アルムの苦悩
(なんだか体が重いな……)
視界も安定しない、病気になってしまったのだろうか。アルムはドワーフたちに用事があり、彼らの工房へと足を運んでいた。
そして、扉を開けると信じられない光景が目に飛び込んできた。
工房の中は荒れ、そこらに鉱石の破片が散らばり、
(な、なんだこれ!? おじさんたちは!?)
横を向くとサングラスを掛け、煙草をふかしているドワーフたちが!
「おじさんたちどうしたの!? これ、おじさんたちがやったの!?」
「おぉアルムか、ワシら『すとらいき』じゃ」
「もうワシらなーんも作る気が起きなくなったわい」
「お前もこっちきて一杯やらんか? もう飲める歳なんじゃろ!?」
「それともワシらの勧める酒は飲めんというんか!?」
各々が手に斧を持ち、アルムへ近づいてくる。
「や、やめてよ!? どうしちゃったんだよ!?」
殺気を感じて
「……よう、軍師殿じゃねぇか」
「ブルド隊長!?」
振り返ると、そこに大斧を手にしたブルドの姿。
「助けて、おじさんたちがおかしいんだよ!」
「おかしくねぇよ。……やっぱりおめぇをあの時ぶった斬っておくんだったぜ!」
「えっ!?」
むんずと掴まれ扉の外へ放り出される。
「見ろよ俺の部下共をよぉ! お前のお陰であんなに怠け者になっちまったぜ!!」
「!?」
そこに居たのはブルドの手下のコボルトたちと、ノッカーのグラビオたち。
必死になってツルハシで穴を掘っていた。
「白銀も宝石もザックザクだぁ~!! ここ掘れワンワン、てなぁ!!」
「ひゃはっはっはっ! 金じゃ金じゃー!! マイダス王もびっくりじゃぁー!!」
──ハッハッハッ! 愚か者共め、もっと掘れ! 大地の底まで掘り続けるが良いわ!
見上げると竜の姿になったファーヴニラが笑いながら見下ろしている。
(な、なんだよこれ……みんなおかしいよ……)
その場から逃げるように走り出す。
どこか、まともな者は居ないのか!?
「
「き、君はセレーナ?」
そこにいたのはセレーナとエリサであった。
よかった、二人ともまともそうだ。
「軍師様、食料の調達具合は如何ですか?」
「もう少しだけ! あと数日すれば何とか!」
「お早めにお願いします、シャリア様の御加減が優れないのです」
そう言ってエリサがかがむと、そこにうずくまったシャリアの姿があった。
「シャリィ!? どうしたの!?」
見るとシャリアは目がうつろだ、慌てて抱きかかえる。
「腹が……減った……。見よ……爺は空腹の余り石になってしまった……」
「!?」
振り向くと、そこには石となったラムダ補佐官を拝んでいるルスターク将軍とマードルが! 更には横に漫画本を抱えたデーモンが立っていた!
「異世界の知識は全て解読致しました。名誉上級軍師様、貴方はもう不要です」
「な、なにを……」
「ほら、
デーモンが空に手をかざすと「ゴー」という音が空から聞こえる。
見上げると羽の生えた骸骨とゴーストが角笛を吹いているではないか!
そして地平線の向こうからゴブリンとビッグラットの大群が走って来た!
「大変だー! 腹ペコゴーレムが出たぞー!」
「食われちまう前に逃げろー!」
「腹ペコゴーレム……? うっうわっ!?」
突如大地が大きく揺れ始めた。
そして地平線の向こうから巨大な何かが姿を現し始めたのだ!
『は~ら~減った~~~~!!』
「セ、セセセ……セスゥゥゥゥ──!?」
巨大化したセスがアルムの体を鷲掴みにした!
『ア~ル~ム~! 蜂蜜漬けにして食べちゃうぞ~~~!!!』
「やめろォー! やめてくれぇぇぇー!!!」
アルムは深い闇へと飲み込まれていった……。
「うわぁぁぁっ!? ……あ……」
気がつき見回すと、そこは薄暗い自室だった。
(は……ははっ……。流石に夢だったか……)
見ると毛布がベッドから落ちている。汗ぐっしょりで相当自分はうなされていたのだろう。
ポトッ
物音に振り向くと、クッションからセスが落ちていた。
「……もう食べられないよぉ~……むにゃむにゃ……」
「…………」
静かに拾い上げ、元の位置に戻してやる。そして自分は水を一杯口にすると体を拭き、着替え始めた。
(……やっぱり、僕が行かないと)
眠気を吹き飛ばすように頬を打ち、部屋の外へ出た。
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