途方に暮れる

「えーん、俺なんて桜子さんの足元にも及ばないんだ。」翔太は珍しく居酒屋でやけ酒をあおっている。

「あほか。つきあってられん。こっちも身ごもってる奥さんほっておいてるんだ。」つきあっているのは元同期の山形である。

山形は結婚を機にアプリ制作会社に転職した。例の10億のプロジェクトは山形が翔太に紹介したのだ。

「そんなこと言わずに俺の話し相手になってくれよ」

すがる翔太に「いいか。人間反抗するから成長するんだよ。それに女の子が父親を嫌うのは近親相姦を防ぐための自然の摂理だってよ。あきらめるんだな。」

山形は掛けてあったスーツを手にすると

「お前には10億の貸しがあるんだ。それにお前は桜子さんに嫌われなきゃいいんだろ?それなら別に嫌われてねぇじゃんか。」

そういうと山形は居酒屋を後にした。

「へ???」

「そうか。桜子さんには嫌われてないのか。。。」と思い出した。

「すいません、お水ください」と店員さんにお水をもらうと一気に飲み干した。

そして家路についた。


「ただいま。」と玄関を開けると奥からドタバタと音が聞こえる。

「早かったのね」そういう桜子さんの額は汗がにじんでいた。

「ひかりは?」

「もう寝たわよ。珍しいわね。お酒の匂いさせて帰ってくるなんて。」

「ごめん、、、ところでなんかやってたの?ドタバタさせて。」

「何もしてないわ、、、私も寝るわね」

「う、うん」


あ、怪しい。絶対に何か隠している。

というかひかりも寝たといっていたがひかりをのぞいてみると「明らかに」狸寝入りをしている。

翔太が子供の時母親に「あんたは狸寝入りが下手ね。あれじゃバレバレよ」といじられたことがある。「い、遺伝だ」

今目の前にいるひかりの寝相はいつもの寝相と全然違う。

なんていうか普通狸寝入りをするときにゴミ箱の中に頭を突っ込むだろうか?

しかも「ぐーぐー」言っている。

明らかに不審人物だ。


「き、嫌われてる????」

そんな言葉が頭をよぎった。

確かに最近接待でゴルフに行く回数も増えた。今年は「初めて手と手が触れた記念日」と「初めてキスをした記念日」に仕事で出張していた。

手帳を見るとほぼ毎日「初めて」シリーズが書かれている。

「や、やばい。これじゃぶちょーと一緒の人生じゃないか?」

佐々木ぶちょー(現在は常務)の顔が浮かんでくる。

「あれ?これ私の出るところじゃないよね。全然関係ないよね。ってか私の人生だって楽しいんだからね。これでも。」(佐々木常務談)


完全に途方に暮れ行く田代翔太であった。

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