策士たち
次の日の朝。セルバの農産物ギルドで騒ぎが生じた。それは
一方で。ガーナスコッチ以外の農村地帯では奇妙な事が起こり始めた。他所から来た者が食料や農産物を買い
『おい、ねぇちゃん。棚にあるやつ全部くれ。それとここいらで家畜売りたがってる家は無いか? 教えてくれよ』
『こんにちはおばあちゃん、いいお天気ね。まぁ立派な牛だこと! ……あら、もうお乳を出さないの? よかったら高く買い取るけど
なんとガーナスコッチの村人は自分たちの食べる分まで売り払ってしまい、隣の農村へ買い出しに走っていたのである。それだけではない。中には農業未経験者でありながら、農作物を魔王軍などへ転売する者まで出始めた。
そして次の日の朝にはとうとうギルドに納品する者は
当然、この
「……というわけで他の農村地域へはギルドの職員と憲兵を向かわせることで解決しました。後日、ガーナスコッチ以外からは通常通り作物が届くでしょう」
「それだけではセルバのバザールが
「向かわせました。村長に話を聞こうとしたところ逆に大勢の村人に囲まれ逃げ帰ってきたそうです。流石に村人へ槍を向けるわけには参りません。明日来られる騎士団の
「……くそっ!」
先日ラフェルが出かけたのは、エルランド領の
バルタニアの国王に忠誠を誓い、弱き立場を助けるのが騎士の役目。農民に刃を向けるなど
「文句を言いに来たファーヴニラといい、一体何なんだ! 死の
「確かに私がファーヴニラと会った時、一旦ガーナスコッチの方向へ飛んで行った様に見えました。それと村を訪ねたギルド職員からの話ですが『作物は全て山の神様にとられた』などと話していたと……」
「──プッ……ふふふふっ」
ここで突然、ラフェルとキスカの話を聞きながら三編みを編んでいたソフィーナが笑い出した。
「笑い事ではないぞ! 深刻な問題なのだ!」
「……ソフィー、お願いだから真面目に聞いて頂戴」
「ご、ごめんなさい……でも可笑しくて……ふふっ」
一通り笑い終わったところでソフィーナは表情を戻す。
「……お話は大体わかりました。確かにそれは困りましたね。このソフィーが解決の知恵をお授けしましょうか?」
「本当なの?」
「ほう、話してみてくれ」
「ガーナスコッチ街道の通行を一日閉鎖し、今度訪ねて来られる騎士団にセルバの兵士と魔道士を加え、合同演習と
「で、でもそんなことしたら良い目で見られないわ」
「あくまで名目は街道での合同演習です。お
「……しかしファーヴニラがまた現れた場合どうする気だ?」
「竜は『山を削るな』と言っただけで、立ち入るなとは言わなかったのでしょう? もし現れたら現れたで討伐の大義名分が立ちましょう。死の
ソフィーナの言葉に、ラフェルとキスカは顔を見合わせた。とても学業を終えたばかりの少女と思えない、筋の通った進言である。名家貴族の娘というものはこうも違うものなのだろうか。
「ソフィー、貴女随分すごいこと考えるのね……」
「成程、筋は通る。では今度来る師団長に話をつけてみよう」
するとソフィーナは身を乗り出し、胸に手を当てた。
「その時はこのソフィーを司令官に任命して下さいませ。きっとお役に立てます」
「な、何を言っているの!? そんなのダメよ! 危ないわ!」
「私、士官学校へも行きましたの。兵学も
「それでもダメよ! ……お願いソフィー、考え直して頂戴」
「キスカお姉さま、申し上げた筈ですわ。私はラフェル様や姉さまの力になりたいのです。それに自分の力を試す良い機会でもあるんです……どうかお願いします」
押し問答をする二人を眺めながら、ラフェルは考えていた。
ソフィーナはエランツェル議長の娘である。エランツェル家と
国王に息子はおらず、まだ幼い孫がいるだけだ。ゆくゆくは自分が
「わかった。君を司令官にする方向で話をしておこう。もし今回の演習がうまくいったらこの街の市長に任命しようじゃないか。その時はキスカ、彼女を補佐してあげたまえ」
ラフェルの一声にキスカは
「残念だが当日は王都での会議と予定が被ってしまった。騎士たちを出迎えた後、すぐ向かわなければならない。キスカ、ソフィーナを頼んだぞ」
「承知しました」
「ありがとうございます、ラフェル様!」
キスカはラフェルの思惑に薄々気付き始めるも、
そして、セルバは夜を迎えた。その西の森の中で……。
「アルム君、大変なことになってしまった!」
姿を見つけ開口一番、マルコフは慌ててアルムを小屋へと招き入れた。今日はハルピュイアたちを連れてきてはいない。この前転移ポイントをこの小屋へ設置し、魔法陣を使用して来たのだ。そのせいか兵士たちは少々残念そうな顔をしていた。
「実は
「……騎士団、ですか」
「それだけではないぞ! ラフェルが当日から王都へ会議に出かけてしまうらしい! そうなったら我々の計画にも支障が出てしまう!」
「ふむ……」
少し考えたアルムは身を乗り出した。
「マルコフさん、それはむしろセルバの戦力を
「な、成程……しかし彼らは騎士だ。セルバの兵士とは全く実力も違うぞ?」
「相手の実力はあまり関係ありません。速攻の奇襲を受ければいずれも同じです」
「おっさん! うちの軍師殿を
「うむむ……。わかった、君らを信じるしか無いようだな」
そう言ってマルコフは袋の中からなにかを取り出して見せた。
「見てくれ、加工されたサイレス鉱石の一つだ。後は頃合いを見てすり替えさせるだけだ。
「ありがとうございます」
「それと、こんな物も持ってきたんだ」
それはセルバの周辺地図と、セルバ市街の略式模型だった。
「これは凄い。まるで模擬戦みたいだ」
「その通りだとも。早速作戦を練ろうじゃないか」
こうして二人は、当日のセルバ攻略へ向けた打ち合わせを始めた。
「……実は面白いものを森の中で見つけてね……」
「……成程。それは押さえておく必要がありますね……」
「……それと市民の誘導なんだが中央広場でいいんだね?……」
「……はい、できるだけ市民に危害が及ばないようにしたいので……」
慎重にシミュレーションを重ね、二人は協議した。狙うはラフェルの首一つ。
そして話し合いは終え、見張りに出ていた兵士らを呼び寄せる。そして彼らの前にアルムは金貨の入った大きな袋を置いた。
「お待たせしてしまってすみませんでした。皆さんと分け合って下さい」
「……遠慮したいがここは受け取っておくよ。私も大分私財を使ってしまってね」
「余ったサイレス鉱石も自由に処分して下さい。セルバが戻った、その後で」
そして持参したグラスと
「僕が初めてあの街へ立ち寄った日、確かに心から自由を感じたことをはっきりと憶えています。……それが本物となるように、共に戦いましょう」
「うむ……取り戻そう、我々の手で。本当のセルバの街を!」
「我々セルバ市民の手に」
「訪れる大勢の誰かのために」
「がんばるぞ~!」
五人は高くグラスを掲げ、勝利を祈り、そして別れた。
アルムは帰還アイテムを使う前に、首の小型通信機のスイッチを押した。
「……もしもし、ミーマおじさん聞こえる? ……うん、こっちも聞こえるよ。すぐ
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