肉食姫と純情くんの大和恋模様色絵巻
青瓢箪
肉食姫と純情くんの大和恋模様色絵巻
「はぁ、良かった。ユミ、お前と身体合うわ。これからも暇なとき、連絡していい?」
健太郎の腕に頭を乗せていたウチは。
降ってきたその声にフリーズした。
「お前とやったらええセフレになると思わん?」
灰汁抜きした爽快な顔で、ニコニコとウチに笑いかける健太郎。――
――初めてここまで好きになった男やった。
一目惚れして。
アドレス交換して、緊張しながら一生懸命連絡とって。
デートに引っ張り出して、いろいろ遊んで。
ようやくここまでこぎつけたと思っとったんじゃ。
うっとりと感動に浸っとった結果が。
これかい。
ウチはぎゅ、と白いシーツを握りしめる。
「せやな」
健太郎と同じようにニッコリとウチは笑い返した。
「また機会があったらな、そのときはよろしゅう」
あっさりと。身を離して。
ウチはベッドからおりてシャワーを浴びに行った。
シャワーを浴びながら。
心の中では大泣きやった。
* * * * *
ウチは男好きのする顔立ちをしとる。
松◯泰子みたいな感じ、て言われたことある。エロそうなんやて。
小学生のときから、やたら色っぽい子や、て近所のおっちゃん、おばちゃんによう言われた。
あんな子と遊んだらアカン、て何人かの友達は自分のオカンにそう言われたらしい。
ふざけんなや!
なんもしとらんっちゅうねん。
ウチはこう見えて、乙女座A型や。
十二星座×血液型占いランキングでは清純派オクテ女子ぶっちぎり一位なんじゃ、アホ。
中学生の時には、上はサラリーマンから下は高校生までいろんな男に声をかけられた。
ウチは女子大生にしか見えへんねんて。
言うてもウチは中学生じゃ。寄ってくる向こうがヘンタイなんじゃ。そうやろ?
でも、そんなウチの姿を見て、大人は男好きのえらい子、やと思い込んだ。
周囲がウチをそう見て扱うと、実際はそうやなくてもそんな気になってくるもんや。
大学に行った頃には「派手な女」「喰われそう」「手が届かへん」「一回だけで良いから相手して欲しい女」……なんて色々なこと言われたわ。
卒業する頃には、肉食系女子、の出来上がり。
向こうが来るからまあ、そんなに断らんかったと思うけど。でも生理的に受け付けへん男はあっさり拒否したで。なんでもかんでも咥えとったんとちゃう。
ホンマゆうて、今まで、ウチが本当の意味で付きおうた相手は一人しかいてへんかった、と思うてる。
……まあ、相手からは、付き合ってる、とは思ってもらえんかったけど。
ウチは昔から王子さん、を探しとるんやと思う。
アホみたいやけど……シンデレラとか、美女と野獣のベルとか、塔の上のラプンツェルとか。
ウチはディズニーのプリンセスに密かに憧れていたりする。
せやったらプリンセスらしくしろや、て思われるやろうし、自分でもそれは思うけど。
そんな自分を棚に上げて、今でもずっと王子さんを探してる。
自分だけを好きでいてくれる王子さん。
ところで、運命の相手と出会おうと思うなら、いつからその相手を探さなあかんのか、皆、知っとる?
大学で教授から聞いてウチはショックを受けたで。
なんと、五歳からや。
未就学児の頃から、異性をチェックせんと運命の相手と会える確率はゼロに等しい、ちゅーことをな!
だから、ウチはそれを聞いて以来、アンテナをはってる。常にギラギラにな!
運命の王子さんをウチは探し続けてるんや。
* * * * *
友達と飲んだ帰り。
ホロ酔いでエエ気分になったウチはスマホの時計を見て、もう家には辿り着けんことを知った。ウチの家はど田舎で十時には出んと、いつも帰られへん。
あちゃあ、どうしようかな。
ええと、帰り道に誰か知っとる男の家、あったっけ?
