この世で最も危険な採掘者
転移魔法陣を使用し、アルムの向かった先は死の渓谷であった。
(ノッカーたちはしっかりやってくれてるんだろうか……)
今や鉱石の採掘場と化した魔黒竜のねぐら。広さには過ぎるほどに申し分ないがとにかく人手と人夫のモラルが足りない……そんなところか。
穴に近づくと岩を砕く音が聞こえ、ひとまず安心する。彼らはアルムより早起きだ、というか人外なので生活のサイクルがずれているだけだが。
(あ、あれれ?)
「軍師殿じゃねぇか、どした?」
「どうしてコボルトがここに? ノッカーたちは?」
「昨日からラムダの爺さんに言われてやってんだよ。ノッカーの爺共は別の穴を掘ってるんじゃねぇかな、行ってみたのか?」
「ううん、まだだけど……」
きっと人夫が足りないと判断したラムダがブルド隊を寄越したのだろう。一言言ってくれればよかったのにと思うも、前回自分はラムダを放って魔黒竜退治へと行ってしまったため、余り他人の事は言えない。
(どうしよう、一応聞いてみようかな)
実はアルムにはノッカーたちのサボり癖を解消し、サイレス鉱を掘らせる
「ブルド隊長。隊長を見込んで話があるんだけど、いいかな?」
「あぁ? な、なんだぁ急に?」
アルムは妙案についてブルドへ説明し出す。内容は簡単、ノッカーとコボルトにサイレス鉱の採掘競争をさせるというものだ。勝った方には好きなだけ一日自由に鉱石を掘ることが出来ると伝えれば、皆必死になって掘るだろう。
だが実際は八百長勝負であり、結果採掘量は引き分けであったと伝える。自由採掘の権利は後で短時間づつ双方に与えるというものだ。この妙案には
「……ほーん、なるほどな」
「悪くないと思うんだけど、どうかな」
「一時しのぎでしかねぇんじゃねぇか? それに後からバレたら面倒臭ぇぞ?」
「それでもいいんだ、とにかく今は至急で量が欲しいから」
暫し目を閉じブルドは
「……いや、その案には賛同できねぇな。結果がわかってる競争なんざ、あいつらにやらせたくは無ぇ」
「……そっか」
「ノッカーの爺も同じことを言うと思うぜ。まぁそういうわけだからよ」
「うん、聞いてくれてありがとう」
これからブルドは用事があり現場を離れるらしい。鉱石掘りに関しては自分よりあいつらの方がプロだとコボルトたちを指差した。
「おうおめぇら! 俺はそろそろ行くからよ、爺共みてぇに手ぇ抜くんじゃねぇぞ! コバルト鉱(実在の鉱石、コボルトが悪戯で作ると言われている)なんか作って遊んでたら只じゃ置かねぇからな!」
『うぃ~す!』
「じゃあな軍師殿。間違ってもケガなんかしねぇでくれよ」
自分が被っていたヘルメット代わりの兜をアルムに被せ、採掘現場を出ていってしまった。暫しアルムはコボルトたちの様子を伺っていたが、特に問題なくやれている。邪魔しては悪いと思い、現場を後にするのだった。
坑道を抜けたところで穴の奥から歓声と拍手のような音が聞こえてきた。
(なんだろう?)
きっと良い鉱脈に突き当たったのだろうとポジティブに考え、気にしなかった。
次に向かった先はノッカーたちの採掘現場だ。坑道はコボルトたちのものよりもやや狭く、閉所恐怖症でなくてもやや不安になるアルム。しかしそれも暫くすると広い場所へ辿り着き、やはりそこではノッカーたちが鉱石を掘っていたのだ。
「ややっ! お主なにしに来たんじゃ!?」
ノッカーのグラビオが慌てて駆け寄ってくる。アルムは先ほどブルドにも聞かせた事を話してみた。しかしやはり反応は同じだった。
「……まぁお主が色々と考えていることはよくわかった。もうサボったりせんからそう
「…………」
「あのドワーフ共が懐いとるくらいじゃ。お主がワシらの事も考えてくれとるのは十分わかっとるつもりだ。……少しワシの話を聞いてくれんか」
他のノッカーたちから離れた場所に腰掛け、アルムが隣に座るとグラビオは語り出した。
「ワシらは知っての通り、元々魔王軍とは無縁だったんじゃ。鉱山に来る人間ともそれなりにうまくやっとったしの。気分が乗れば苦戦しとる人夫共に鉱脈を教えてやったりもしたくらいじゃ」
「それがどうして魔王軍に?」
「……人間と魔王軍が戦いを始めてからじゃな。他所から来た人間共が狂ったように穴を開け始めたんじゃ。それこそ鉱脈の有無関係なく、昼夜問わずにな……」
そして行き場を失ったノッカーたちは各地を転々としているうち、シャリアから直接誘われたそうだ。戦いは好まないが、高い知恵と魔力を備えている自分たちへ目をつけたのだろうと話した。
「本当にここだけの話じゃがな、ワシらは人間と魔王軍の争いなんかに興味ないんじゃ。鉱脈を掘り当てて、ちっと何か造ることができればワシらは十分なんじゃ」
「……そうだったんだ」
「さてと、サイレス鉱を掘るとするかの。お主といると何でも話してしまいそうで敵わぬ。……お陰で少しスッとしたがの」
「あははっ」
案を受け入れて貰えず残念だったが、ノッカーたちの本心を聞くことができた。
この様子なら採掘量も増えるだろうと、アルムが立ち去ろうとした時だった。
(な、なんだ? 誰か来る?)
坑道の入口の方から、赤く光る二つの何かがこちらへとやってくる。気配は
そういえば昔、本で読んだことがある。採掘場には原因不明の恐ろしい出来事がよく起こるものだと。それが原因で閉鎖となった鉱山も多く存在するのだと……。
コツコツコツ……
(ゴクリ……)
響いてくる足音、宙に浮く赤い光がアルムを釘付けにする……。
そして闇から姿を現したのは……。
『何故貴様がここにいる?』
「シャリィ!? き、君こそなんでここに!?」
「ま、魔王様!?」
シャリアだった。ぶかぶかの兜を被りツルハシを肩に担いだ姿に、ノッカーたちは作業を止めて集まってきてしまった。
「作業は順調であるか?」
「は、はい! 今日はどんな用事で……」
「余にもさせるがよい。どこを掘るのだ? ここか?」
呆気にとられる皆を差し置き、一番奥へ向かうとツルハシで勝手に叩き始めた。
ガキンガキンともの凄い音がして岩石が飛び散る。
「あわわ……ま、魔王様、こちらはおやめ下さい!」
「ならここか?」
今度は別な場所へツルハシを入れ始める。扱いが乱暴でツルハシが折れてしまいそうだ。やがて小さな光る石を見つけると、グラビオに見せた。
「サイレス鉱とはこれか?」
「これは
「違うのか」
ノッカーたちは慌てるも、危なくて誰も止めようがない。再びシャリアは岩壁を崩し始め、岩の破片がゴロリと落ちた。そこには鈍く光る鉱石が付着していた。
「あっ!! お、お見事ですっ! サイレス鉱の原石です!!」
「これでよいのか?」
「はいっ! ありがとうございます魔王様っ! よきお手本となりましたっ!」
「当然だ。余を誰だと思うておる」
ノッカーたちは拍手で褒め称え、シャリアは得意げになっている。
(い、一体何しに来たんだ?)
ポカンとするアルムにシャリアは近づいてきた。
「余の
「……」
そう言い残し、シャリアはアルムたちを残して採掘場から出ていってしまった。
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