ⅩⅩⅥ ウチらの絆

 なんだかんだあって、ついにウチらの大学の学祭である漆色祭しちいろさい当日になった。大学の入り口が華やかなバルーンで彩られていて、たくさんの人たちが中に入っていく。その周りでは、手作りの看板を持った人たちが声を上げてお店を宣伝していた。来たことがなかったからよく知らなかったけど、ウチの学祭は地域で開催される秋祭りと同じくらい盛り上がるらしい。ウチは、肩から斜めにかけられた楽器ケースの紐を握りしめた。久しぶりに人前で吹くの、やっぱ緊張する。居ても立っても居られなくなって、みんなと待ち合わせしている時間よりもだいぶ早くに来てしまった。

「ちょっと学内を回ってみようかな?もしかしたら緊張がほどけるかもしれないし」

ウチは緊張した面持ちで、大学の中に入った。


「なんだかいつもより騒がしいなぁ」

 オレは木の上から辺りを見渡してみた。大学生や親子、ほかにもたくさんの人でごった返している。すると、入り口に括りつけられたバルーンに何かが書かれていることに気づいた。

「漆色祭?フーン、なるほどね」

たくさんの人々が集まっている。これはあの邪魔なEnsembleを倒すのにうってつけかもしれない。オレはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「Ensembleの8人を探し出せ。グラマー ソンブル」

オレが呪文を唱えると、黒い煙が辺り一面に広がっていった。


「ごめんごめん、遅くなっちゃった!」

 オーボエのケースを下げて、わたしは待ち合わせ場所でみんなと合流した。

「いいよー!まだ時間になってないし」

「あれ、彗は?」

「もう学校に着いているみたい。私たちも行こう」

7人で一緒に大学の入り口をくぐった。そして、控室の方向へ歩いていく。

「なんかさ、去年の学祭と比べてあんまり賑わってないね」

「ほんと。前より人出が少ないような……?」

すると、後ろから足音が聞こえてきた。その音が、わたしたちの方に近づいてくる。

「み・つ・け・た」

わたしたちは、一斉に後ろへ振り向いた。すると、知らない人が一人、わたしたちの方を見て立っている。

「Ensemble、見つけた」

みんなに動揺が広がっていく。なんで、今は変身してないのに……。すると、駆け足で大人数の人たちがわたしたちの所へ近づいてくる音が聞こえてきた。

「何かがおかしい。とりあえず逃げよう!」

珀の声でわたしたちは楽器ケースをそれぞれ抱えて一緒に逃げ始めた。追ってくる人たちが、次第に増えていく。

「何が起こってるのぉ!?」

霞が悲鳴のような声を上げた。すると、急に視界が開ける。どうやら、大学の中央にある大階段のところに出たみたいだ。

「これはこれは、Ensembleの皆さん。おや、誰かひとり足りませんねぇ……?」

声をかけられた方向に向くと、そこにはフリケティブの姿があった。

「これはあなたのせいですね、フリケティブ。多くの人たちが楽しみにしていた学祭をめちゃくちゃにして」

楽がフリケティブを睨みつけた。

「みんな、変身するよ!」

凪の一言で、わたしたちは呪文を唱えた。


「あれ、まだみんな来ないのかな?」

 控室に集合しようって言ってた時間から、とっくに30分も過ぎてる。LINE送ったのに既読もつかないしさ、さすがにこれ以上遅れると楽器のチューニングが間に合わなくなるよ……?ウチは辺りの様子を見ようと、楽器ケースを肩にかけてから控室のドアを開けた。身を乗り出してみても、人の気配がない。すると、何人かの集団がこっちに向かってくる足音が聞こえた。