ふわふわする頭をぐるぐる回転させてウチは一人の男を弾き出した。
居た。
ザ・柔道部。金原
デカい図体で耳が潰れていて、いつもランニングシャツ着てる大人しい子。
どこで知り合うたのかも、もう忘れたけど。その子とはたまにメールしたり、食べに行ったりしている。
『もう、家に帰られへん〜。今、なんば。今日、家に泊めてくれへん?』
ウチがその子にメールを送るとすぐに返事が来た。
いや、はやすぎやろ。
『ええよ。駅まで僕、迎えに行くわ』
ホッとして、ウチは準急の車両に乗り込み、席に座った。ぷしゅー、とドアが閉まり、ガタン、と大きく揺れた後、ゴトゴト電車は発車した。
ウチは家に帰られんくて、男友達の家に泊まる、ということを割とよくする。
ヘンな想像すんなや。
男っちゅーのは、みんながみんなオオカミなわけやあらへん。女に満足しとったら、普通に泊めてくれるだけや。手ぇ出してくるような男のとこには
……あー、柔道部はどうかな。
度胸なさそうやから、こいつは大丈夫やと踏んだけど。
あんな身体で押さえ込まれたらどうにもできんなぁ。
まあ、そのときはそのときで諦めるか、と考えとったウチは耳に飛び込んで来た聞き覚えのある声に心臓が跳ねた。
「ありがとうございます」
好きで好きで、何度も聞きたいと思った男の声やんけ。
その声の主はウチの座っとる真ん前の座席に腹のデカい妊婦を座らせ、席を譲ってくれたサラリーマンに御礼を言った。
「座れて良かったな」
健太郎はウチの真ん前に背中を向けて立ち。
目の前のツマに優しく話しかけた。
吊り輪にぶら下がっとるその左手には鈍い銀色の指輪がはまっとる。
あ、あかん。ここにおったら。
ウチは早鐘を打ち始める心臓の音に目眩がした。
ここにおったら、ウチ、えらいことになる。
いや、もうすでにえらいことになっとる。
よろよろ、とウチは立ち上がり、ドアに向かって歩いた。
次の駅に停車するなり。
ウチはその電車から逃げ出した。
* * * * *
一度も降りたことがない駅のホームのベンチに座り。
ウチは気付いてスマホで柔道部くんに電話をかけた。
『あかん、道間違えた。ごめんな、この辺に住んでる友達のとこに泊めてもらうわ』と、言うたら。
『僕、そこまでタクシーで迎えに行ったるから、そこに居って』やて。
必死やな。こりゃ、迫って来たら断りづらいなあ。
ため息をついて、ウチはぼんやりと自動販売機で買うた烏龍茶を飲んだ。
そのへんのネットカフェかスーパー銭湯で泊まっても良かってんけどな。
いや、その方が良かったかもしれん、今の状態なら。
思い出したくもないのに、次々と湧いてくる思い出にウチは頭痛がした。
……どれほど時間が経ったやろう。
気がついたら、ランニングシャツと短パンの柔道部、いや十三が息急き切って目の前に立っていた。
「お待たせ、ユミちゃん」
ウチが居ったことに安堵したのと、ウチに会えたことに歓喜する目。
汗だくで身体から湯気が見えそうな勢いやった。
そんなに必死で走って来たんかいな。
そう思ったら。
ウチはすごく目の前の男にハラが立って来た。
ムカつく。なんか、えらいムカつくわ。
「はよ、連れてって」
ウチは愛想のかけらもない声でそう言うと。
とっとと、先に歩いて駅の階段を上り出した。
* * * * *
タクシーの中でウチはむっつりと無言やった。十三はウチを気遣って話しかけてきたけど、ウチの機嫌が悪いことを察してすぐに黙った。
着いた十三の住むアパートの1Kに入ると、部屋の中は綺麗に掃除してあって、大量のリラッ〇マがベッドサイドに飾ってあった。
なにこれ、女子の部屋とちゃうん。
部屋中が微妙にピンク系。パステルカラーのカーテンやラグ、ベッドシーツやし。
ウチの部屋より女の子らしいやんけ。
「お、お茶? コーヒー? どっちにする?」
「牛乳」
「わ、分かった。冷たくてええね?」
「うん」
おずおず聞いてきた十三に素っ気なく答えると、リラッ〇マのマグカップになみなみと注がれた牛乳が出てきた。
どんだけ好きやの、リラッ〇マ。
「ユ、ユミちゃん。ぼ、僕ら知り合うて三年になるやん」
お礼を言ってカップに口つけたウチに唐突に十三が言った。
うそ、 もう、そんなになるん?
