第12話 - 公式を勘違いしないこと
吸血鬼。人間など比較にならぬ膂力を誇り、自身の血液を自由に操作する
◇◇◇◇◇
「クロエ、いまの俺の血、魔力を持ってたりする?」
「大なり小なり普通人であっても人間の血は魔力を持つ。さらに、いまのきみはわたしが寄生していることで、仮契約だがわたしと混ざっているといっていい」
「夢魔との混血状態
「
つーかその
ともあれ
「きみの基本技は特に属性がない分、見た目は派手だが
立体的な空中戦は不利と考えて地上に着陸、上側180度から目まぐるしく飛んでくる斬撃を肘の刃と手の甲から伸ばした血刀で受けるが、打ち合うたびに刃から電流のような痛みがはしる。いってえ。クロエも平然としてるけど、俺とリンクしてるのにダメージとかないんだろうか。
「ガマンできるだけだよ?」
「まじか」
それはちょっと申し訳なさがある。
対処法の見当はつくけど、スーツへのコマンドのイメージが固まらない。
その間にもあくまで余裕を崩さない吸血鬼は、見下したように俺をいたぶるつもりのようだ。油断のおかげで時間はありそうだが時間は多くないだろう。
「次はこいつだ」
敵が腕を振り上げる。赤い液体と化した手首から先を地面に叩きつける。
地を這う無数の赤い筋が――あれはたぶんヤバい――!
咄嗟に"ブラッドムーン"からの"クラスター"を下に。地面を削り飛ばすが、抉れた地面でも構わず血の線は迫ってくる。咄嗟に上空に逃げるが――
「網から逃げたところで無駄さ――ブラッドサークル/ジェイル!」
足元に集った赤いラインから、無数の赤い光が立ちのぼる。
前に
無数の赤い光同士が交錯するが、撃ち落とせるのは一部のみ。
四方を囲む目の荒い光の檻は、そのまま俺に向かって収束――!
「ぐうっ…」
さっきの魔力流とは比べ物にならない焼け付くような痛み。しかしそれすらも少し間をあければクロエによって修復されていく。
「無尽蔵、というワケではないがね」
「さすがに何度も食らいたくねえよ。静電気のバチバチをきつーくしたやつとやけどの痛みを全身に、って感じ」
あれも血を使うスキルなら、原理次第では模倣がききそうだけど……。
「スーツがきみの長所のすべてではないというのに。あれは道具だ。道具のひとつだ。本質は
まだ何かを勘違いしてる、ってことか?
俺の利点はクロエの力と血と魔力くらいしか思いつかないんだが……俺が自由に引き出せずもてあましてる時点で少し違う気がする。
「いくらか檻の格子を撃ち落としたか……やるじゃないか。
なら次は少し本気の技を見せてやろうじゃないか!」
敵が新たに血で魔法陣を描き始める。対処をしなくてはいけないのに、クロエの言葉の理解を脳が優先してしまう。それが勝機なのだろうという漠然とした感覚。
「必要なのは我々の納得。
きみの技には、きっと威力を満たすキーがまだあるはずだ。
思い出したまえ、初日に見せた大技を。あれはとんでもない威力だっただろう?」
現HPの30%という破格の消費で高い威力を発揮する超必殺技。
だが、あの技を使った日は翌日まで目を覚まさなかった。
ああ、中学の頃はHP=血液 みたいなおおざっぱな設定だっけ。
そりゃ30%分も現在の血液を支払えばあのくらい威力は出てほし――。
威力と代償。納得感?
――それともう一つ、納得感を忘れるな。
――唐突に理由なく強いスキルを発想したところで、
おそらくきみとわたしは納得しない
――そうなれば能力は、威力を失う
逆説するなら、納得さえすれば発想は、威力を、持つ。
「威力だけでは、恐らくない」
「リスクとリターンさえ合うならば?」
「きっと代償は血液でなくても成立する。きみのそのバランス感が何に依拠するのかは、個人的には気になるところだがね」
その答えは簡単だ。俺にリスクとリターンの概念を刷り込んだ作品は間違いなくあれだ。姉貴に借りて読んだ名作だ。クロエが喜びそうだからそれは後でまた話すとしよう。
ああ、なんだそれ。試す
「完成だ――ブラッドサークル/サウザンドランス」
飛来する無数の赤い光の槍が俺を飲み込んだ。
ダークヒーロー フロム 黒歴史 Mitz @Mitz999
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