第十八話 決戦!アーロンド大砂漠
父の旧友、旧友の息子
魔王軍とグライアス冒険者連合軍。二つの勢力がアーロンド大砂漠にて衝突するのは目前であった。それに
エルランドでは領主がおらず、セルバ市のマルコフが中心となり市政がなされている。魔王が見せしめに歯向かう人間を処刑しまくった影響は大きく、友好的と言うより従順であると言ったほうが正しいのかもしれない。
ヴィルハイム騎士団領は
しかしこれらは魔王軍との休戦協定を守るには好都合だった。更にはユリウスが裏で魔動列車の線路を破壊する工作を指示。王都やグライアス側には魔物によって破壊されたと報告した。
聖地ラカールのあるカスタリア領や、その南に位置するマウリア領は特に目立った動きはない。強いて言うなら少数の聖戦士隊や傭兵部隊が派遣された程度か。噂では僧侶アルビオンからの指示があったとのことだが
その一方で、王都バルタニアでは世論が真っ二つに分かれていた。魔王軍討伐に関与しない騎士団を批判する声と、もう一方は勇者ノブアキとグライアスの強引なやり方に異を唱える声である。真っ向から対立する意見でないにしても、衝突して暴動が起きかねないと判断し、王都議会は取り締まり強化を決定づけた。
このドサクサに
そして場所はアーロンド大砂漠。勇者ノブアキはアルムの到着を待っていた。暇つぶしに持ってきた新聞には『衝撃! 異世界勇者の変態私生活とその実態!!』の見出しがされている。
異世界『ニホン』にいた頃は番組欄か四コマ漫画しか目を通さなかったが、流石に自分のことが書かれていると気になるようだ。
「……ふん。やはり異世界に来てもマスコミは
ノブアキはため息をつくと、風魔法で新聞をバラバラに切り裂いた。
──これを機に、今までの
僧侶アルビオンの
「おいおい私は今までしてきたことに悔いなんかないぞ」
──言うと思いましたよ……
──ところでこの情報操作、エランツェル卿の仕業とみて良いでしょう
──このままあの親子をのさばらせておいて良いのですか?
「今はな。それより魔王軍の動きがないかしっかり見ててくれよ?」
──心配しなくても見てますよ
──おっと、言ってる
「きっとアルムだな。どの辺りから現れた?」
──昔、我々が探索した巨大地下ダンジョンを憶えてます? あの辺りですよ
「なるほど、『巨人の遺跡』か。あそこが彼ら魔王軍の前線基地というわけだな。 ……よかったな君、アルムが来たぞ? 見捨てられずに済みそうだな」
そう言ってノブアキは特注の鳥かごへと入れられた人質のサディへ、いやらしい
魔物を捕らえるために作られた特注の鳥かごは、入れられた者の力を奪うようで中のサディは抜け出すことが出来ずにぐったりとしている。得意の風魔法や超音波もここでは使えない。そればかりか砂漠の熱気がどんどん彼女の体力を奪っていくようだった。寒気に強いハルピュイアは熱気に弱いのである。
「……このゲスッ!」
ズタボロの体を持ち上げ、そう吐き捨てたのがやっとである。
これをノブアキは高笑いでかき消した。
「ハハハッ!それにしても一人で来いと言ったのに、お供付きとは感心しないな」
──だんだんと高度が落ちてますね。途中で降りるのでは?
「そうかそうか、なるほどな」
ノブアキはニヤリとして、アルムが現れるであろう目の前の砂丘を見上げるのだった。
…………
「もうこの辺りでいいよ。降ろしてくれ」
低空で飛行するハルピュイアのファラへ、掴まれていたアルムは声をかける。
目前の砂丘の向こうからは目印の青い煙が立ち登っている。あの向こうにサディを捕まえたノブアキが待ち構えているのだろう。
ファラはアルムを砂漠へ降ろすと、相手の数を確認しようとマジックタブレットを取り出した。これにアルムは手を掴んで制止すると首を振る。
「大丈夫だよ。例え罠でも捕まる前に逃げ帰るさ」
「……では軍師殿。サディのこと、よろしくお願いします」
ファラは名残惜しそうにそう告げ、翼を広げて去っていった。
(さてと……)
何もない広い大砂漠へ取り残されたアルムは、一人目印の方へと歩き出した。
砂丘の
(いくらなんでも
今日のアルムの装備は、魔王城の倉庫にあった魔防具で全身を固めている。
これは本人が望んだわけではない。勇者と直接対峙するのだからと周囲から強制的に装備させれてしまったのである。
保冷剤と鎧の特殊効果のためか砂漠の暑さは感じない。重さに至っても同じだ。
しかし何よりも動きづらく、それだけで体力を消耗しそうだ。
(……やれやれ)
砂丘の頂上付近で立ち止まると、持ってきた水筒を開ける。今思い起こせば一番装備を選定していたのはシャリアであり、一生懸命選んでくれていた気もする。
気持ちはありがたいが、普段の態度からするに新手の嫌がらせではないかとも
そして、砂丘の頂上に着いた。
『おーい! そこにいるのはアルム君だね!? 降りてきたまえー!』
『アルム君!? 来ちゃダメぇぇぇ──っ!!』
眼下にノブアキと思わしき姿と、
その光景にアルムは
(どう?)
