第2話 自分ルール

 翌日は快晴だった。夏のはじまりの風は心地よく、半袖にパーカーでも行けそうな陽気だ。


 ……しかし、今日は勝負服! やっぱり女はスカートよね。トップスは派手ではない程度にレースがついたもので、今日は紺のスカートパンツ。ゆるっと白カーデに金の鎖の長めのネックレス。足元はウェッジソールでバックストラップのサンダル。

「行けるー?」

「あ、うん、映画を間に合わなくなっちゃうよね、ごめん!」


 走って玄関に出ると、彼はパチクリした。

「……灯、すごい似合ってる。かわいい」

「ありがとう……」

 なんて言っていいのかわからなくて、髪を耳の後ろにかけたりしてみた。

「行こうか」


 普段はぼんやりしてる彼が、いつも休日はわたしを引っ張ってくれる役に変わる。その日のスケジュールも乗り換えも、食事する店も、みんな彼が決めている。

 いつもそうだとたぶん、頭にきちゃうけど、わたしだって疲れて癒されたいので、ふたりはちょうどいい距離感なんだと思う。

 こういうときに、「岳でよかった」と思ってしまう。好きだなって。


 映画は30分前にはとうに着いて、チケットを買って、次に上映する予定の映画のビラを見て歩く。知ってる俳優、知らない監督、あーだこーだ言う。わたしがポップコーンが苦手なので、彼も一人では持て余す量らしく、いつも通り飲み物だけを買う。終わってからバタバタするのが嫌いなので、パンフレットは先に買う。でも、中身は見ない。


 そういう細かいわたしの「自分ルール」を否定しないで、彼はなんでもないことのように一緒にルールの内側にいてくれる……。本当は、すごくありがたいと思ってるのに。

 パンフレットを買ってきた彼の腰のあたりに手を回してぎゅっとする。

「おいおい、これから怒涛のようなストーリーの映画を見るんだろう?」

 と諭される。そういう、ジジくさいところも、好きなんだもの。

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