変なエッセイ求む! 前編


暇つぶしに「なろう」のエッセイランキングを見ていたら、なんというかみんなよく飽きないなぁと思う。

これだけ沢山の書き手が集まっているはずなのにどうしてあんなにも同じものが並ぶのか。なんとなく、定期的にサイクルがあるのは1年ほどみているから分かってきた。最近は「テンプレ批判を批判する系」と「無断転載系」が人気なのかな。タイトルを見ただけでは禅問答みたいで、よく分からない。

あとは創作の悩みとか指南系だろうか。この辺も結局は似たり寄ったりで、別にその人自身の色だとかがそれほど出ているようには思えない。

私の主観的な意見だと、「なろう」のエッセイはつまらないと思う。純粋に自分の日々感じたこと、いることをとりとめもなく書いてみたという意識よりも、流行りに乗っかって安易に評価されたい注目されたい有名になりたいという意識が透けて見える。


表題の通り私は変なエッセイが読みたい。その人自身の考えていることや感じたことを知りたい。

自己顕示欲や承認欲求はどうでもいい。他人の褌で書いたようなものは読みたくない。


だが、求めるばかりで自分はなにもしないというのが一番嫌いなので私が変なエッセイを書いてみようと思う。

テーマは、「猥褻とエロスの違いとは?」にする。


「人間の性を生殖という次元で見る限り、そこに猥褻の問題が生じることはないが、性を文化の問題として捉えてはじめて猥褻の問題が生じる」

エロスと猥褻…その境界とは、どこにあるのだろうか。法務省は猥褻罪について「 (猥褻文書等を) 見たくない人の自由を侵害し、青少年の心身の健全な育成に悪い影響を及ぼし、性生活に関する秩序及び健全な風俗を害する」ことが処罰理由であると説明している。

ここでは、大英博物館で展覧会も開かれた「春画」と自らの女性器の型を3Dプリンターのデータとして配布したろくでなし子氏の一連の騒動を取り上げる。


春画は男女の交合を露骨に描いた浮世絵だ。葛飾北斎や鈴木春信など、浮世絵の大家たちもこぞって作成していたものである。大英博物館で開かれた展覧会では大人気となったが、日本では「春画」が長らく猥褻物とされ、展覧会などは開かれてこなかった。細川護煕元首相がトップを務める財団が春画の展覧会を開催することを引き受けて、2015年に初めて日本で開かれた。

日本での春画展の開催に関わった木下直之氏は、以下のように述べる。


「海外で春画が注目される一方、日本では否定的な評価が下されます。明治一桁の時代には海外の博覧会に日本の美術工芸が盛んに出品されました。しかし、春画は日本の恥とみなされました。日本美術協会の前身となった龍池会はある報告の中で『春画は美術ではない』と断定しています。…浮世絵研究者の飯島虚心が書いた『葛飾北斎伝』の中で、春画を『猥褻なる画』としています。浮世絵の側に立っている研究者でさえそのような考えでしたので、春画イコール猥褻という構図は明治20年代には出来上がっていったと見られます。…春画は芸術だから、ポルノとは違うと退ける意見もあります。…しかし、いまのエロマンガの世界につながる一面もあります。春画が高い造形表現を達成したことは間違いありません。しかし、そうでないものもある。多様です」


春画は平安時代から描かれてきたとも言われている。公権力によって初めて禁止されたのは1722年の町触による禁令であり、「春画は風俗を乱す」というのがその理由だった。その後春画は猥褻だとされ取締りの対象となっていく。だが、現在でも春画そのものは猥褻との評価を受けているものではない。ヌード写真と春画を一緒に掲載したいくつかの週刊誌が警視庁から「口頭指導」を受けているが、その警察関係者がはっきりと「春画は国際的な評価も高く、文化芸術的な価値がある。春画そのものを問題にする気は全くない」と断言している。

歴史的に春画が猥褻であるとされたのは1722年のことであり、後の寛政の改革、天保の改革の年代にも同じように禁止されている。だがこのような禁止にも関わらず、春画は嫁入りの贈答品として扱われたり、新年の祝いものとして配られたりしていた。

だが明治になると西洋文化が押し寄せ、庶民の日常的な風俗を卑しめる風潮が生じ、春画は「風俗を壊乱するもの」として排斥されていくようになる。

これは、春画を美術から除外することによって、西洋絵画の主要テーマである裸体から猥褻の要素を取り除くことが目的だったといわれている。春画はスケープゴートとされたのだ。おおむね明治30年代には春画を明確に猥褻とする認識が広まったのではないだろうか。

