第二話 魔導都市セルバ
魔導都市セルバへ
アスガルド王国の中では王都バルタニアに継ぐ広い領地であるエルランド領。これから向かうセルバは、その中で最も重要視されている大都市なのだ。
山林や農場が大半を占めるエルランド領で何故そこまで発展できたのか。それは勇者と共に魔王を倒した、あの大魔道士ラフェルの影響が大きい。
ラフェルがエルランド領主となってからは市民に魔法を
(はぁ……はぁ……流石に遠いな……)
セルバ市までの道のりを、なんとアルムは山道から向かおうとしていた。街道を馬車走ればよいのだが、それでは人目についてしまう。できるだけ村の人間に街へ向かう姿を見られたくないのだ。妙なことを気にする性分である。
(そろそろ街道に出ようかな……)
昼になった辺りで下山を始めるアルム。誰かに山から出てきたところを見られ、変に思われないかと、田舎者丸出しの挙動で街道へと入った。
そして暫く歩き、やがて正面にそれは見えてきた。
(あ、あれが魔導都市セルバ!?)
それはまるで巨大な外壁に囲まれた要塞だった。壁の
街道を進むにつれてどんどん人は増えていく。中には明らかに純粋な人間でない者までいたが、アルムは特に気にする素振りなく群衆へと混ざる。そのまま外交窓口の列へと並んだ。
「次の方どうぞ。手形を見せて下さい」
窓口の女性に言われるがまま、アルムは以前に村で貰った手形を見せた。
「アルムさん、でよろしいですね? 今回のご用向は……」
と言いかけ、女性は少し厳しい目をこちらへ向けてくる。
「失礼ですが、被り物を取って頂けませんか? 確認のための規則ですので」
「え、あ……これは……」
「大丈夫、地方では差別の目が厳しいのかも知れませんが、セルバでは昔から多様な種族を受け入れています。ですので安心してお取り下さい」
戸惑う様子に女性が微笑みかけると、アルムは少し顔を赤くしながら巻いていた布を解いた。
「手形には『人間』と記載されていますが?」
「……父は人間ですが、母がハーフエルフでして」
「なるほどそれで……わかりました、特例として認めましょう」
本来なら突っぱねられてもおかしくない案件だったが、地方から外来者の多いセルバの街。
「ようこそセルバ市へ、歓迎致します」
「……ありがとうございます!」
滞在許可を得たアルムはゲートをくぐり大通りへと出る。そこには大勢の人間で
(凄い……! 本で見たり、人に聞いたのとはまるで違う!)
あれやこれやとつい嬉しくて目移りしてしまう。だがそれ以上にアルムが喜んだのは、自分の紫髪や尖り耳を見ても、誰も驚いたり気味悪がったりしないことだ。
(僕は自由だ! 自由なんだ!)
この時ばかりは手放しで喜び、思わず飛び跳ねてしまうのだった。
そんなアルムを高い塔から見下ろす者があった。高位魔道士の衣を
自ら手塩にかけて育てたセルバへ、こうして
「また外来者が随分と増えたようだなセルバ市長。旅行滞在者の規制をもっと強めないと、憲兵の仕事が増える一方だぞ」
「は、はい……善処はしております。ですが……」
ラフェルの後方に立ち、オドオドした口調でセルバ市長は答えた。
「ですが、何だ?」
「一方で、憲兵の取締りがきつすぎると市民から不満が上がっておりまして……」
「その何が問題だというのだ!? 放っておけ! いつの時代も大して知識など無いくせに、口先の不満だけは一人前の愚か者は出てくるものだ! 一々
「し、しかしこれは民意でして……」
「民意などではなく愚者の
ラフェルは鋭い目で
「お前は俺の言うことに従っていればそれでよい、他の連中同様に仕事を失いたくなければな。老後も家族と安心して暮らしたいだろう?」
「…………」
「今から私の友人がこの街を訪ねてくる。お前はその準備でもしておけ」
「……はい」
一瞬悔しそうに拳を握る市長だったが、すごすごと部屋を出て行った。
そして入れ替わりに、兵士が部屋へと入って来る。
「失礼しますラフェル様。キスカ殿より
「随分と遅かったな。まさか魔物にやられていたわけではあるまい?」
「……残念ですが成果は得られなかったとのことです。我が方の魔道士部隊に被害はありませんでしたが、他領の別動隊に壊滅的被害が出たとのことです」
「わかった、直接出迎えよう」
「はっ! 失礼します!」
(魔物の残党相手に壊滅的被害だと? これだから平和ボケした連中は!)
兵士が部屋から出ていくと、ラフェルは再びセルバの街を眼下に収める。
(平和を維持し続けるため、全てが完璧でなくてはならない! そう、全てがだ!)
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