真・シャリア無双
現れた魔王の格好に、一同は目を疑った。いつもは黒を基調とした厚手の服を着ている筈が、全身真っ白な薄い布を
こんな切羽詰まった状況下でオシャレなどしていたのか、いやどう見ても10年早い恰好だろうそれ、といった視線にも気にせず、シャリアはアルムの前へと歩み寄る。
「
「い、いまはそんなこと言ってる場合じゃ……」
アルムはガツンと言い返してやりたかったが、目のやり場に困りどもってしまう。シャリアをまともに見ようとすると、シースルー越しに見える際どいラインが視界に入ってしまい、
知ってか知らずかシャリアが更に詰め寄ったところで、アルムのフードから何かが飛び出し、二人の間を
「ちょい待ちなよアンタ! 今更ノコノコ出てきて何を偉そうにしてんのさっ! 今は言い争ってる場合じゃないだろ!」
「セ、セス!?」
今までフードの中で寝ていた
「第一何だその『へそだしるっく』は!? ちんちくりんにゃ10年早いっての!」
「……貴様も他者に言えた
「な、なにをぉ!?」
バチバチと二人が火花を散らしていると、フロアの扉が開いた。
『シャリア様専用、耐太陽光ローブ砂漠仕様ですじゃ』
ラムダ補佐官が小さな機械を手に抱えながら現れたのだ。顔は小さな手の形で
「そういうことだ。リザードどもを助ければよいのだろう? セレーナ、黒魔術師と二重魔法陣の準備を致せ。余も
「魔王様、先ほども言いました通り、この
「
「ひ、干物……」
突き放すように一喝し、皆に構わず黒魔術師たちと特殊魔法陣形を組む魔王。
転移して早々、神術を発動させる気だ。
「ちょっと待ってくれ! あの戦車はアルベドニウムでできているんだぞ!?」
「それだけではありません! 戦車には勇者も乗っているのです! 危険です!」
最後に止めようとしたアルムとルスターク将軍の声にも、どこ吹く風の表情。
「だからどうした? ついでに首をとってくればよいのか?」
…………
砂漠では完全に目標を
「あれはリザードマンですね。学生時代の魔物生態学で習いましたが、理性が高く、過去の大戦でセルバを占領したとか」
「奴らはどういう訳か死を恐れない、厄介な連中ではあったよ。まぁ
「ふむぅ……では奴らを餌に大物がかかるのを期待するのは無駄かもしれませんね。このまま
アレイド指揮官は戦車隊を突撃させるべく、攻撃目標を一点に
(どうしたアルム、おしまいか? 圧倒的な力の前では策など無力に等しいのだよ。もし君にそれがわかっていたなら、魔王軍の軍師などやらなかっただろうにな)
三式弾を装填する兵士を見つめながら、ノブアキは宿敵を思った。
──何かが転移してきます! これは……この邪悪で強大な魔力は……!
「魔王軍の増援か!?」
戦車隊が第二の一斉砲撃を行った、その直後であった。
『ジェリカル・フォース!』
突如現れた巨大な魔力の壁! 放たれた三式弾は全て
生き残ったリザード兵たちは一瞬何が起きたかわからず戸惑うも、自軍の黒魔術師たちが現れたのを見て救援が来たことを知る。そして、声!
「退却しろ!
『魔王様っ!?』
『魔王様だっ!!』
シャリアはリザード兵たちに目もくれず、神術の壁ごしから上位呪文を放つ。
「グラウンドブレイク!」
砂漠に地響きが起こったかと思うと、目前の戦車群の辺りで
隆起した砂の大地から勢いよく巨岩が飛び出し、いくばかの戦車をはねのけた!
(兵器にばかり
破壊された高射砲を踏みつけると、
特殊三式弾の欠片、
「……」
シャリアが次に戦車群へ目をやると、ひっくり返った戦車を他の戦車が立て直そうとしている光景が映った。そううまくいくかと思われたが、意外にすんなりと元の姿勢へと戻るのだ。戦いでこうなることを想定していたかのように、戦車には重力姿勢制御装置が備わっていたのである。
その救助作業を守るかのように、今度はシャリアへと砲撃が放たれた!
