくして戦うなど、地獄そのものではないか……。



…………


 巨人の遺跡の作戦指令室で、アルムは巨大モニターをにらむ。グライアス軍の編成に違和感があり、思惑をめぐらせていた。


(思ったより戦車の数が少ない。あの大きな輸送トラックはなんだ?)


 グライアス軍はほろのかけられた巨大な何かを守るようにし、ゆっくりとこちらへ前進してくる。


(大砲? ミサイル? ……まさか核弾頭じゃないだろうな?)


 掴みどころのないノブアキと非道なグライアスのことだ。約束を無下むげに破ることも十分に考えうる。


 アルムの携帯端末に暗号メールが入った。


『積雪のため、延期』


 ビッグラット部隊のグローからである。再びシマネズミを使って偵察を試みるも、今度は基地に大量の猫いらずが仕掛けられていたため苦戦しているようだ。


(流石に対策されたか……)


 こうなれば幽霊兵を直接スパイとして送り込むしか無いだろう。

 巨大モニターを見上げると、敵の隊が足を止めたところだった。


「セレーナ、幽霊兵たちに戦車を止めさせて! リザード兵も一時待機!」


 まだ双方、射程距離には程遠い。嫌な予感のしたアルムは両軍の戦車の砲身を比較させてみた。すると敵戦車の砲身は長さと形状が微妙に違うことがわかる。


(……流石に相手も馬鹿じゃない。戦車が奪われたことを知りこちらよりも射程距離を伸ばして来たんだ。どうする? 予定では挟撃きょうげきか強攻突破だが……)


 やはり気になるのはあの幌の中身だ。

 正体はわからないが、この場で破壊しておきたい代物に違いない。


「黒魔術師と待機の強襲隊へ準備連絡を!」

「了解」


 暫くして、敵部隊が再び前進を始めた!


「特殊徹甲弾発射!」


 待機していた自軍戦車が砲撃を行う。当然飛距離は届かず敵軍より大分手前へ着弾したが、これも作戦のうちである。


「強襲隊攻撃目標、敵中央の大型車両荷台!」

「転送を開始、3、2、1、今!」


 目の前に突然戦車隊が現れ、敵軍は足を止めた!

 

「強襲隊、一斉砲撃!」


 大型車両の幌がかかった荷台へと、アルベドニウム製の三式弾や徹甲弾が複数撃ち込まれた。同時に強襲戦車隊は敵の集中砲火を浴びる前に前進を開始する。このまま敵軍をすり抜け、敵オアシス基地へと強攻突破するのだ。


 だがこの時、幌の中から伸びた何かに突破を試みた戦車の一台が掴まれた!

 それは『赤くて長い腕』、例えるならタコの触手のような腕だった!


(な、なんだあれは!?)


 砂煙の中から赤くて巨大な球状の物体が姿を現す。丸い体から生えた短く太い足で砂地へ立つと、もう一本の細い触手で再び戦車を捕まえた。二輌の戦車は互いに衝突させられ、潰れてしまった。


「あんな兵器、異世界の文献にはなかったぞ!?」


 いや、そもそも兵器と言えるのか?

 そんな独特な姿をしている。

 まるで異世界の漫画に登場する巨大ロボットだ。


 巨大ロボットは足からバーニアを噴出させると素早く後方へ回り込む!

 そして次々と突破を試みる戦車を捕まえてはぶん投げ始めた!



──アルム! 聞こえとるか!?


「おじさんたち!?」


 巨大モニターが突然切り替わり、ドワーフたちの姿が映った。


──奴を倒すにはあれしかない! すぐ魔王城の作戦室へ来るんじゃ!



…………



 一方で、グライアス軍。赤い巨大ロボットを遠隔操縦していたのは勇者ノブアキであった。一台の戦車の上に立ち、肉眼で戦況を把握しながらリモコンを握っている。VRでの遠隔操作も考えていたが間に合わなかった。


「はっはっはっ! 見たまえ! 戦車がおもちゃのようだ! そしてこれも重力制御システムの応用だよ!」


 ノブアキがリモコンを操作すると、少し離れて走行している戦車を引き寄せてみせる。そのまま掴まれ、放り投げられた戦車は爆散した。


「うーん。できれば超電磁砲とかバスターランチャーとか小型ビットとか色々つけたかったんだけど予算の関係で間に合わなかったみたいだ、残念残念」


──で、これは一体なんなんですか?


 アルビオンからの呆れともとれるテレパシー。


「この機体の名前は『オーディン』。異世界神話に出てくる戦神の名前だよ。どうだ、かっこいいだろう?」


 勇者がこう言うも、アルビオンは正直赤い巨大な化け物が暴れているとしか思えず、カッコイイとはお世辞にも言えなかった。まぁノブアキが御機嫌なので、それで十分だとは思った。

 このオーディンの有志を報道するため、王都から戦場カメラマンを大勢呼び寄せたようだ。トラックから人間が続々と飛び出しては、カメラで写真を撮っている。


(どうするアルム? 私はこんなすごい兵器を作ってしまったぞ? お前なら一体どうやって止めてみせる? フハハハハハ!!)

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