せやったかな。……うん、そうかも。
ようその間、ウチに何の見返りも期待せんと君、ウチと付き合ってきたなあ。
……うーん、これは、告白っぽいことして、手ェ握って、チュウしてきて、ベッドにどーん、ていうパターンやろうか。
ウチは冷めた頭で考えながら、告白の続きを聞いた。
「も、もっとはよ言うべきやったかもしれへんけど。……き、今日、ユミちゃんが泊まるから、下心があって言うんとちゃうで。ずっと前から思っとったんやで」
緊張のしすぎで、気の毒になるくらい十三は真っ赤になって汗かいとった。
もともと汗っかきやのに、こりゃ大変や。
「あ、あのなぁ、僕、初めて見た時からユミちゃんが好きで。バレとったとは思うけど、僕と付き合うてくれへんかと思ってずっと今まできてん」
せやな。そうでないと、ここまで三年も付き合わへんわな。
「ぼ、僕と付き合ってくれませんか。その、本気の意味でです。……そんで、もし、付き合ってくれるんならな、ユミちゃん。その間は他の男の人と会ったり、家に泊まったりはなしにして欲しいねん。僕だけと付き合うて欲しいねん。お願い」
言いよった。
こいつ。
告白して。
しかも、はっきり他の男と付き合うな、て。
さっきから、なんでこの男が腹立つんか分かったわ。
こいつ、ウチとそっくりやったんや。この三年間。
呼び出したら、すぐに飛んできて。嫌な顔せずに、すぐに来て。
ウチとそっくりやんか。
そのくせに。
こいつ、はっきり言いよった。
独占させろ、て――
ウチは十三を睨みつけた。
十三は真っ赤な顔から真っ青な顔になって、おどおどした。
「な、なに、ユミちゃん」
「あんた、ウチのどこが好きなん」
「え、えっと、ユミちゃんの顔」
ウチの身体の中で何かが弾け飛んだ。
それはあかん禁句やった。
それをピンポイントで十三は言ってもうた。
「ふざけんなやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
* * * * *
『ユミ、ええなぁ、お前の顔、好っきゃ』
行為の時に言う健太郎のその言葉の呪詛にウチは引っかかってもうた。
その言葉の裏を信じて。
何もないのにあるもんやと期待して。
――あのとき、健太郎にはその気は無かった、と分かってからも。
ウチは健太郎と関係を続けた。
セフレから彼女にいつか昇格するかもしれん、 て期待するアホな女の典型で。
ウチは乙女座A型のせいか知らんけど、夢見る夢子の乙女ちゃんやったと思う。
男と女は根本的に違うっちゅーことを分かっとらんかった。男は本命相手やろうが、セフレ相手やろうが区別なく手抜きせずにおんなじように抱ける、っちゅーことを知らんかった。
憎からず思ってるから、ウチのことを健太郎は抱いてくれるんやろうと純粋に思ってたんや。
しばらくして、健太郎からこの関係を辞めようと、理由とともに言われたとき、ウチはアホみたいにぼんやりとそれを聞いとった。
『サオリが、他の女とはやめて、て泣くから』
サオリ?
