日々是雑感 残念なことについて

今回はライトな事について書きたい。

昨日本屋に行ってきた。年末になると毎年楽しみにしている本がある。文藝春秋の「オピニオン 日本の論点100」だ。毎年年末に発刊されて、政治経済から文化芸能スポーツに至る分野から「論点」100項目について有識者がそれぞれ論文を載せている。

私は毎年これを買うのを楽しみにしていた。昨日本屋へ行くともう「論点100」の2020年版が出ていて、早速手に取った。毎度少し不満に思っていたことは年々厚さが薄くなっていくことだったが、2020年度版は特に薄くなっていると感じた。パラパラとめくると、以前は巻末にあったはずの「小論文対策に使える」というような受験対策用の企画ページが冒頭ページに移されて、結構な紙幅を使っている。まあ、それは良しとしよう。それから特別企画のページが続くわけだが、そこから数字が割り振られている。以前の「論点100」にも同じような寄稿ページはあったものの、それは「100」にカウントされていなかったはずだ。ちょうどよく同じ棚に2019年度版の「論点100」があったので厚さを比べてみたが、やはり2020年度版は明らかに薄くなっている。2019年度版の企画ページは「100」のカウントからは外されているから、その分厚くなっているのだろう。もちろん、薄くなっても値段はそのままであった。

私は途端に白けて、買おうか買うまいかとても迷った。なんだか、値段だけじわじわと釣り上げて消費者に分からないようにサイズや量を小さくしていく食品会社みたいな姑息さを感じずにはいられなかったからだ。おまけに寄稿している有識者の中に某有名人がいて、彼女は「いじめ問題」について書いていたが私はうんざりとしてしまった。彼女のことは別に好きでも嫌いでもなかったけれど、私はこういう芸能人の「文化人気取り」が好きではない。芸能人のこの手の侵食はこれに始まったことではないが、流石にうんざりとする。

私はその場では買う気を失くして、本屋を後にした。本を売るために目を引く「受験対策」だの芸能人の寄稿で売り込みをかけるのだろうが、それは一時的に読者を増やすかもしれないけれど、長期的にはある層の読者を失うリスクも伴うと思う。安定的に書籍にカネを落としていくのは、こういう物言わぬ影のような読者層であることはもう少し認知されてもよい。彼ら彼女らは、価格でなくてその内容をシビアにみている。そして、一度それが「落ちた」と感じるやいならもう二度とその書籍や媒体には手を出さなくなるだろう。これは結構残酷なことなのだ。

本は一度読んで捨て置くためにあるわけでもなく、手段としてあるわけでもなく、一つの文化財として存在している。もちろん慈善事業として出版業があるわけではないが、もう少しこうした文化財としての視点も持てないものだろうか。特に昨今は短文文化の隆盛で、起承転結があり、かつ内容も示唆に富み興味を引くような文章は媒体問わず苦難の時代である。一目で内容が分かるようなタイトルが求められ、内容も極端な「分かりやすさ」、そして読み手に感情的に訴えるようなものが当たり前だ。そうした中にあっても、しっかりとした文章は必要である。それは社会の中にあって、前者が単眼的であるのに比べて複眼的である。複眼的な視点こそ、やはり変化をしていく時代にあって私は必要なものだと思う。「論点100」はそうした意味において良い教材であったために、とても残念だ。

姑息な紙幅の削減と、穴を埋めるための安易な芸能人有識者の寄稿でお茶を濁しているようではいずれ見向きもされなくなるだろう。



さて、もう一つ残念なことはドラマについてだ。現在、阿部寛主演の「まだ結婚できない男」が放送中だ。

私は前作である「結婚できない男」を再放送で全部見たクチなのだが、このドラマが結構面白い。阿部寛演じる偏屈で独身の建築家である桑野を中心に、隣人のみちる(国仲涼子)、桑野がしょっちゅう通うことになる総合病院の内科医早坂先生(夏川結衣)、敏腕ビジネスパートナーの沢崎(高島礼子)、そして建築事務所で働くエイジ(塚本高史)などと関わる中で「幸せ」を見つけていく。また桑野の義理の弟役の尾美としのり、妹役の三浦理恵子、母役の草笛光子もいい味を出している。脇役たちも豪華で見応えのあるいいドラマだった。阿部寛の演じる偏屈さや空気の読めなさ、だがどこか憎めない茶目っ気や、不意に見せる優しさが「結婚できない男、桑野」に不思議な魅力を添えている。それに対峙する形になるのが夏川結衣演じる早坂夏実なのだが、この両者の掛け合いが一番の見どころだった。お互いに遠慮がなく、毒舌で腐しながらも徐々に距離を詰めていく様が見ていて微笑ましかった。