──二つの他に気配はしない
(そう。今から降りるよ?)
何者かにそう声を掛けると、バランスを保ちながら砂丘を滑り下りたのである。
「やあやあアルム君、直接会うのは久し振りだね。きっと来てくれると思っていたが、その格好は何かね? ……まぁ絶対強者である私と会うなら、それなりの装備は必要だろうけど……プププッ!」
ターバンにローブ姿で誰かと思ったが、仮面を見てノブアキだと悟った。一見、昔の異世界でブレイクした人気番組「
……まぁ、お互いにどっちもどっちな格好ではある。
「まずは彼女を解放しろ! どんな話があるのか知らないが、まずそれからだ!!」
馴れ馴れしく近づこうとするノブアキに対し、アルムは叫んだ。
「よかろう! 私は
そう言うとノブアキは鳥かごへ近づき、
「ゲス野郎! お前なんかぶっ殺されちまえっ!!」
姿が消える
これに前へ出ようとしていたアルムは歩みを止めてしまった。
「……おいおい、誤解なら
「……僕に何の用がある? さっさと言え」
敵意むき出しのアルムに、ノブアキは再びニヤリとした。
「用事と言うほどでもない。君が生きているか確認したかったんだ。アキラと同じ病気で死んでしまったのではないかと心配してたんだよ」
「……心配だと?」
「あぁ心配さ。散々コケにされた相手に病気で死なれては、こちらとしても本意ではないからな。君は私がこの手で打ち負かすと決めたのだ、当然だろう?」
「話はそれだけか?」
「そうだ。それだけだ」
余裕たっぷりに言い放つ勇者ノブアキ。
これから戦う相手の心配をするなど、それだけ実力には自信があると言いたいのだろうか。
「なら僕からも一つある」
「ほう? 何かな?」
「戦いに核兵器の使用は無しだ!」
「……」
アルムの思わぬ言葉に、ノブアキはポカンとする。
しかし、突然拍手を始めたではないか。
「……素晴らしいぞアルム君! 安心したまえ、こちらは核ミサイルも核爆弾も保持してはいない。なんせ原料のウランが発見できなかったからなぁ」
この言葉は半分嘘である。
ウラン自体はグライアス側で発見し、既に採掘、研究を終えていたのだ。
「……そこに気が回るとはな。流石はアキラの息子だ」
旧友の息子に対し、ノブアキの本心から出た言葉。
これにアルム自身は酷い嫌悪感を
「……なぶるなよノブアキ? 僕はお前という存在を絶対に認めない」
「やれやれ、もう勝手にしたまえ。……で、戦いはいつから始めるんだい?」
「たった今からさ」
その瞬間アルムの鎧からセスが飛び出し、まばゆい光が辺りを
「ぐうっ!?」
ノブアキはこれをまともに見てしまった。装備していた仮面はノブアキが異世界にいた頃アニメ専門店で購入したものであり、さほどの
「くそぉ!! アル、何が起こった!?」
──くっ……こちらも今の光で……ノブアキ! 上から来ます!!
「何っ!?」
──そんな馬鹿な!? いつの間に転移先を設置したんだ!?
「勇者バリアー!!」
防御魔法のシェルガーディアを瞬時に放ち、なんとか難を逃れようとする勇者。
しかし覆いかぶさるネットにサイレス鉱石が仕込まれているのか、徐々に魔法の壁は
「ちぃっ!」
ノブアキは腰の剣を抜くと、自ら張ったバリアーごとネットを切り裂く。
だがそこへ今度はロケット弾が打ち込まれた!
『撃ちまくれー!! 相手は勇者だ! 遠慮すんな!!』
ブルド隊長の
(……やってくれたな! アルムッ!!)
爆風にぶっ飛ばされながら、かろうじてノブアキは回避をし続ける。
──大丈夫ですか? と言うより、反撃しないのですか?
「
あくまで自分のやり方を貫こうとするノブアキ。
まるでオリンピックランナーのように砂上を走り続ける。
「ハハハハハハハハッ!!!」
直撃を受けること無く、ノブアキはオアシスの方向へと走り去ってしまった。
「クソが! 予想以上の逃げ足だ! ……すまねえ軍師、ヤツを逃しちまった!」
爆風が晴れ取り逃がしたことを知ると、ブルド隊長は小型通信機をつける。
──すぐ
「了解した。……野郎ども!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます