戦い、守る者たち


「突撃ーっ!刃向かう人間は容赦ようしゃするなーっ!!」


(く~っ!魔王軍に入ったら一回言ってみたかったんでやんすっ!)


 セルバ西では、リザード別働隊の隊長を任されたマードルが先陣を切っていた。

 しかし突入後、内壁で守備についていたセルバ兵から弓が飛んでくる。皆これを何とか大盾で防ごうとするも、今度は正面から向かってきた兵士らと押し合いになった。


 乱戦となる中、内壁の上に立つ治安維持部隊の髭面ひげづらの男。


「どいてろお前らっ! 俺様とっておきの魔法をお見舞いしてやる!」


 気合を溜めると両手をかざし、雷系の中位呪文を唱え始めた。


「ライトニングバーストォォォ────!!」



 しかし、何も起こらなかった。


「あっりゃあ? 」


 次の瞬間リザードマンたちから矢の一斉射撃を受け、髭面の隊長は慌てて逃げていってしまう。他の治安維持部隊も魔法が使えないことを知り、隊長を追って逃げてしまった。


「まさか本当に魔法が使えないのか!?」

「お前もか!? じゃあさっき俺の魔法が出なかったのも……!?」


 術の心得のある兵士たちに動揺が走る。

 形勢は大きくマードル隊へ傾き、セルバ兵士らを押し返すこととなった。



 一方でルスターク将軍ら、北門付近では……。

 

「おい開けろっ! 一体何をしているんだ!?」


 大勢のセルバ兵士たちが結界の異常に気づき、制御室の前へと押し寄せていた。鍵を壊しても開かないことを知るや否や、大きな丸太で扉を破壊しようと試みる。

 中ではマルコフの知人たちが、内側にバリケードをきずき押さえつけていた。だがそれも時間の問題だろう。メリメリと音を立てて扉が壊されていく……。

 

『続けー! 制御室を守れーっ!!』


 その時、北門から突入したルスターク部隊が駆けつけたのである。瞬く間に兵士らは蹴散けちらされ、制御室前はリザードマンたちによって制圧された。


「ここが我らにとっての『セルバの砦』だ!! 最後まで死守するぞっ!!」


 制御室は今回の作戦の生命線。ルスターク将軍らは徹底防衛の構えを見せた。



 そして南門と東門では、骸骨兵士部隊がワラワラと突入を掛けていたのだ。


「コココ……、市街戦は我らの最も得意とするところ……コココ」

「ぐぐ……」


 只でさえ不気味な骸骨兵たちがぞろぞろと押し寄せる。それだけでセルバ兵士の士気を下げることに貢献こうけんするも、更には自分たちセルバ兵と同じ鎧を装備している骸骨まで居ることを知る。戦いづらい相手この上なかった。


『俺たちに任せろっ! でりゃぁーっ!!』


 セルバ兵士たちの間から現れたのは冒険者だ! 戦士らしき男は一人で突っ込み、一撃で骸骨兵ら三人をぎ払った。骸骨はカラカラと音を立ててバラバラとなる。


「気をつけろ! 魔法は使えないぞ!?」

「攻撃力増強剤を飲んだから平気だっ!」


 他の冒険者メンバーに見守られながら、戦士の男は骸骨兵士らをバラバラにしていく。これにはセルバ兵たちも勇気づけられた。


「あの男を支援しろーっ!!」

「おぉーっ!!」


 突撃を掛けられた骸骨部隊は次々とバラバラにされ、隊長だったジーグルも首をねられてしまう。


「あらぁー……。隊長ー、来て下さい。ゴヴァ隊長ー!」


 ジーグルの頭蓋骨ずがいこつは飛ばされながらもしゃべり、地面へと転がった。


ズシン……ズシン……ズゥゥゥンッ!


「うわぁっ!?」


 突如、冒険者と兵士らの前に巨体が飛んできた。何事かと目を開けると他の骸骨兵士の二倍はあろうかという金色の骸骨が現れたのである。四本ある腕にそれぞれ剣を持ち、ブンブン振り回し始めた。


「ゴ、ゴールデンスケルトン!? こんなのまで居るわけ!?」

「流石に補助魔法役がいないと俺でもヤバいぜ……」


 後退あとずさりする冒険者の戦士と魔法使い。セルバの兵士らが一斉に突撃するも、全てゴヴァ隊長の風車斬りによって弾き飛ばされてしまった。


「ここは私がっ! これでも受けなさいっ!」


 僧侶が聖水を取り出すと投げつけた。

 青い炎が金色の骸骨の体を包み込む!


「ゴォォォーッ!! ……はっはっはっ!!」


 なんと燃え上がった炎がすぐに消えてしまったではないか!