「みんな、遅いよー」

声をかけると、鋭い視線がウチのもとに刺さってきた。

「み・つ・け・た」

ウチは気味が悪いと思って、とっさにドアを閉めて鍵をかけた。ドアノブがガタガタと音を立てて動き始める。今のはなに?一瞬でよくわからなかったけど、少なくともウチの知ってる人ではなかった。見つけたってどういうこと?この間にも、ドアノブが上下にガタガタと動いて、ドアがドンドンと音を立てている。とにかく、このドアを破壊されるのも時間の問題かもしれない。ウチは、楽器ケースの紐をボディーバッグみたいに体に密着するくらい短くした。そして、そばにあった椅子を持ち上げる。すると、ガタンという音を立てて目の前のドアが破壊された。ウチはその瞬間、持っていた椅子を振り回しながら控室から出た。そして、人の大群めがけて椅子を投げ飛ばす。ひるんでる間に、ウチは反対方向へ逃げ始めた。いろんな方向から追ってくる人たちを避けながら進んでいくと、視界が開けて記念ホールの舞台の上に出る。

「やっと出てきましたか」

ウチが客席の方に向くと、そこには腕を組んでニヤリと不敵な笑みを浮かべるフリケティブの姿があった。

「これはあなたの仕業ね、フリケティブ!」

「そうさ。ディソナンスにならない程度にすこーしだけ闇の力を人々に吸い込ませ、君を探しだしたんだ」

ウチは、強く拳を握りしめた。こんな、全く関係ない人たちを巻き込んで、学祭をめちゃくちゃにして……。

「ただ、今日は君を倒しに来たわけじゃないよ」

「どういうこと?」

すると、フリケティブがフッと笑みをこぼす。

「君はちょっと事情が特殊でね。君の後ろに背負っている楽器をオレに渡してほしいんだ」

フリケティブがウチの楽器ケースを指差してきて、ウチはそれに手を軽く触れた。

「事情が特殊ってどういうこと?なんでそこまでウチの楽器を欲しがるの?」

フリケティブが、はぁとため息をつく。

「こういうことさ」

そして、フリケティブが両手を広げる。すると、7つのシャボン玉のようなものが姿を現した。その中には、私服姿で眠るように意識を失っているみんなの姿があった。

「この7人と君の楽器さえあれば、オレの邪魔をできるものはいなくなる。そして、闇の力を使ってオレの好き勝手に世界を操れるようになる。まぁ、君がこの7人につるんで変身することがなければ、こんなことに巻き込まれずに済んだんだけどね……」

フリケティブの言葉に、ウチはムッとした。それに気づいたフリケティブは、まぁまぁとなだめるように話し始める。

「もちろん、その楽器を渡してもらう代わりに新しい楽器を渡すよ。同じ会社の同じ機種、作られた年も同じものをね」

ウチはそれを聞いて、震えるような声で話し始めた。

「ウチの楽器は渡さない。絶対に。あなたは何もわかってない」

フリケティブが顔をしかめる。

「たとえ会社も機種も作られた年も同じでも、ウチはそんなものもらっても何もうれしくない。それぞれ楽器の癖があって、たくさんの思い出がある。そのことをわかっていない人に、ウチの楽器は絶対に渡さない!」

 ウチは目を閉じて、大きく息を吸い込んだ。

「グラマー クオーレ!」

桃色の光に体中が包み込まれ、一瞬にして弾ける。舞台袖の方からさわさわと風が吹き、左右に結ばれた桃色のリボンがなびいた。

「フン。後悔してもしらんぞ」

フリケティブはにやりと不敵な笑みを浮かべた。

「グラマー ソンブル!」

フリケティブの呪文で、胸のあたりに鉄の箱のようなものがついたディソナンスが現れた。ウチが構えると、ディソナンスが耳が張り裂けそうになるくらい大きな雄叫びをあげる。すると、箱が開いてシャボン玉のようなものに入ったみんなが吸い込まれていった。ウチは拳を強く握りしめる。

「助けなきゃ。みんなのこと」


「ここ、どこ?」

「全然力が入らない」

「暗くて、何も見えなくて」

「どこかに落ちていくような気がする」

「さっきまで、何してたんだっけ?」

「手を伸ばしても、何も触れることができません」

「このままどうなってしまうんだろう……?」


 ウチは、強くステージの床を蹴って飛び上がった。ディソナンスの頭に拳を一発入れ、一瞬箱に着地した途端にふわりと跳ぶ。そして、鋭いかかと落としを繰り出した。かかと落としが決まったところで、お返しにとディソナンスの強烈なパンチを喰らう。ウチはホールの壁に打ち付けられた。背中にじわりと痛みを感じる。すると目の前に拳が現れ、間一髪のところで避けた。でも、反対の拳がすぐに飛んでくる。ウチは、強烈なパンチを腕で防ぐことしかできなかった。腕に強烈な痛みが走って、壁に大きなひびが入る。壁に強く押し付けられて、ディソナンスの拳が離れた瞬間にへなへなと地面に落ちて動けなくなってしまった。目の前にフリケティブが現れて、こう言い放った。