現代における春画の扱い、特に警視庁による週刊誌への「指導」で注目すべき点は「ヌード写真などもある誌上での掲載であり、春画のわいせつ性が強調されていると判断した」としているところである。このような考えは「相対的猥褻概念」と呼ばれている考え方である。これは当該作品の販売や広告方法、具体的な掲載方法、対象読者層など、作品が置かれている文脈が作品の中猥褻性に影響を与えるとする考え方だ。これは一見柔軟で妥当なように見えるが、特定の人に対してだけ性的刺激、興奮を与えるようなものがぎゃくに犯罪性を帯びる可能性があり、猥褻概念が拡大的に適用されるおそれが強い。


次に、自らの女性器をかたどった石膏にデコレーションを施した作品を発表し、わいせつ物公然陳列罪などに問われたろくでなし子氏の騒動をみていく。

「生命が生まれ出てくるところは、いやらしい場所ではない」。

「わたしのアート作品は『猥褻』ではありません」。

ろくでなし子氏は、一連の作品を発表し続ける理由について以下のように述べている。


「女性器は自分の大事な体の一部に過ぎないものであるにも関わらず、ここ日本においては蔑まれ、汚いものや恥ずかしいもの、いやらしいものとして扱われ、とてもおかしいと強く感じたからこそでした。生命が生まれ出てくる場所であるならば、蔑ずんだり、いやらしい場所などとみなすことはとてもおかしい話です。わたしはなぜそんな風になってしまったのかを考えました。その結果、女性器がまるで男性の愛玩物のように扱われているのが原因で、根底にあるのは女性差別であると思い至りました。そこでわたしの身体であり、わたしのものであるはずの女性器を取り戻すため、女性器アートを本気で活動するようになりました」


また自らの女性器のデータを3Dデータとして提供したことについて、ろくでなし子氏は法廷で「現代美術にはアート・プロジェクトという概念がある。アートを媒介に社会の意識を変えようとする取り組みを指す概念」と訴え、URL送信についてもその一環であると述べている。

この「事件」について、被害者は存在しない。クラウド・ファンディングで集めた資金も制作費として使い切っているので目的外使用や個人的利益を得たわけではない。またURLを送信したり、提供した人も9人にとどまり、3Dプリンターで出力した人はいなかった。

ろくでなし子氏は一連の騒動について、以下のように述べている。


「それまでは友達にしか作品を見せていなくて、公にしただけでこんなに批判されることを初めてその時に気づきました。「まんこ」という言葉を漫画で使う時に編集者に言われなくても予め伏字にしていましたが、それがきっかけになって「なんで伏字にしなくてはいけないんだ」と疑問を持つようになりました。…根底にあるのは、日本が男性社会過ぎることだと思います。女性が自分の体を自由に使うことを嫌悪する社会なのです。…いやらしさは、雰囲気とか文脈も必要です。そういったものを一切、私と作品はぶち壊しています。私が恥ずかしがっていたら猥褻かもしれません。よく勘違いされますが、私の作品はどこでも見られるわけではありません。個展会場や私のブログとかあえてみたい人が来るところでしか見ることができません。私自身も見たくないものは見たくないので、ことさらに見せる必要はないと思っているからです。日本が異常だと思うのは「ちんこ」は大丈夫なのに「まんこ」は「女性器」と置き換えたり伏字になったりすることです。…あらゆる表現には快、不快というのが必ずあります。…しかし人の感情で決めてしまったら何も表現できなくなってしまいます。…実際の被害者がいないものだったら表現を規制すべきではないと思います。私は問題提起をしたいのであって啓蒙活動をしているのではありません。…私の作品が猥褻かどうかを裁判官だけで決めて欲しくありません」


さて、春画及びろくでなし子氏に関する猥褻概念そしてその扱いについて、個人の感情的被害が問題になっているのだろうか。そうであるなら、見たい人に見せるのは構わないということになる。裁判所は「日本において (この社会において)性器や性行為の露骨で直接的な表現、そのような表現物が流通していること自体を問題としている」のだ。

フリーライターの長岡義幸氏は以下のように指摘する。


「表現は基本的に自由であり、問題があった時は個人間で解決するべきだと思います。倫理・道徳を法で裁くのはおかしいです」


性を文化の文脈で捉えるから、そこに猥褻の問題が生じるのではないだろうか。


個人が抱く性的イメージは、それが背徳的、犯罪的なものであってもそれが個人のうちにとどまる限りでは、法的問題としては自由である。これは、法は具体的な行動として外部に現れた行動を規制対象とすべきであって、心の問題をコントロールするものではないという「法と道徳」の峻別を説く近代法の根本原理がある。ただ、性質上「個人がどのような性をイメージしているか」を確認する術はない。ところがそこに、特定の性的イメージを喚起させる道具としての「猥褻とされるもの」が登場することによって問題が複雑化するのである。


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