悪魔のクッキー


「あ、アルムおかえりー。どこ行ってたの?」


 部屋に戻るとセスが起きていて何か頬張ほおばっていた。見るとテーブルの上に、形容しがたき謎の物体が置かれている。多分セスが口にしてるのはこれだろう。


「これね、亜人のエリサとかいう子が持ってきたんだ。みてくれはヤバいけど結構おいしいよ。アルムも食べなよ」


 アルムはそれを手に取ると口に入れる。

 味はクッキーだった。


 いうなれば、悪魔のクッキーとも呼ぶべきだろうか。



 その日、アルムはシャリアと回廊で出くわす機会があった。姿はいつものまま、いつもの魔王がそこには居たのだ。


「シャリィ、クッキー美味しかったよ」


 この言葉に、シャリアは眉をひそめる。


「お前は何を言っているのだ?」

「あのクッキー、シャリィが焼いたんだろ?」


「……魔王がそんなものを作るわけがなかろう。名誉上級軍師殿は、何かおかしな勘違いをしておるようだ。頭と体をいとえた方がよいな」


 そう言ってすれ違うも、立ち止まる。


「万が一、余が作るとするなら間違いなく毒を盛るだろうな」


 言葉を残し、その小さな背中はどこかへと行ってしまった。


 本当に毒が入っていたと言うならば、暫くこの毒は消えそうにない。

 徐々に体をむしばんでいく毒を、甘んじて受け入れようとする自分がいた。



第五話 える王、ける王  完

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