「さぁ、早く渡すんだ。お前の楽器を」

「渡さない。絶対に」

「早く渡せ。渡せば、こんな痛みや苦しみから解放されるんだぞ」

「いやだ。苦しんでるんだ、ウチの大切な仲間が。仲間のこと、絶対に助けたいから!」

「ふーん」

フリケティブが目の前からフッと消えた。その瞬間、ディソナンスが強烈なビンタでウチをステージに向かって飛ばした。ステージの壁に打ち付けられた瞬間、上に吊るされていた照明器具が目の前に落下する。ガシャーンという音とともに破片がステージ上に散らばった。目の前の光景を見て、恐怖のあまり涙が出そうになる。けど、ここで諦めるわけにはいかない。ウチは散らばった破片に気を付けながら着地して、呪文を唱えた。

「トラオム クオーレ!」

バトンを両手で強く握りしめて、先でディソナンスの胸の部分にある箱を指した。絶対に助けるんだ。音楽をもう一度楽しい、やりたいって思わせてくれたみんなのことを。ウチは、もう一度ディソナンスに向かって飛び上がった。

「Ensemble マルシュとデュエット!」

ウチはバトンで箱を強く叩いた。


 カコン!金属同士がぶつかった甲高い音が聞こえてきた。

「何か聞こえてきた」

わたしは、音が聞こえた方向に耳をすませてみる。

“なんか、聞こえなかった?”

“さっきのって、彗の声か?”

周りから霞と焔の声が聞こえてきた。

“彗だけじゃない。みんなの声が聞こえてくる”

“僕も聞こえてくるよ。みんなの声”

凪と珀の声も聞こえてきた。みんなに声が届き始めてる。

“あたしも聞こえてる”

“わたくしもです”

明も、楽も。みんなの声が聞こえてきて、わたしは涙が出そうになりながら叫んだ。

「わたしも聞こえてるよ!」

みんなの声が聞こえる方向へ手を伸ばす。すると、手を伸ばした先に金色の光が輝き始めた。その光が辺りを照らしてくれる。そして、みんなの姿が浮かび上がった。同じように、手を中心で輝いてる光のある方向へ伸ばしているみんなの姿が。

「こんなに近くにいたんだね。全然気付かなかった」

「私も。彗が、また私たちを繋いでくれたんだね」

みんなが頷く。すると、光が輝きを増してわたしたちが伸ばしている手を包み込んだ。そして、手首に腕時計のような形をしたブレスレットが現れた。

「すごい。力がみなぎってくる」

明が、ブレスレットを見つめながら呟いた。

「彗が、うちらを助けるために戦ってる」

「そうだね。今度は、僕たちが彗を助ける番だ」

「行きましょう!」

「うん!」

わたしたちは、ブレスレットを重ね合わせた。すると、光の輝きがどんどん増して、わたしたちを包み込んだ。


 ウチは息を切らしながら、ステージの上でバトンを構えていた。さっきウチが箱を叩いてから、なぜかディソナンスがウチへの攻撃を止めて箱を手で押さえている。すると、箱にひびが入っていき、そこから光がどんどん漏れ始めた。そして、ガッチャンという音とともにみんなが飛び出してくる。外に出た瞬間、私服から変身をしたときの姿に変わった。

「みんな!」

ウチは、目を見開きながら叫んだ。すると、ウチの左手首にブレスレットがはめられる。

腕時計みたいな見た目だけど、本来時計になっているはずのところに何も入ってない不思議な金色のブレスレット。

「お待たせ、彗」

澄がポンポンと肩を叩いてきた。もう、遅いよほんとに。心配したんだから。

「ありがとね。助かったよ」

霞も反対側の肩を叩いてきた。よく見ると、霞の腕にもウチと同じようなブレスレットがはめられている。

「くそ、あと少しだったのに。こうなったら……」

 すると、フリケティブはさっきみんなが入っていた箱に吸い込まれていった。そして、ディソナンスがどんどん巨大化して、あと少しで天井に頭がつくくらいの高さになる。そして、後ろや横のドアから客席に闇の力に飲まれた人たちがなだれ込んできた。