ウチとよく似たような派手な
『え、あの子もあんたのセフレとちゃうん?』
『俺はそのつもりでおったんやけど、向こうはそのつもりやなかったみたいなんや。はは、まいったわ』
苦笑しながらもどこか嬉しそうに健太郎はそう答えた。
何それ。
何それ。
『そんなん……もし……ウチも泣いたら。あんたやめた?』
引きつった喉から出して聞いた自分の声は、どこか間抜けやった。
『はは、お前が泣く? お前がそんな女なん、想像つかへんわ』
そのときもウチは泣かんかった。
隣で眠ってもうた健太郎を確認してから。
ベッドを出て、シャワー室に飛び込んで。
泣いた。
それからは、健太郎はあの女サオリと付き合い出し。
二人は、さっきの電車の中にいたように、そこらへんにおる普通の真面目で優しそうな旦那さんと、一度も遊んだことがありません、みたいなすました若奥様になりましたとさ。――
* * * * *
「ふざけんなや、ボケェェェェェェェェ!!」
ウチはキレた。
キレついでに、ウチはアホほどある部屋のリラッ〇マにもキレた。
大量に積んで飾られているリラッ〇マをウチは片っ端から掴んで十三にぶつけた。
「え、ごめん、ユミちゃん、やめて。やめて、お願いやから」
訳もわからんくせにとりあえず謝ってデカい図体を縮こませる十三の姿。
その情けなさにも更に腹が立った。
こんな風にウチも告白すれば良かったんか?
かっこ悪うて、情けなくても。
泣いて、泣き喚いて、あんたが好きやねん、他の女と寝やんといて、て。
「あんたなんか、遊びじゃ! アホ!」
あれから、怖くて。
一人の男ではウチはいられんようになった。
あかんようになる前には既に次の男を用意した。
捨てられたくなかった。捨てたんやと思いたかった。
「三年間、ウチのこと見とったやろうが! 他の男の家にアホほど泊まっとったやろうが! あんたのとこなんか一度もこおへんかったやろ。あんたは遊び以下やったんじゃ!」
それやのに。懲りやんと。
他の男と遊んどる女から離れずに、呼び出されたらホイホイ来て。
アホやろ。
昔のウチ以下やろが。
「……うん、そうやね」
最後にばふん、と投げつけた特大のリラックマを抱き止めた十三は暗い表情と沈んだ声で俯いて返事した。
「分かっとったけど。でも僕、アホやから、ユミちゃんが好きやから、そばに居たかったんや」
ぶわ。
ウチの目から涙が盛り上がった。
せや。
ウチも健太郎が好きやった。
だから、ウチもアホやけど、側におりたかったんや。
涙が溢れた。
あの時みたいに。
次から次から出て来て止まらん。
十三は驚いたようにウチの顔を見つめた。
「ど、どうしたん、ユミちゃん」
「ウ、ウチ……」
弁解やろか、十三に申し訳なかったからやろか。
「ウチ……遊ばれたくないねん」
その声はしんとした部屋で響いて、ほんまに哀れな声やった。
「ウチが……遊んだるねん……」
傷つきたくないねん。もう二度と。
十三はしばらく黙って俯いとったけど、リラッ〇マを抱っこしながら顔を上げた。
「うん……僕、ユミちゃんやったら遊ばれてもええなあ、て思っとったんやけど」
十三は微笑んだ。
「でも、僕も……やっぱり……傷つくで」
「…………!」
十三の気持ち、分かっとった。
でも気がつかへんふりしとった。
「ごめんなぁっ……」
ウチは特大リラッ〇マごしに、ぼふん、と十三に抱きついた。
十三からはすごい制汗剤の匂いがした。
知っとった。
あんたがすごい汗っかきで、ウチとおるときはそれをすごいすごい気にして、何回もトイレ行っては汗拭いて制汗剤身体にぶっかけてること。
物を手渡す前に、手のひらを拭いてからそれを掴むこと。
