第2話:目覚めの遺跡

今回の『冒険』そもそもの発端は数週間前に遡る。

ある澄みきった青空、晴れた日にゼノが言った一言から始まった。


「島民が寄り付かないあの遺跡に何か秘密があるはずだ、それを俺達で暴き出そうぜ!」


言い出したら止まらないのがゼノだ、暇さえあればカインの元に赴き、時間の許すまで遺跡の中をくまなく調べた。

そしてたどり着いたのが遺跡の中で、唯一損傷が少ない石扉だった。

重々しい大理石で作られた扉は堅く閉じられ、押しても引いてもビクともしなかった。


他に入口は?何か入るためのスイッチ、カギは無いのか?散々探した挙句見つかったのは透明な欠片だった。

最初に見つけた時は瓶の破片かと思ったが、不思議なことにその欠片から何かを感じ取った二人は同じような欠片が無いか探し回った。最終的に三つほどの欠片が見つかりそれらを合わせてみると、なんとピッタリはまったのだ。


「おいおい……もしかしてこれ、あの扉を開ける鍵かヒントになるんじゃないか!?」

「かもしれないね。でも、まだ欠片が足りないみたいだよ、ほら」


カインは集めた欠片をゼノに見えるように置くと、どうやら元は球体のような形をしていたようだが、今ではいびつな三日月のような形になっていた。

これ以上、遺跡の中には欠片が無いと二人は思っていた。もしあったとすれば彼らは昔からこの遺跡を遊び場にしてきた。だから言ったことのない場所は、あの扉の奥以外ない。


「そうだな……あ、そうだコイツになにか書いてあるかもしれないぞ」

「それは……?」

「ふふふ、勉強をするという『嘘』の理由で城の古びた倉庫を漁っていたら、偶然見つけたものだ。なんか神秘的な感じがするだろ?」


ゼノは辞書ぐらいの分厚い本を取り出した。あれだけ遺跡を探して歩いていたのに重くなかったのかとカインは思った。

表紙には見たことも無い文字が記載され、ゼノがゆっくりと本を開くと中も同じくみたことのない文字でびっしりと埋まっている。

ゼノが本をパラパラとめくっていく、カインと同じで文字は読めないようで何かヒントになりそうなページがあればと次々とめくっていく……と。


「お!おお!!これ見てみろよ、この石像と遺跡の形が一緒じゃないか!?」

「本の中はまだきれいな形をしているね、一体どのくらい前の物なんだろう」

「次のページは……開け方か?三人の人物が扉の前に立っているみたいだな」


本の中で唯一挿絵が描かれている場所はまさしく彼らが開けようとしていた石扉とうり二つだったが、やはり肝心なことはこの文書を解読しなければ分からないようだ。


「この文字みたことないけど、ゼノは?」

「分かってたらとっくに試してるさ……そうだ、の奴の所にもっていってみるか!」


ココ。イース島内で数少ない歴史研究科の一人だ。

ゼノとカインと同い年でありながら既に博士の称号をもらうほどの実力者で、何度も遊びに行っては追い返されていた。最近はなんだかんだいいながら追い出されることも少なくなってきたこともあり、彼を訪ねてみることにした。







『選ばれし者は清き魂を持ち、困難に立ち向かう勇気、たとえ悪であっても受け入れることのできる慈愛の心、これらを兼ね備えた者、大いなる試練を受ける資格なり。さすれば新たなる道が示されるであろう』


ゴルン城の目下に広がる城下町、ゴルン・シュタット。

その郊外に住むココは解読した文書をカインたちに伝えた。最初は乗り気ではなかった彼だが、その古文書を見るや否や目の色を変え、彼らが求めているであろう一文を解読してくれたのだ。

それから『全て解読するまで預かる』と言ってさっさと家を追い出されたのは言うまでもない。


そしてカインたちは再び遺跡に戻ってきた。


「清き魂、立ち向かう勇気、慈愛の心……それらを示せばこの石扉が開く、そういうことだよな?」

「多分ね」

「そうと決まれば……やるぞ、心の準備はいいか?」


ゼノの言葉に迷いの文字は無い。終わりはどうであれ最後まで付き合うよ、とカインは微笑みを見せる。二人は目を閉じ強く念じた。


(もし、俺達にこの扉を開ける資格があるのなら……)

(その先にどんなことがあったとしても頑張ります、だから……)

((どうか、僕、俺を導いてください!))