「いったいどうしたら……?」

ウチは、ディソナンスを見ながら呟いた。声が小刻みに震えているのがわかる。すると、ブレスレットがキラリと輝き始めた。みんなのブレスレットから、それぞれ楽器が浮かび上がる。霞はE♭エスクラリネット。明はマーチングメロフォン。焔はピッコロ。凪はマーチングフレンチホルン。珀はアルトサックス。楽はマーチングバリトン。澄はB♭べークラリネット。そして、ウチはアルトクラリネット。なんだか、力が湧いてくる。これなら、どんな敵でも倒せる気がする。

「私たちも行くよ!」

霞がブレスレットのついた方の手を突き出した。わたしも含めたみんなも同じように手を突き出す。そして、みんなで呪文を唱えた。

「「「「「「「「マルシュ 」」」」」」」」

オー!ルーメン!フー!トネール!アイレ!

トーン!エスパシオ!クオーレ!

 ウチらが呪文を唱えると、金色の光に辺りが包まれた。みんなで手を繋ぐと、金色の光がウチらの腕を駆け抜けていって、服が光に包み込まれる。霞・凪・楽・彗は、白い軍服と膝上の長さのプリーツスカートに服が変化した。袖口に金色のラインが入っていて、スカートにはプリーツの間からそれぞれのイメージカラーが見える。そして、膝下くらいまでの長さの白い編み上げブーツに靴が変化した。明・焔・珀・澄は、白い軍服とズボンに服が変化する。袖口に同じように金色のラインが入り、ズボンのサイドにはそれぞれのイメージカラーのラインが入っている。靴は白いローファーに変化した。その後、みんなの頭に金色のラインが入った白のケピ帽が被せられる。最後、サイドに金色のラインが入った白い懸章がかけられて、白いグローブがはめられた。

「きらめくB♭ベーは、青く広がる平和の音!伝われ、水の力!」

「きらめくCツェーは、橙に輝く希望の音!伝われ、光の力!」

「きらめくDデーは、赤く燃え盛る情熱の音!伝われ、火の力!」

「きらめくE♭エスは、黄に光る知性の音!伝われ、雷の力!」

「きらめくFエフは、緑にさざめく安らぎの音!伝われ、風の力!」

「きらめくGゲーは、紫に染まる思いの音!伝われ、音の力!」

「きらめくAアーは、白く創造する再生の音!伝われ、時空間の力!」

「きらめくHighハイ B♭ベーは、桃のハートに響く愛の音!伝われ、心の力!」

「「「「「「「「きらめくハーモニーは仲間との絆!鳴らせ、Ensemble!」」」」」」」」

 変身したのを見て、客席の後ろにあるドアから雪崩れ込んできたたくさんの人たちが、ウチらの方に襲いかかってくる。

「アンサンブル!エスポワール・マルシュ!」

明の呪文で、ウチらの目の前に光の壁ができる。すると、襲いかかってきた人たちが壁の眩しさに目を押さえ始めた。明のブレスレットが橙色に輝いているのが見える。

「うちがこの人たちを元に戻すよ!」

すると、凪のブレスレットが緑色に輝き始める。

「アンサンブル!デスカンソ・マルシュ!」

凪を中心にして、緑色の光が周りに広がっていく。すると、我に帰った人たちがディソナンスを見て悲鳴を上げる。ホール内に動揺が広がっていくのが分かった。ディソナンスは、ウチらに向かって拳を振り上げる。

「ここで戦うのはまずいな」

焔がブレスレットを赤色に輝かせながら、ディソナンスに向かっていく。

「アンサンブル!エクスプロージョン・マルシュ!」

焔の炎をまとった右手でディソナンスの攻撃を防ぐ。そして、そのまま押し切ってディソナンスごとホールの天井を破り、外へと飛んでいった。ウチらはすぐに天井の穴から外に出ていく。動いているとき、体がいつもより少し軽くなっている気がする。珀がディソナンスの目の前に飛び出て行った。