気にしすぎやっちゅーねん。
「ごめんなぁ……っ」
ウチは十三に。
そして、意地を張って本心を出せへんかった過去の自分自身に。
謝った。
* * * * *
酔っていたのと、泣いて頭ん中メチャメチャになってたのとで。
ウチは十三の抱っこしている特大リラッ〇マに抱きつきながら、健太郎とのことを洗いざらいぶちまけた。
十三は特大リラッ〇マごしにその話を聞いて慰めてくれた。
『ユミちゃん。そんな男、絶対アレや。そのうち、若い女のコと浮気して、絶対離婚するわ。決まっとる』
『……そうやろか』
『そうやって。そんな男がそうそう変わるかい。奥さんに物足らんようになって派手な若い女のコんとこ行きょるに決まっとるわ。破滅や破滅。そんな男と付き合わんで済んで良かったんやって、ユミちゃん』
『……ホンマやろか。そこまで考えへんかったわ』
『ホンマや。よくある話やて。僕を信じてぇな』
気がついたらウチは眠っとったらしい。
ふと目がさめると。
部屋の電気は点いたままで。
リラッ〇マたちが部屋に散乱したままで。
ウチは特大リラッ〇マに抱きついてもたれていて。
特大リラッ〇マを抱っこしている十三は背中を壁にもたれて寝とった。
ウチはそっと身を離して起き上がると、トイレに行って。
喉が渇いたから勝手に冷蔵庫を開けて牛乳をカップに汲んだ。
寒いから、レンジで温めて。
温めすぎて、ふうふうしながらそれを飲んだ。
部屋を改めて見回すと、机の上にあるパソコンが目についた。
閉じてない、開いたままや。
シャットダウンしたろうと思て、クリックすると、ページが出てきた。
『カクカクしかじかヨムヨムつれづれ』
そんな文字が目についた。小説投稿サイト。
せや。前に言っとったな。
僕、童話を書くのが好きやねん、て。これか。
執筆中のページやった。
ウチはそれを保存してあげて。
興味を持って、ホームに移動した。
ユーザー名はカーネリア。
ぷ、女子みたいな名前やな。
投稿済み小説を開いて。ウチはホットミルクを片手に上から順に読んでみた。
どれも、優しくて、可愛い世界のお話で。
ウチはこんな可愛い話を書く人を傷つけとったんやろか、て思ったら。
また、泣けてきた。
温かな涙を流してしゃくりあげながら、ウチは全部の話を読んだ。
* * * * *
「うわあああ! ユミちゃん、読んでもうたん?」
明け方。
もうすぐ最後の話を読み終わろうかという時。
十三の叫び声が後ろでした。
「ふふふ。読んだったで、カーネリアさん」
ウチはニヤニヤしながら振り返った。
「嘘やぁ、恥ずかしわぁ、黙って読まんといてぇな」
「ええ話やったで」
「え、ほんまに? 」
十三は嬉しそうな顔をした。
「一作以外はな」
ウチは最後から二番目に読んだ話を開いてトントン、画面を叩いた。
「え、この話? あかんかった?」
「なんやねん、この話。読者をバカにしとんのか!」
森ん中で女の人が雪男を拾って、連れて帰って、ただ一緒に住むだけの話。
雪男さんは速やかに現代生活に順応して。好き嫌いなくご飯を食べて。事件が起こるわけでもなく、ケンカもなく、色事が起こるわけでもなく。
淡々とこれからも二人の共同生活が続くのを予告させて。
そんで、終わり。
おい。それだけやで。オチはどこに行ってん!?
「こんなもん、よく世に出せたもんやわ! 恥を知れ、恥を! 」
「ええ〜、でも、その話が一番、フォローも☆も多くてポイント高いんやけど」
嘘やろ?!
ウチは愕然とした。
あわてて、確認すると。
ホンマにその話は☆が三百ポイントもあった。
なんやて?
ウチは目を見開いた。
信じられへん。
評価した奴ら、おかしいんとちゃう?