「う、嘘っ!? ラカールで買った純正品で高かったのに……!」


 アスガルド聖水の成分がほぼ水であることに目をつけたアルムは、これを撥水剤はっすいざいで防げないかと提案したのだ。実験を重ねた結果、遂にダメージを軽減させることに成功していたのである。


「今のはちょっと効いたぞぉぉっ!」


「うわぁぁっ!!」


 戦士は盾で攻撃を防ぐも、破壊されふっとばされてしまった。


「か、回復薬……」

「はいっ!それと防御薬も飲んでっ!」

「んぐんぐ……がはっ!」


 よろめきながら戦士の男は立ち上がるも、視界が定まらない。

 ここで別行動をしていた他のメンバーらが駆けつけて来た。


「おおぃ! 攻撃力増強剤を追加で買ってきたぞーっ!!」

「もう……飲めねぇ……よ」


 戦士の男は用法用量を守らず薬を服用した結果、中毒を起こしてしまう。

 そのまま倒れて仲間たちに運ばれていった……。


 セルバの内壁上部は人間一人が通れるくらいの足場があり、そこから弓兵が魔物たちへ矢を浴びせていた。しかし只でさえ生命力の強い魔物のこと、更には盾や鎧にはばまれダメージの効果は薄い。毒矢や火矢も試してはみたが、彼らは耐性が強いようで全く歯が立たなかった。


「このままだと矢が無くなっちまう! なるべく無駄打ちは控えるぞ!」

「……奴らどういうわけか内壁のゲートに入ろうとしないのが救いだな。魔法さえ使えれば……くそっ!」


 内壁の上で魔物を迎え撃つ兵士たちに、背後の足元から声がした。


「ゲートを開けて俺たちを出してくれ! 俺たちは冒険者だっ!」


「駄目だっ! それより市街地へ行ってくれ! 向こうでも人手がいる筈だ!」


 戦いよりも市民を守ってくれ、そう伝える兵士だが冒険者たちは食い下がる。


「俺たちはアスガルド全域を淘汰とうたしている! 戦いならそこらの奴らに負けない!」


「……できるのかよ、お前らに……」


 兵士の一人が呟いた。


「えっ?」


「ここは街の外バトルフィールドじゃねぇんだぞ!お前らなら千体の魔物を相手しながら五千人の命を守ることができるって言うのかよっ!?」


 ここで叫んだ兵士へ矢が飛んできた、すかさずそれを隣の兵士が盾で防ぐ。


「市街地へ向かって市民を助けてやってくれ、頼む。ギルドの方には俺たちからも冒険者の活躍を伝えておく」


「……行きましょう。彼らの言う通り、報酬よりも大切なものがある筈です」


 魔道士らしき仲間にも説得され、冒険者らは市街地へと走った。



 セルバの市民らには予め中央広場へ避難することを伝えられていたため、市街地での混乱は少ないと思われていた。だが実際はサイレス鉱石の影響で各地で事故が起き、家屋かおくに鉱石車が突っ込む事態も発生していたのである。鉱石車は少なからず魔力を原動力としていたのだ。


 丁度家屋から出てきた子供が、かろうじて暴走車の直撃を避ける。

 乗っていた乗客と運転手が慌てて飛び出した。


「君! どこも怪我はないか!?」

「助けてっ! まだ中にじいちゃんがっ!」

「な、なんだって!?」


 泣き叫ぶ子供に運転手は慌てて車を動かそうとする。しかし完全に故障したまま車体が家屋にはまってしまい、複数の大人の力でも動かせなかった。


「くそっ……駄目かっ!」

「うわーんっ!」


 と、そこに魔道衣を着込んだ女性二人が近づく。

 一人は魔王軍の侍従長じじゅうちょう、エリサだった。


『お願いね』

『はいはーいっと!』


 角を生やし、背中に翼と尻尾を持つ女性は軽々と車を引っ張り出してしまった。


「な……凄いなあんた!」

「まぁね~、と。後はどうするエリサ姉さん?」


 エリサが家屋に入ると、衝突され動けない老人を見つけた。

 衝撃で肩が脱臼だっきゅうしていたのを見つけ、治療し回復魔法を掛ける。


「これで大丈夫よ。他に痛む箇所かしょは?」

「……い、いや大丈夫だ、なんとか歩けるよ。……ありがとうよ、お嬢さん」

「念のために医者へせた方がいいわ」


 外にいた子供や運転手たちも駆け寄ってきた。


「お姉ちゃんたちありがとう! セルバの魔道士なの!?」

「……どちらかといえば反乱軍レジスタンスね。それよりも急いで中央広場へと向かって頂戴。正面の裏路地を真っすぐ行って曲がれば近い筈よ、狭いから気を付けて」


 老人をかばうようにしながら子供と大人たちは行ってしまった。


「反乱軍、ね。まぁ流石に魔王軍だなんて言えませんよね~」

「……こちらエリサ、南大通りにいます。聞こえますか、軍師様」


 小型通信機は全部で五つしか無かった。

 ファラから使い回された通信機でエリサはアルムへと連絡を取る。


「こちらに例の魔道士らしき姿はありません。引き続きポイントへ向かいます」


──了解、でも無理はしないで。何かあったら中央広場で合流してね。


かしこまりました。また何かあれば連絡します」


 エリサたち亜人たちはこっそりセルバの市民に混ざり、ラフェルの居場所を追い込もうとしていたのである。始めアルムは反対していたのだが、エリサたちの強い要望に折れて許可を出したのだった。


 彼女なりにセルバへの思いがあったのだろうか?

 そして、ラフェルの居場所は何処いづこに……?

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