第11話 - 問題文はよく読んでおこう


 それは報じられていた事故現場などでは、決してなかった。

 周りには、巨大な口で食い散らかされたかのような車の残骸。



 ツバキさんの車で到着したのは、4つの事件のうち最も近い場所で起きた事件現場、トラックの事故と報じられていた高速道路の大惨事である。現場にはいくつかラインが敷かれていて、『対策室』の許しで入ることのできるラインをみっつほど超えたところで、はじめて凄惨で非日常的な光景が広がった。


「結界の一種だね。ひとつめが人払い、ふたつめが霊的ホログラフ……風景の偽装、いま通り抜けたみっつめの結界が記憶や認識を阻害して中であったことを忘れさせるモノだね。もっとも、われわれの場合少し気を張って抵抗レジストすれば簡単に無効化できるが」


 そういうもんなのか。


「"少し気を張った"だけでランクAの結界を抵抗レジストできる者がそうそういてはたまりませんよ」


 という相槌はツバキさん。メイド服のままこの大惨事の現場にいるのはどう見てもそぐわないが、彼女はてきぱきと周囲を捜査する手際は誰よりも手慣れている。さすがは元『対策室』所属。


「おそらくはでしょう」

「憑依の後が見えるね、トラックというところは真実だったか」


 指さした先にあったのは、黒い生物のような巨体。地球外生命でもとりついたかのような禍々しい雰囲気を放つそれは、生物と機械が融合したかのように変質している。おそらくはソレがもたらした破壊の傷痕の中心で。


「あの巨体を乗りこなしたなら、周囲の混乱と絶望感はたやすく煽ることができるでしょう。彼らの食料はすぐに醸成されることでしょうね」

「どの種の魔族にしろ強い情動は大概において良い食料となるからな。味の面でも、得られる力の面でも」


 ツバキさんとクロエはてきぱきと周囲から情報を集めていく。


「戦場に敷く陣のように、ここ一帯の魔力が染められていますね」

「敵は遠くはなかろう。わざわざ目立つような位置で事件を起こしているのは挑発か。ならば、狙われているわたしが餌としてここにいるならば――」


 どすん。

 飛んできた物体は、干からびた人体のようだった。

 いきなりのショッキングな画は俺の胃に結構なダメージを与えたが――


「誘き出すことくらいできるだろう」


 吐き気はムリヤリ押さえ込んで、あわてて変身した。


 ◇◇◇◇◇


「倒しそこねた吸血鬼か。ツバキ、きみは手を出さず周囲を警戒。また転送ワープの術者にさらわれてはかなわないからね――そしてこいつは、のの練習相手としては上々だ」


 クロエは軽く言うものの、前に見たときとは威圧感が段違いだった。

 オーラというか、放出される力で周囲がゆらめいて見えるほどだ。

 多分、こいつは、やばい。


「だからこそだよ。きみの妄想強度は大したものだ――が、ひとかけの魔力で大破壊を起こすポテンシャルはおそらくまだ活きていない」


 恐らくは血の使い方、そのが怪しいと睨んでいるのだがね、とクロエは続けた。


「おそらく何かが。きみは、きみの想像力の使たたかい方を覚えるんだ。ズレを見つけて、噛み合わせるんだ」


 霊体に戻ったクロエの念話が終わるか終わらないかのうちに、敵の姿がかき消えた。目で追うのがやっとという速さで傷が増える。


ってェ……んなこと言われたって……!」


 ひとまず手持ちの技で抵抗を試みる。


 まずは"ブラッドムーン"と、その派生技。

 しぶきを硬質化し、残りの血刀を魔力に変え炸裂させて撃ち出す広域カバー派生”クラスター”はしかし止められた。

 着弾で炸裂する巨大な弓矢"レッドステイク"、翼に血の刃を纏わせながら回転する突進技"カーマインホイール"もガードや蝙蝠への分裂・変身でことごとくかわされる。


 返す刀でくりだされる相手の斬撃。いくらかはこちらも血刀で防ぐが、斬り結ぶうち腕や足に痛みが――


「うあッ!?」


 電撃のような感触が体を貫く。


魔力流スパーク…軽い技だが、咄嗟の抵抗レジストができるレベルでなければダメージはあるか。血刀で切り結ぶのすら危険かもしれない」


 クロエいわく、純粋な魔力をぶつける初歩的な技。導く媒体さえあれば電流のように伝い、異物に襲い掛かる。吸血鬼であれば、当然ながら媒体は血であり、当然ながらその血刀にもあの魔力が伝っている。


「あれで小手先の技なのだがね。

 真に脅威なのは、血液で編み出す魔法陣かいろから発動される魔術や呪術だ」


 おいおい、まだ上があんのかよ……。

 使ってきやしないのは救いなのか。


「軽めのを使ってきた方がありがたいのだがね。きみが見るべきはヤツがどういう原理を纏っているか、そしてきみならどういう原理で上回れるか、だ」

「原理……?」

「魔術にせよ異能にせよ、それはそれぞれの原理セオリーを持つ。吸血鬼の"血操術"であれば、自身に属する血液をどう扱うかがキモだね」

「じゃあ、今の魔力流スパークも……?」


「あれは血液の"伝えるモノ"という概念を利用している。魔力流斬スパークスラッシュ(仮)というところか。血液とは何か、どういう概念を内包するモノかをうまく解釈して自分の望む奇跡を起こす――それは人間の魔術の基本でもあるがね」


 なんか概念○装って感じだな。

 それかシャボン玉で"摩擦"を奪うスタ○ドみたいな。


「いい解釈だと思うけれどね。

 きみの技はどういった原理セオリーで動いている?」


 俺の技の原理――いや、このスーツを着た俺のオリジナルキャラの技の原理か。

 ――そうだ、その強さの源はスーツだけではない。


 ――主人公はヴァンパイア・デーモン・天使・人間の混血で、

 ありうべからざる混血は神性・魔性どちらの力をも行使する。

 光と闇が合わさり最強に見えるというありがちな設定ヤツだ。


 あー……あー……当然ですね。うん。

 俺ふつうに両親とともに人間ですからね!!!

 なんだこのクソ問題!


 そうだ。このスーツの力を十全に引き出すのはその設定だ。

 神殺しに向かうのならば、引き出した血液から神性を消去すればいい。

 魔物の浄化ならば、天使の血を精製して神性を引き出せばいい。

 どっかで神とか精霊の血だって入ってる設定にした気もするぞ。

 だからどんな属性もお手の物、そんな俺TUEE系ヒーローメアリー・スーなんじゃねえか。

 

 ここまでの雑魚に対して火力を発揮したのはスーツが持つ『血液を利用する力』で十分だったからだ。「血液の中の魔力を最適化・利用する」ことに特化しているのがこのスーツなのだから。


 ――恐らくは血の使い方、そのが怪しいと睨んでいるのだがね。


「何が噛みあわないか、ピンときたようだ」


 ややこしいヒント出すくらいならさっさと答え言えよこの幼女。

 どーせある程度アタマん中読んでんだろお前。


「実感を伴わない経験は身につかないものさ」


 悪びれもしねえ。


「さあさあ、問題の読解を終えたら、発想と応用の時間だよ?

 カンペにもなるちょうどいい相手だろう?

 奇しくもきみと同じは」


 だから吸血鬼相手でちょうどいいとか言ったのねお前。

 戦闘中にやるんじゃねえ。


「次のお題だ。きみはどのようにこの噛み合わせを解消する?」

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