皆、関西人以外っちゅーことか。
そういうことやな。
昨今、オチなしの訳分からんのほほんダラダラストーリーが疑問もなく世に出回っとるということは知っとったけど。
こんなにもそれが世間様に受け入れられているという事実にウチは衝撃を受けた。
あかん、世も末や。日本の素晴らしいオチ文化はもうお終いや。
ショックで言葉を無くしたウチを置いて、十三は連載中の話に移動すると、画面を見て残念そうな声を出した。
「あー、ショックや。フォローが二人も減ってるわ」
「フォロー?」
「うん」
しょぼん、として十三はうなだれた。
「読者さんが付けてくれるお気に入りの印。いっぱい付けられるはずやねんけどな、それでも取り消しする人おるんやわ。うーん、この展開が気に入らんかったんかなぁ。面白なかったんかな」
「はあ? なんでわざわざ外すん?」
「そんだけ、お気に召さんかった、てことやろうね、凹むわ」
「アホやなあ」
ウチはぺし、と十三のオデコを叩いたった。
「いくらでもフォローつけれんのに、わざわざ手間かけて外すなんて、よっぽどケツの穴のちいちゃい人間、てことやろが。気にすんなや」
「ええ? そ、そこまで僕、読者さんのこと考えたことなかったわ」
十三はびっくりしたように目を見開いた。
「向こうも相手からどう思われてもええ覚悟でフォロー外しとるんや。どうせやったら、外した奴のその日一日の不幸くらい呪い返したれや」
「……ユミちゃん」
十三はウチの顔をしげしげと見つめた後、いきなり抱きついて笑い出した。
「あはは! ホンマやな! 僕、アホやったわ。なんかもう、こんなん、どうでもエエこっちゃし」
リラッ〇マクッション無しで抱きつきよった!
びっくりして固まったウチに気がついて、十三はあわてて身体を離した。
「ごご、ごめんな、ユミちゃん」
「……」
くそう。
こいつ、ズルいわ。
ウチはうつむいて唇を噛む。
こんな人肌恋しい、肌寒い朝に抱きつきよってからに!
ウチはうつむいたまま、十三に抱きついた。
「ユミちゃん」
おずおずウチの背中へと手を回す、十三の大きな腕にホッとする。やっぱり、柔道部や、たくましなあ。
「ユミちゃん、今度な、僕、ユミちゃんを主人公にしたお話書きたい、思ってんねん」
「もちろん美女のお姫様やろな」
「う、うん。出来たら読んでくれる?」
「……ええで。あんた、文章過修飾すぎてなんか気持ち悪いところ時々あるからな。ウチがチェックしたる」
「そ、そうなん。自分では気がつかへんなあ。ありがとう」
「もちろん、最後に王子様出せや。お姫様一筋の、汗っかきの王子様やで」
顔を上げて十三を覗き込んで、ウチは笑った。
アホやなあ、ウチ。
全然、気がつかんと。
王子様って、意外と近くにおるんやわ。
「ユミちゃん」
十三は真面目な顔をすると。
ウチの耳を両手で包み込んで、顔を近づけてきた。
おお、きたきた。
ウチは顎を上げて、目を閉じようとして。
――やっぱり我慢出来んくて、十三を突き飛ばした。
「やっぱ、あかんっ! 鼻で息したら、くっさっ! 汗、くっさ! あんた、どんだけ汗っかきやねんな!」
「ユミちゃん……」
十三は涙目になってウチを見返した。
「はよ、シャワー浴びてきい! くっさっ!」
「うん、ごめんなぁ」
すごすごと浴室に行きかけた十三の背中にウチは声をかける。
「はよ、出てな。次はウチが浴びんねんから」
振り向いた十三に、ウチは意味深な笑みを浮かべたった。
「意味、分かる?」
途端に十三は浴室に飛び込んで行った。
ガチャガチャ、ガシャーン! ていう派手にやらかす音が聞こえる。
あはは、どんだけ焦ってんねんな。
ウチはニヤニヤしながら、再び、パソコンに向かいページを開いた。
猛烈な勢いで身体を洗ってる十三の音を聞きながらウチは「カクカクしかじかヨムヨムつれづれ』の会員になると。
「
肉食姫と純情くんの大和恋模様色絵巻 青瓢箪 @aobyotan
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