第3話 離さない

「面白かった?」

「いや、灯が誘ってきたんでしょうよ?」

「岳もおもしろくないと……」

 下を向いてぶつぶつ言ってしまう。

「灯は見に来てよかったの?」

「うーん、まぁまぁ!」

「なんだよそれ」


 ふたりではしゃぎながら、映画館近くの海鮮BBQのお店に入った。よくあるタイプの、食べたい魚やエビなんかを買って、BBQにしてたべちゃおうってやつ。

 とりあえず、エビとかサザエとか行ってみる。ジュワーっと汁が出て、磯の匂いが広がる。

「そろそろかな?」

「うん、そろそろたべ……」


 お店の店員さん、それから、つられたお客さんたちが一斉にデッキの海に面した側を見る。もちろんわたしも。

 赤、青、黄色、ピンク、白、……。

 色とりどりの風船が空に向かって、海風に揺れながら、すごい数、飛んでいく。ふわふわと。揺れながらも目指すところはみんな一緒。


 唖然としていたところに岳が目の前に現れて 、

「結婚しよう。一生、離さないから」

「……わたしも。岳を離さないよ」


 衆人監視の元であったことを忘れていたけど、お客さんたちはとても優しくて暖かい拍手をもらった。わたしたちは、ぺこり、ぺこりと頭を下げた。そして、段取りを間違えたらしい彼が、ポケットから指輪をくれる。……でも、そんなところも好きだから、やっぱりわたしの負けだ。


 スマホが鳴る。岳が出る。

「西条さん、すごいいい感じだった! ありがとう、あとで連絡するよ!」


 浮気疑惑のサイジョウさんは、風船を飛ばしてくれた人だったらしい。そんなものだよね。


「どうしたの?にまにまして。」

「こんなことが起きて、うれしくない人いないと思う。人生最高の日だよ」

「バカだな、これからは毎日、めくるめく幸せな毎日が来るんだよ。ボクは毎日、小さいことでも幸せにするからね」

「毎日が楽しみになるね」

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きみを離さないよ 月波結 @musubi-me

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