「アンサンブル!ケントニス・マルシュ!」

珀のブレスレットが黄色に輝き、手から放たれた雷がディソナンスに走った。ディソナンスが力なく落ちていく。落下地点に入った霞が、ディソナンスに手のひらを向けた。

「アンサンブル!シャローム・マルシュ!」

青色に輝いたブレスレットから、噴水のように水が勢いよく吹き出していく。そして、ディソナンスに当たった水がカチカチと凍っていった。霞がさらりと避けたところに、ディソナンスが落下する。凍って動けなくなったところで、楽がブレスレットをディソナンスに向けた。ブレスレットが紫色に輝き始める。

「アンサンブル!アローム・マルシュ!」

楽のブレスレットから出てきた音符が、矢のようにディソナンスの周りに刺さっていった。ウチと澄が一緒にディソナンスの上に飛び上がる。楽のおかげで、ディソナンスを狙いやすい!

「アンサンブル!リバース・マルシュ!」

「アンサンブル!リーベ・マルシュ!」

澄のブレスレットが放つ光を受けて、時間が戻っていくようにディソナンスが少しずつ消えていく。そして、ウチのブレスレットから出る光が残った闇の力を溶かしていく。あと少し、あと少しで倒せる。すると、急にディソナンスの手が現れて、澄のことを掴んだ。そして、そのままディソナンスの方へ連れて行かれてしまう。

「澄!」

驚きのあまり、ウチの攻撃が消えてしまった。ディソナンスの胸のところにある箱から、フリケティブの顔が半分見える。ギョロっとウチらのことを見ていて、背筋が凍るような気がした。

「このままやられてたまるものか。こいつに闇の力を注ぎ込めば……」

「そうはさせない!」

霞がウチの方へ飛び上がり、ウチと手を繋いできた。ウチは霞と目を合わせ、頷く。絶対に澄を助けてみせる。

「ハピネス オー!」

「トラオム クオーレ!」

2人のブレスレットから霞の手にタクト、ウチの手にバトンがそれぞれ現れた。

「「響け!幸せと夢のDuetデュエット!」」

B♭ベーHighハイ B♭ベー

ディソナンスの方に向いたタクトとバトンの先が当たって、きれいなハーモニーを奏でる。

「「アンサンブル!シャローム・リーベ!」」

タクトとバトンの先から辺りに煙がどんどん立ちこめて、ディソナンスと澄の姿が見えなくなっていく。すると、煙の中から澄が出てきた。煙でディソナンスが怯んだすきに、時空間の力を使って逃げ出してきたみたい。煙が次第に消えていって、フリケティブの悔しそうにしている目が見えた。ウチらの所に、5人が集まってくる。

「これでとどめだ!」

焔がディソナンスにこう言い放った。

「「「「「「「「きらめく音楽は、8人の奇跡!」」」」」」」」

前に突き出した腕に付けられたブレスレットから、それぞれ金色に輝く楽器の姿が浮かび上がる。

「「「「「「「「セットアップ!」」」」」」」」

すると目の前に五線譜が現れて、そこにブレスレットから浮かび上がっていた楽器がぶつかり、音符に変わる。その音符が五線譜上に音階の順に並んだ。

「「「「「「「「アンサンブル!MiracleミラクルMarcheマルシュ!」」」」」」」」

五線譜上の音符がディソナンスに向かって伸びていく。ウチらの攻撃を受けて、ディソナンスとフリケティブが静かに姿を消していった。


 学祭が終わって、校舎の後ろから橙色に輝く夕焼けがウチらを照らしてくる。

「せっかくの彗が音楽に復帰できるチャンスだったのに……」

横で頬を膨らませながら、霞が呟いた。それを澄がなだめている。

「いいんだよ。別に」

ウチは歩みを止めて、空を見上げた。みんながそれに気付いて、ウチを見ながらその場で足を止める。

「だって、音楽がまた楽しいって思えたから」



~Fine~

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Ensemble~マルシュとデュエット~ 鈴珀七音 @howarm0720

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