ドラゴンTRPG:暗い暗い底で
部屋に男が一人、その男は凶相にも見える笑みを浮かべ何かを書き殴っていた。
「フフフ……王国も帝国もこんな場所に研究所があるとは思うまい…!」
狂ったような笑声が響く中、天井が小さく軋む。
ここは、アウシュウィラ魔導皇国があった場所の地下深くにある極秘研究室だ。
皇国があった場所、というのもその国は既に湖に埋もれ、竜たちの手によって(あるいは魔法によって)更地に変えられてしまったからに他ならない。
軋む天井の上では未だ竜たちが暴れているのだろう。
王国はともかくとして、帝国の竜は暴れること、あるいは力を示すことにしか興味が無いのだから。
皇国は在野の竜が集まりやすい場所に造られていた。腕試しの相手には事欠かないだろう。
男はなおも机に向かい、何かを紙面に書き殴っている。
「生体エーテルはもう駄目だが"コイツら"はまだ使える…作ってみせる……!今度こそ、創造の力を我が手に……!!!」
男の背には壁一面にずらりと並んだ培養槽。
その中で薄緑に輝く培養液に浮かんでいるのは、色が抜け落ちたような白髪の少女達。
彼女たちは男の計画によって生み出された、とある竜のクローン達だった。
「あの失敗作も馬鹿なもの…!たかが銃弾で死ぬわけが無いだろう!!今に見ていろ……こいつらが完成したらこの世界は私のモノだァ……!!!」
男は寸刻前に確かに胸を銃で撃ち抜かれていたが、白衣に込めていた魔法の効果で死の間際、ここに飛ばされていたのだった。
そして、男の言葉の真偽は定かではないがこれらのクローンたちが完成すれば創造の龍の力が再現できるのだろう。
それは始祖の力を手に入れるということだ。
であれば、全てを創り出した始祖の力なれば、それはもう神の力と言えるのではないか。
「もう少し……もう少しで帝国も王国も終わりだ……ふは。ふはは…フハハハハ!!!!」
男は笑う、復讐がなされる時を夢みて。
「そして……私が新しい創造主に…!!!」
男は嗤う、己に傅く民衆を幻視して。
「全ては…!私のモノだァーッハッハッハッ…!ハッ……ガッ…!!!」
男は――
「……へぇ、創造の竜を蘇らせる…ねぇ。なかなか面白いことしてるじゃん、人間"も"。」
――突如現れた剣に胸を貫かれた。
「でもこれじゃぁ不完全だ、"あの子"のような未完の子しか生み出すことは出来ない。」
男は血を引いて倒れ伏す。
「だからこの研究は私が引き継いであげよう。なぁに、心配しなくていいとも。君は人間だが?私は竜だ。君よりきっと良い結果が出るよ――」
その声は、それまでに聞いたどんな声よりも優しくて……。
「ァ……ぅ……。」
……消えゆく男の意識には響かなかった。
了
TRPG自キャラSS 綾川令也 @Reiya1223
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