運命交錯


 家に帰ってからのアルムは何もする気が起きなかった。食事すらまともにせず、一日の大半を寝て過ごした。大好きな本を読もうとせず、母の墓参りすら行く気にならない。眠りに落ちれば悪夢に襲われ飛び起き、あの出来事のせいで胸が押し潰されそうになった。


「まだ寝てら! おいアルム! いい加減に起きろってば!!」

「……」


 セスが訪ねて来ても、反応すらまともにしない。


「どうしちまったんだよ、人間の街から戻ってからおかしいぞ!?」

「……」

「お父さんは見つかったのか? ま、無駄足だったんだろうけど」

「……」

「お、これお土産か? もーらいっと! ……うわっ! あっまーい!!」

「……」


 お土産のロイヤルゼリーを勝手に食べられても、アルムは起きようとしない。


「なぁ! いい加減返事ぐらいしやがれよっ!!」


……ゴゴゴゴ


「な、なに……?」


 突如地響きが鳴り、家全体が揺れて家具が音を立て始めた。

 すぐ収まるだろうとアルムはそのまま横になっている。


「なに……これ……、……嫌……嫌だ……」


 セスの様子がおかしい、ここでようやくアルムは我に返る。

 地響きはまだ止まらない。


「嫌だよ……怖い、怖いよ!! アルム助けてよぉぉー!!」

「セス……?」


 飛び起きてセスを見ると、床に頭を抱えておびえている。

 地響きは激しさを増す! 本棚から本が崩れ、倒れ始めた!


「危ないっ!!」


 間一髪!! なんとかセスを掴み床を転がると、そのまま背を丸くする。


「……収まった」


 ようやく地響きは鳴り止んだ。部屋は家具が散らばり無残なことになっている。

 セスはまだ青ざめた顔で震えていた。


(セスがこんなに怯えるなんて……)


 これは尋常ではないとアルムは直感した。以前に山火事が起こり、付近に住む魔物たちと協力して消火にあたったが、その時とは比べ物にならないくらいに嫌な予感がしたのだ。すぐにコートを羽織り、外へ出ようとする。


「駄目っ!! 外に出ちゃ駄目!!」

「母さんの墓が心配なんだ! すぐに戻るからセスはここにいて!」


 セスを落ち着けると、歪んだ扉をこじ開け外に出た。


(これは一体!?)


 辺り一面には黒い霧が立ち込め森を覆っていた。視界はさえぎられ、一寸先すら見ることがままならない。こんな事は初めてだ……。


(なんて禍々まがまがしい瘴気しょうきなんだ……)


 ビリビリと肌でそれを感じ、足元がだんだんとおぼつかなくなる。

 嫌な感じと共に思い出すのは、セルバであった悪夢のような出来事……。


(しっかりしろよ! こんなことでどうするんだ!)


 セスが家で待っている、母のところへ行かないと!

 自分を叱咤しったし、かつを入れた。


 やがて、視界に見覚えのある場所が入って来る。


(あった……。母さんの墓は……大丈夫、無事みたいだ)


 内心ホッとし、墓石へと近づく。



バチリッ


「っ!?」


 視界に電流が走り、跳ね飛ばされて尻餅をついた。


(これは結界……なのか? どうしてこんなところ…………に)


 立ち上がり見上げたその場所に、ある筈のないそれがあった。



 母の墓石の横にそびえていたのは黒く巨大な建造物……。


 まぎれもなく魔王の居城、『魔王城』であった。



第二話 魔導都市セルバ  完

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