たまに吹く風の音しか聞こえない遺跡、二人の目の前の石扉はその静寂を破るかのように重く、鈍い音を立てながらゆっくりと開き始めた。


「あ、開いた!いろんなことを試しても開かなかった扉が簡単に!!」

「ゼノ、見て何かが奥にあるみたいだけど暗くて良く見えないね」

「大丈夫だ、こんな時の為に用意してある……ほら、手製たいまつだ!」


石扉の周辺には彼らが扉を開けるために使った道具が至る所に置いてあった。どれもこの扉を開けることが出来なかったが、その中には開いた時に暗くて見えないと想定して用意していた、たいまつがあった。


紅蓮ぐれん石と呼ばれる一度火が付いたら燃焼し続ける赤い石を、365日乾燥させないと燃えないと言われている水木みずきと呼ばれる木を束にして埋め込み、火打石で火を付けた。


赤々と燃える始めた紅蓮ぐれん石は普通の火よりも赤い色をしている。

ゼノは一本をカインに渡すと、自分も一つ手に持った。

開いた石扉の前に彼らは互いの顔を見合わせると抑えきれない感情が顔に出ているようで、頬がゆるむのがわかる。


「俺達、ついにやったんだな……!」

「遺跡が僕たちを認めてくれたんだよね!」

「よっしゃぁ!じゃあ突撃するぞ!!」

「うん!」


二人は遺跡の中に飛び込んで行った。







「で、この台座を見つけて、そのマテリアル?とかいうものを置いたけど、やっぱり足りてなかったってわけ?」

「まぁ、そうなるな」


ここまでのことをラウラに説明をした。

自分が参加できなかったことが悔しいのか、ふくれっ面をしながらゼノの話を聞いていた。


カインやゼノは思った。今自分達がいるこの空間は神殿のようなものだったのかもしれない、そこらじゅうに並び立つ石像はまるでこの空間を守る様に並び立ち、台座の正面には一段と大きな石像が両手で剣を持ち、掲げた姿をしている。


まるでこの場所を絶対に守るといった固い意志のようなものを感じたからだ。


「ってなわけで、はめるぞ」


ゼノはカインからマテリアルの欠片を受け取ると台座に置かれたかけている球体にそっと近づける。欠片はまるでパズルのピースを合わせるかのようにぴったりとはまった、欠けてたのが嘘だったような綺麗な黄色の球体にもどった。


「さてさて、何が起こる……ん?」


ゼノが期待の眼差しで球体を見つめていると、天井に向かって黄金色の光が伸びていく。


「え、ちょ!?何よこれ!!?」


ラウラがカインの腕に抱き着きながら狼狽の声を上げている。


「この光は一体……!」


黄色の球体は台座から浮かび上がるとまばゆい光が天井だけではなく、空間全体に広がり始める。


「やべぇ!カイン、ラウラ!逃げ……」

「きゃあぁぁぁ!!!」


焦ったように叫ぶゼノ、甲高い声をあげながらカインの腕にしがみつくラウラ、周囲を照らし出す光に三者三様の声を上げる。


三人はまばゆい光によって前が見えなくなると、不思議な浮遊感に見舞われた。

上下どちらが正しいのかわからなくなる感覚に全身を包み込まれ、踏ん張ろうにも足元の床は消失してしまっている。


(この感覚は一体……ッッ!)


カインの頭の中に声が響いた、決して嫌な感じではなく暖かい声が






『――マテリアルに導かれし者よ、時を遡り、元ある世界を取り戻すのです――』




「あれ……この声、どこかで……」


カインは聞いたことのある声を思い出そうとしたが、だんだんと意識を失い、身体を包む不思議な本流に身を任せ、どこまでも続く不思議な空間を流れて行った。






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光と闇のアンチマテリアル エグニマ @admiral_kob

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