番外編『自由奔放な三柱神』


 時はさかのぼり、アルムたちが死の渓谷へと赴く直前での出来事……。


 祈りの間……シャリアが人間たちへの復讐を忘れぬため、定期的に訪れる地下の部屋。その部屋の扉が骸骨兵らによって開けられる。


『コココ……我々では魔王様の術は解けませぬ……お許しくだされ補佐官殿』

『ココココ……』


 石化されたラムダを中へ置き、暗い部屋を出ていったのだった。



「……おい、お前らも出てこいよ。行ったみたいだぜ」

「やれやれ、そう急かさないで下さい」

「…………」


 誰も居なくなった暗い部屋、そこに突然三人の姿が現れた。


 一人は活発そうで燃え盛る炎のような髪を持つ若い男の姿。もう一人は長い髪に知的で落ち着いた感じの男。最後の一人はフードに包まれて、どこかボーッとした雰囲気のある女性のようであった。


 そう、この三人こそアスガルド八柱神のうちの三柱。先の大戦で勇者に手を貸さずに姿を消した三柱、破壊と力の神「ヴァルダス」秩序と空間の神「アエリアス」再生と創造の神「ファリス」だったのである。


 部屋を見渡していたヴァルダスは見慣れぬものを発見した。


「あ? なんだこの爺さん? 前からこんなのあったか?」

「ふむ、石化の呪文が掛けられているようです。お友達が増えましたね」

「…………ぷっ、変な顔」


 ラムダの像を眺めたり突いたりしていた三柱だったが、すぐ飽きて話し始めた。


「……魔王と仲間たちは竜を説得に行ったようです。結果の成否に関わらず、これよりアスガルドは混沌こんとんを極めるでしょう。ヴァルダス、貴方はどう見ます?」


 アエリアスがそう問うと、頬杖をついて腰掛けていた男は


「ん? 別にどうもしねぇよ。これまで通り傍観を決め込むだけだ」


 そう興味なさげに答える。


「もう大陸に住む奴らは俺たちなんかいなくても十分やっていける。なのにお節介好きのユーファリアは余計な真似をしやがった」


 ユーファリアとは八柱神のまとめ役的存在な、万有の女神である。


「異世界の風まで呼び込んだばかりか、神の武具まで与えたのはやり過ぎでした。彼女たちがこれ以上、大陸に干渉することは無いといいですね」


「だといいが、もしあいつらがまた何かとした、その時は……」

「その時は?」

「……その時だな」

「あらら」


「俺はな、手を貸さずにもう少しこの大陸アスガルドを信じてやりてえんだよ。魔族が大陸を支配しようが倒されようが、異世界の風が入って来ようが人間に神具がもたらされようが、消えて無くなっちまうことは無いってな」


 少々苛立つヴァルダスに対し、アエリアスは笑みを浮かべた。

 

「私も同じ考えですよ。そして私はユーファリアたちを責める気はありません。彼女らには彼女らの考えがあり『禁忌』の慈悲を選んだ、それだけのことです」


「そして我らの『放任』という慈悲は、愛しき多くの子らから恨みを買った」


 二人は互いに指を指し、目配せをする。



「して、ファリスはどう思ってます?」


「…………」


 アエリアスが話をファリスへ振る。

 見ると彼女は石化されたラムダ補佐官をまだ突いて遊んでいた。


「……お腹すいた」

「おめぇまた食いモンの話かよ!」

「……酒も飲みてぇ」

「私たちの話、聞いて無かったみたいですね」

「……王都へ行って人間の食べ物食べよう」


 これにはヴァルダスとアエリアスもやれやれといった表情。


「しゃあねぇ、久し振りに人間の街でもぶらぶらすっか」

「我々の時間は無限。何をするにも考えるも、時間はいくらでもありますからね」

「……異世界人の広めた『たこ焼き』とかいうやつ食べたい」


 三柱はその姿を消し始める。最後に消える間際、ファリスは持っていた杖で思い切りラムダの頭をぶっ叩いた。


「シャリア様っ!! ……ん? ここはどこじゃ?」


 置かれた魔王の胸像と三柱の像を見て、ここが祈りの間であることに気付く。


「そうだ、魔王様はどうされた!? おい! 誰か居らぬか!?」


 石化が解け我に返ったラムダは急いで部屋を後にするのだった。



番外編『自由奔放ほんぽう三柱神さんちゅうしん』  完

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