気持ち
人という生き物は「言葉」を使って気持ちを伝える。黙っていては何も伝えられない。猫や犬は相手の毛づくろいをするだけで親愛の気持ちをつたえられるのにまったくもって人とは「不器用な生き物」なのだろうか。
言葉で気持ちを伝えることは実に難しい。勘違いやすれ違い、些細なことに意味を間違えて受け取ってしまうことは読者の方も覚えがあるであろう。
その日の朝、いつものように出社する前にひかりを幼稚園に連れていく。
ひかりはなぜかもじもじして「あのね。パパ。今日はおしごと早くおわる?」
「え??」
「きょうははやくかえってきてほしいな」
「わ、分かった」
そうしてひかりを自転車の後ろに乗せるといつものようにフルスピードで出発した。
「ふふふ。ひかりったら。。」桜子は微笑んだ。
「私も準備しなきゃ」と言っていそいそと何かをしだした。
「今日の部長キレキレっすね。いつもの10倍速で働いてますよ。」高杉は竜馬にいった。
「ばか。あれでも遅いほうだぞ。部長はなぁ。。。。。」
浅井と高杉は息をのんだ。
「いかんいかん、これは企業秘密だ。危うく消されるところだった」
二人はなんかやばいもんみたように部長を眺めている。
すべての仕事を午後2時に終わらせてしまった。
まさしく「プレミアムフライデー」の意味がない潜在能力にその日の社食の話題は持ち切りだった。
ちょうどこの日は人々に忘れ去られたプレミアムフライデーだったせいで3時には全員帰れることができた。
「じゃあ、おつかれさん」と翔太は言うと風のように去っていった。
それを新人二人が呆然と眺めている。
「あれが「企業秘密」よ」と二人の後ろから岩倉がしゃべった。
玄関を開けるとパンっとなって「誕生日おめでとう」とみんなの声がした。
「みんな」というのは桜子の両親と兄夫婦とその子供2人。そして翔太の両親と兄である。
「あなた最近忙しかったでしょ?だから元気が出るように「誕生日会をやりたい」って義母さんに相談したらうちの両親も一緒に行くって言って全員集まっちゃったの。」
「兄貴、おやじ仕事は?」
「今日は定休日だ。お前等の誕生日はうちは毎年休みなんだよ」
そうか、高校生の時なんで誕生日が休みか聞いたことがある。
その時母は「誕生日は生まれてきた日。家族になった日なんだから家族みんなで過ごすものなんだよ。」といったっけな。
やがて「ハッピーバースデー」の歌を全員が歌いだした。
「ハッピーバースデー ディア 翔太。ハッピーバースデー ツゥーユー」
パチパチパチと拍手が起こる。
するとひかりが大きなケーキをもって現れた。
「パパ。この前はごめんね。いつもありがとう」といってケーキを差し出した。
「あいするぱぱへ」と覚えたてのひらがながチョコプレートに書かれていた。
「ママと二人で作ったんだよ。」
「桜子さん、ひかり。こちらこそありがとう」
そういうとひかりのもっていたケーキをテーブルに置いて翔太は二人を抱きしめた。
「いいなあ、家族ってやつぁ」そういってないているのは桜子と翔太の父親二人である。
「年寄っていやよね。」と翔太の母と桜子の母はゴキブリを見るように自分の亭主を見下した。
今日も誰かの誕生日である。もし祝ってくれる人がいなかったとしたら私が伝えよう。
「生まれてきてくれてありがとう。かけがえのないあなたへ」
完
愛妻家こじらせてます。 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya
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