猫型ロボットも歩いた夜道

@museruhito

夜道の公園と眠れる遊具

「ドラえもんがのび太と別れた時、こうして夜の道を散歩したそうだよ」

だからなんだってんだ……気になってる女子から夜に電話が来て、どうしたかと走って来たのに――――はっ! まさか、この話題を言うという事は……

「もしかして、お前引っ越しするのか⁉」

そう言うと、彼女はキョトンと俺を見た後、腹を抱えて笑い出した。

「あ、あんたっ……さっきのドラえもんの話題でそんな事考えてたのっ……! 想像力ありすぎでしょ」

「う、うるさい! 急にそんな話題になったら、そう考えるだろ!」

顔を赤くしながら反論しても、彼女は街に響き渡る様な笑い声をあげて歩いた。

「それで、なんで俺を呼んだんだ?」

「へ? ノリ」

「ノリィ⁉ ノリで夜中の10時に呼んだのか⁉」

「アッハハ! 私達もう高校生なんだから深夜でもなきゃ大丈夫でしょ? 君って思ったより良い子なんだね」

彼女はまた元気よく笑った。彼女が良い子かって言えば……お世辞でも言えない位には不良だ。サボりは当たり前、授業に出ても大半は睡眠に時間を費やし、学区外でも真夜中に1人で行動している姿を多数目撃している。そのせいで悪い噂が一杯で……ここではとても言えないが、とにかく噂が立っているのだ!

「半分冗談よ」

「……その半分は?」

「それは――――」

彼女の足が止まり、ある方向を向いた。釣られて俺も彼女の方を向くと、公園がそこにあった。昼頃にはあんなに賑やかだった場所も、今では電灯がついてるだけで誰もいなかった。灯りがついていない遊具はまるで眠っている様に見える。

「懐かしいなぁ。子供の頃にはよく遊んでたっけか」

「そう。ここ出身の子供は誰もが一度は遊んだであろう公園。最近危険だという理由で撤去されてる遊具も、ここでは滑り台、ジャングルジム、ブランコという遊具の三種の神器が備わっている」

遊具の三種の神器とかあるんだ……ていうか、彼女がこれから言う事がわかる気がする。

「遊ぼう! ていうか、遊べ!」

「やっぱり! ていうか、公園で遊ぶなんて昼でも休日でも遊べるだろ」

「おバカっ! こんな高校生が子供に紛れて遊ぶなんて恥ずかしいでしょ」

案外普通の理由だった。

「それに、夜の公園なんて……ロマンチックじゃない?」

「え? そう?」

どっちかって言うよりエロい感じ……なにジト目で見てんだ?

「はぁ……これが男と女の決定的な違いってヤツなのかねぇ……まぁいいや。さぁ、遊びますか!」

彼女は1人ではしゃぎながらジャングルジムに入っては身軽な動きで登って行った。大人っぽい見た目だけに、子供の様な行動に異常を感じた。

「……まぁ、確かにこういう時じゃないと遊べないしな」

おまけに子供用の小さい遊具じゃなくて一昔の遊具だから学生位の身長なら遊べる……俺は長身だから遊べないけど。




しばらく俺はベンチに座って彼女が楽しく遊んでいるのを見た。ジャングルジムでは四肢を使って、まるでサーカス団員の様に動き、滑り台では「ヒャー」と声を上げながら滑っていた。さっきは異常だと思ったが、こうして見ると、結局も彼女はどこにでもいる普通の女の子で、今まで見てきた行動のせいで、そういう風に見えてただけなんだろう。

「おーい、ちょっとこーい」

俺を呼ぶ声が聞こえたので、彼女の所に行くと、ブランコに乗っていた。

「どうした?」

「ブランコ」

「いや、それはわかるけど……」

「押して」

「押してって、なにを?」

「背中」

背中って……んんっ?

「鈍くさいなぁ……背中押すとブランコも動くでしょ」

「うん。まぁ、それはわかるけど、なんで?」

「なんでって……君を呼んだ理由の一つでしょ?」

……俺の呼んだ理由の半分ってブランコの背中を押す為かよ。

「ほら、早く」

「…………わかったよ」

俺は彼女の背中に回った。

「思いっきり押してね」

彼女は後ろを向いて楽しそうな顔をしている。対して俺はすうんっごくドキドキしている……!

だって! 気になってる女子の背中を押すんだぞ⁉ い、色々と心の準備が……

「はーやーくーしーろー」

「……あぁ、もう! わかったよ! 思いっきり押すぞ!」

そう言って、俺は彼女の背中を少しだけ強く押した。うおぉ! 一瞬だが、柔らかい感触ぅぅぅぅ!

「へいへーい! もっと強くー!」

煽られて、俺は前よりもちょっとだけ強く押した。押す時になびく髪から漂うシャンプーの匂いが……!

「その高身長は伊達なのかい? 男なら、もっと強くしなきゃ!」

気にしている身長の事を言われてムッとした俺は前より強く押した。――――服の奥から人肌とは違う感触が……ま、まままま、まさかブ、ブラ――――

「そうやってエロい目でしか見れないのかい? お猿さん!」

「なっ――ち、ちげぇ、よ!」

俺は今まで思った事を見透かされると思い、誤魔化す様に彼女の背中を思いっきり押した。

「うおー! いいっ! 凄い! もっともっとやっちゃって!」

彼女は大声でそう言った。表情は見えないが、きっと目をキラキラと輝かせているだろう。俺は喜ぶ彼女の期待に応える為に前と同じ強さで押した。

「イィヤッホォォォォォ!」

星々で光っている空まで届く様な大きな声で楽しそうに笑う彼女の姿は、夜の景色と相まって、とても美しく、それでいて可愛らしく映り、俺のその姿にくぎ付けになっていった。




「いやー、遊んだ遊んだ」

「お前……今日はなにもなかったから良かったものの、近くに交番の警察官とかが居たら騒音とかで取り締まるぞ」

「うーん、それもまた青春って感じでいいんじゃない?」

彼女は笑いながらそう言った。本当に楽観的というか……人生楽しそうだなぁ。

「さてと、そろそろ11時になっちゃうし、帰りましょうかな。今日はお疲れ! また呼ぶかも!」

「おいおい。夜の公園に行きたいなら、友達と一緒行けばいいだろ? なんで俺なんだよ」

彼女にも、いわゆるサボり仲間は存在する。遠くからだけど、それなりに友好的な関係を築いてる様に見えた。その子達と居れば、一緒に楽しめるんじゃなかろうか?

「バカチン! そういう仲こそ、こういうのは見せられないでしょ!」

「えぇ~」

……まぁ、そうだよな。親しい仲よりも誰にも言わない知り合い程度の人の方が良いだろう。勿論、俺は今日の事は言わないつもりだ。

「こういう隠れた趣味は、もっと親しくなりたい人じゃなきゃね」

――――え?

「それってつまり「じゃ! また明日学校で。っていうのもわからないから、また公園で!」

遮る様に彼女は言った後、帰路に走って行った。

「なんだよ、また公園でって……」

そう言いながら、さっきの言葉が頭の中で何回も反響して、だんだんと心臓の鼓動が速くなるのを感じた。

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