その続編ということで期待していたが、なんとキャストが一新されているではないか!引き続き出演するのは塚本高史、三浦理恵子と尾美としのり、草笛光子の桑野ファミリー、あとは大工の棟梁だ。この時点で、はあ?である。いや、早坂先生とはどうなってん。あれからどうも付き合ったが別れてしまった設定らしい……。まあ、仕方がない。あれから10年は経っているし。今作のヒロインは吉田羊演じる吉山弁護士らしい。他の女性陣にカフェの雇われ店長として稲森いずみ、国仲涼子枠の隣人に元乃木坂46の深川麻衣(どんな人か知らなかったから、わざわざ経歴調べちゃったよ……)。まあ、華がないなぁというのが第一印象。桑野の建築事務所のメンツも増えたがいいが、基本がちゃがちゃして邪魔。パーカーの青年も必要性を感じないし、経理の女性を出すくらいなら敏腕沢崎を出して欲しかった。桑野の偏屈っぷりはまあ相変わらずなのだが、50歳という設定もありちょっと「難ありジジイ」感が強くなっている。そこは「まだ結婚できない理由(ワケ)」として合点はいくが、吉田羊との掛け合いが何度見てもイタくて見てられないのだ。前作の早坂先生との掛け合いを真似ているのかもしれないが、夏川結衣のあのふっくら優しげな見た目からバンバン飛び出す毒舌と遠慮のなさのギャップがそれを引き立たせていたことに、気づいていないのだろうか。吉田羊はただでさえ顔の作りがキツく、失礼を承知で言うが鼻の形がちょっと特徴的で目につく。そんな彼女が毒舌と遠慮のなさを前面に出しても、「見た目通りのキツイ女」以上の印象を持てないのだ。稲森いずみの方が、ほんわかとして桑野とは合いそうな気もする。あと、小生意気で一応女優役ではあるが顔すらも可愛いとは思えない深川麻衣は論外。だったら国仲涼子を結婚した設定でもいいから出して欲しかった。子持ちになって、さらに図太くなったみちると桑野の掛け合い、そこに意外と桑野との相性が良いパグ犬の「ケンちゃん」も混ざればパーフェクト、絶対に面白い。

今作の致命的なつまらなさの原因は、主要女性陣キャストの没個性と薄っぺらさであろう。そこにがちゃがちゃと新キャラを投入したのが悪手だった。顔も名前も未だによく分からない。だったらキャスト数を絞って、もっと個々のキャラを掘り下げて描くべきだ。吉田羊の弁護士特有の追求のキツさ、稲森いずみのほんわかさ、若手女優としての深川麻衣の小生意気さ、勘違いっぷりをもっと掘り下げて描けばもっと面白いものになっていたと思う。どれも中途半端で、結局彼女たちを繋げているのは桑野の悪口というだけなのだから薄っぺらい。前作でみちると早坂先生が仲良くなった流れを踏襲しているのだろうが、この2人の互いに独り身であるという特有の共感はリアルであり、自然な流れで描かれていた。

吉田羊と稲森いずみ、深川麻衣の関係性にはリアルさと共感がない。そこにエイジの婚約者である女性(キャスト名をググるのもメンドくなってきた)も加わって来たのだからたまらない。私は途中で見るのをやめてしまった。唯一の癒しはケンちゃん枠のパグ犬タツオと、前作から引き続き出演する桑野ファミリーの面々くらいだ。

これだけキャストを増やしたのは多分芸能事務所への「忖度」もあるのだろう。だが見ている側にとっては不快でしかない。画面がうるさいだけだ。

あえて考えるなら、主要な視聴者がネットへと移行していく中でテレビ局にもオリジナルのドラマを作る余力もあまりないのかもしれない。それで、漫画や小説の実写化となるのだろうが、それもリスクを伴うものである。となると、成功した過去作の続編にすがるしかない。先に書いた「論点100」の手法と、媒体は違うが根っこは同じだ。いかに「売れるか、ウケるか」を考えた末の忖度なのだろうが、それは一体誰への忖度なのか。結果として、創られるものをつまらなくしていることに多分当人たちは気がついていない。いつからこんなことになったのか、私は消費者の問題も大きいと思うのだが……。どちらも小粒に、つまらなくなってしまったのだ。だがこのことに生産者も消費者もあまり気がついていない。

そうした中に「まだ結婚できない男」があるのだろうが、なんだかなぁ。

夏川結衣の復活を望む。

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