第十二話 もう、勇者なんていらない
神々の誤算
アスガルド大陸のある世界とは別の空間に、神々の住まう世界がある。
しかしながら神々は
よって神々がお互い偶然に出会うことは滅多に無い。
アスガルド時間で数年に一度、八柱の集まりがあること以外には……。
「ユーファリアの次は君か。てっきりラプリウスあたりが僕を冷やかしに来ると思っていたんだけどな」
探求と
ゼファーを訪ねてきたのは
姉のファリス同様、ローブに杖を
「……ユーファリアがここへ来たの?」
静かな安らぎある、飾りない口調でレナスは尋ねる。
これに対し、ゼファーは
「そんな訳ないだろ、
「違うわ。でもユーファリアと同じことを聞くかも……」
「……まあいいや。折角来てくれたし始めから話してあげるよ」
「ありがとう」
素直に礼を言うレナスに、ゼファーは思わずにっこりとした。彼は神々の中でも好き嫌いが激しく、気難しい一面がある。そのため他の神々と一緒にいることなど滅多に無く、ほぼ一年中自分の領域から出てこない。
そしてゼファーは同じ女神であっても、ユーファリアよりレナスの方が好きだった。ユーファリアは大変な力を持っているが、
「……と言うのが最近まで起こった話かな」
ゼファーは丁寧に「英知の杖」に関する
話が終わると待ち構えていたようにレナスは詰め寄る。
「ヴァルダスに会ったの!?」
「うん。でもアエリアスや君の姉さんのファリスは一緒じゃなかったよ」
「そう……」
「言っとくけど僕が神具を他者に与えたのは、ヴァルダスの言ってることが正しいと思ったからでも、奴に『こぶらついすと』とかいう技をかけられそうになったからでもないからな! ちゃんとした理由がしっかりとあるんだ!」
「??? ……う、うん。わかってる」
レナスは「こぶらついすと」が何なのかわからなかったが、ここは納得した方がいいだろうという結論に至り、返事する。兎の神様は得意げに何度も頷くが、そのうち段々と下を向き、ピンと立てていた耳が
「……でもね、本当は
キスカのことを言っているのだろう。
そして今、英知の杖はソフィーナが持っている。
ゼファーは小さな杖を出すと円を描き、「これを見ろ」と言わんばかりに水鏡を作り出した。
水鏡に現れたのは、勇者たちが魔王ヴァロマドゥーを倒した、その後だった。
アルビオンは持ち前の能力と神具を用い、次々と自分の気に入らない人間を排除していた。
ラフェルは罪人や貧しい者を捕らえては他所に強制送還し、ある時は人体実験の材料としていたのだ。
つぎに映されたのはグライアス領の中心地、高い建物が立ち並ぶドルミア市の姿だった。高度に魔法科学が発展し、大通りには新型鉱石車がひっきりなしに走っている。その路地裏では疲れ果てた労働者が腰を下ろし、酒に溺れていた。街を出ることが許されず、ただ労働を強いられる日々。市民の下流階級は、その大半が明日への希望を見出だせず、苦痛に耐えながら生き長らえていたのである。
最後にこの状況を知ってか知らずか、建物の高層にて女の子と御馳走に囲まれ、連日のように馬鹿騒ぎをしている勇者ノブアキの姿が映し出された。
「君はこれを見て、どう思う?」
「……酷い……彼らは本当に魔王を倒した勇者たちなの……?」
「勇者である前に愚かな人間に過ぎなかった。その成れの果てさ」
水鏡を消すと、ゼファーは再びレナスを見上げる。
「彼らがこうなってしまう前に、異世界へ送り帰すなり、神具を取り上げるなりをすべきだったんだ。でも君も知っての通りそれはできない。彼らは不老不死の薬を飲んでしまったからね。無理に戻そうとすれば、世界の秩序が壊れるらしいよ」
まだ神々の世界に八柱が揃っていた頃の話だ。
勇者たちが不老不死の薬を飲んでしまい、神々の間で緊急招集が呼びかけられた。
元々非協力的だった三柱が姿を消したのもこの時である。
『勇者がこの先どんな善行を積んだとしても、その場しのぎの結果論に過ぎない』
それが去りゆく三柱の最後の言葉だった……。
「でも実際勇者たちは役立ち続けている。大陸は魔王が現れる以前よりも安定し、急速に成長し続けているからね。問題なのは目に余る
「ユーファリア……いえ、私たちはそれに目を
言いかけたレナスはハッとしてゼファーを見た。
彼の目が大きくなり、真っ赤になってこちらを見ていたからである。
「……君は一体何を言っているんだい? 僕らにできるのは神具の保持者を決定することだけだよ? 取り上げることができるなら、とっくにやっていたに決まっているじゃないか。そもそも君も神具を彼らに与えた神ならそれを知っている筈だろ?」
「あっ……そ、そうだったわね。忘れてた」
「嘘だな。それとも僕が『探求を司る神』だってことも忘れたって言うのかい?」
失言し、黙って下を向いてしまうレナス。
この様子にゼファーは詰め寄るのを止め、くるりと向こうを向いた。
「……これ以上の
「……ごめんなさい」
「謝られても困るよ。それよりも
「……」
「わかったらお帰りよ。僕は一人で居るのが好きなんだ」
顔を見せぬまま、冷たくそう言い放つ。
すっかり元気を無くした客人がその姿を消すと、空間には主以外に誰も居なくなった。
(……素直に打ち明けてくれたならなぁ。僕で良ければ相談に乗ってあげたのに)
己の不器用さに悩みつつも、地面に生えている人参を引っこ抜き、そのまま
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