「……おもしろい! 遊んでやる!」
三式弾の雨を受け、凄まじい爆発が起こった時、そこにシャリアの姿はなかった。
既に砂上を稲妻のように走り抜け、戦車隊へと突っ込んでいったのだ!
白い稲妻は一台を捉え、刃の一閃を放つ!
「え、あ?」
中にいた戦車長は同乗していた兵士が人形のように崩れ落ち、視界が明るくなっていくのをただ唖然として見ているだけだった。
そして青空が見えるようになった車両へと、白い何かが侵入して来るではないか。
「こ、子供……?」
驚き立ち上がろうとして転び、自分の足が斬られていたことがわかる。ここでようやく状況を
「ぎ、ぐべぇ……!」
魔王の手によって首をへし折られ、持ち上げられる戦車長。
更に魔王は周囲へと見せつけるかのように、
(むっ!)
無情にもそこに機銃射撃が行われ、人質は目も当てられぬ姿へと変わり果てる。
「はははっ! 良いぞ殺し合え! それでこそ人間だ! ひゃははははっ!!」
既に魔王はその場におらず、次の標的、またその次と刃を振り下ろしていた。
アルベドニウムの戦車が次々と、バラバラになっていく……。
「どこだ勇者よ? これか? ……ここか? ……はははははっ!!」
…………
一方で、巨人遺跡の作戦フロアでは、ギャラリーを増やした魔王軍が巨大モニターに映るシャリアの姿を
「あのお姉ちゃん、すっげぇー!」
魔黒竜の子ジークフリードがはしゃぎながら飛び回る
「わかってんだろアルム? 今ここに立ってるあんたは目を
戦争とは、人間を敵に回し、魔王軍に味方するとはこういうことだ。本当にお前は自覚してそこにいるのかと、突き放し、問いただすかのようにセスが
「わかっているよ。逸らしたりしない、絶対に……」
だが斬られた戦車から爆発が起こり、一瞬激しい光を受けて横を向いてしまう。
ふと、すぐ横でラムダ補佐官が手に持った機械を見ていることに気付いた。
なにやら
「ラムダさん、さっきから何を見ているの?」
「……これはシャリア様のローブに備わっているマイクロマシンから、魔力、脈拍、心拍数、その他の数値を測り取る機械ですじゃ……」
見ると機械にはいくつもの針がついており、それが左右に激しく振れている。
「シャリア様が砂漠に来られるのは今回が初めて……。先代魔王ヴァロマドゥー様が太陽光を苦手としておりましたゆえ、シャリア様も心配でなりませぬ……」
「でもあのローブにはその耐性があるんでしょう? それに今だってあんな元気に」
このまま一人で大陸を制覇してしまう勢いではないか。そう言おうとしたアルムへと、ラムダ補佐官は耳を貸すよう促し、周囲に聞こえないくらいの小声を出した。
(シャリア様は生まれながらにして、体が
(えっ!)
信じがたい初耳であった。だがしかし、今までのラムダ補佐官のシャリアに対する態度で、それが嘘でないことがわかってくる。
(ただ日の光を浴びるだけならまだしも
(……)
アルムは再びモニターのシャリアへと目を移す。
二人の密談を唯一、小さな妖精だけは聞き逃さなかった。
…………
「各車両、散開せよ! 散開しつつ下がれー! ひいぃぃ……」
グライアス軍戦車の中、アレイド指揮官は味方がやられる度に顔色を変えていく。
なにしろ戦車は特別中の特別仕様、たった一輌で一体いくらするのかわかったものではない。破壊されるその度、自分の出世が遠のいていく気がした。
「ノ、ノブアキ様! まことに、まことに心苦しいのですが……!」
「ふ、わかっている。私に任せておくがいい」
ようやく自分の出番が来たか、とノブアキはハッチに手をかける。
ハッチを開けたところで勢いよく外へ飛び出したのだ!
「たぁぁぁぁぁぁぁう!!!」
空中でクルクル何回転もすると、勇者ノブアキは魔王の前に立ち
「そこまでだ幼女!! 我が名は……!」
即座にシャリアから放たれる魔法、ノブアキの体は炎に包まれた。
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