第9話 終わり
あっという間に一年の月日が過ぎる。
3月。卒業式。出会いあれば別れあり。高校三年の最後を締めくくるにふさわしい日。宗介は高校を卒業する。もっとも出会いを惜しむ友はいない。卒業式という日は基本的に部活動の仲間で過ごすものであり、一人になってしまった宗介はひっそりと帰宅した。もっともプライベートであう仲間は何人かいて小学校、中学校、そして、高校と恵まれた日を過ごした。と思う。
「何をしょぼくれてるのよ!」
帰り道。声をかけられる。漫画家の唐井ひつじだ。
「いや、帰ろうと思って」
「彼女を置いて帰る奴があるか!? めえめえ」
唐井ひつじはいわゆる彼女(?)だ。
恥ずかしながらご報告を。イラストという共通の趣味を持ち、バイトを通して交流を深め、卒業前にめでたく付き合うことになった。しかし、二人とも初心でまだキスすらしていない。残念というか、まだ早いというか。小学生カップルに笑われる。
宗介の恋愛事情はさておき、目標であるイラストレーターになる夢はどうなったのかを発表する。まだ、なっていない。当然だ。一年では何も変わらなかった。彼女のひつじも四苦八苦しているそうで。チャオで天才女子高校生漫画家! と叫ばれながら鳴かず飛ばずの連載を続け、卒業を前に無職になってしまったらしい。今後はアシスタントとして一から出直すとか。
「めえめえ。宗介の進路はどうなったのか?」
「前に話したはずだ」
「まだ聞いていない」
「ったく」
同級生が有名大学に進学したり、浪人したりする中。唐井ひつじは漫画家のアシスタントという道を選んだ。まあ、彼女には絵の才能があるのだから周りは至極当然と納得した。では宗介は? 彼は絵の才能がないのに、どうするのか。
二年生から決まり切っている。答えはすぐに出た。
「フリーターになってイラストレーターを続けるよ」
夢は諦めない。絵の仕事で安定した収入を得るために努力を続けている。
「バーカだ、こいつ。ここにバカがいる」
「うっさい」
「まあ、それでこそ私の彼氏だ」
唐井ひつじがポンっと宗介の肩を叩く。スキンシップというものはむず痒い。
読者の皆様。メタっぽいけど許してください。物語の結論から言うと、宗介はアマチュアのイラストレーターになった。デジタルイラストはどうしても苦手だったが、一年の努力が実を結んだ。
ココナラというサイトで一枚500円ほどでイラストを描いて売っている。まだ10枚くらいしか売れていないがイラストレーターの道は着実に開いている。
唐井ひつじが手を引っ張って言った。
「宗介や。ラブホに行こう」
「はあ!?」
「卒業して漫画の担当から許可が出たのじゃ。えっへん」
唐井ひつじは変な奴だ。チャオでアイドル漫画家としてデビューし、高校卒業まで男女交際を禁止されていた。それが解かれたとかなんとか。
「ちょっと待ってくれよ」
「え、嫌なの?」
「そうじゃなくて……」
いきなりで無理だ。まずは一歩ずつ男女交際を始めよう。例えば、最初からプロになるのではなくネットで少しずつイラストを描いて名を広めていくように。
「その、キスで、お願いします」
「よかろう!」
フレンチキッス。ファーストでカルピスで超弩級というやつだ。意味不明でごめんなさい。
兎にも角にも、毎日少しずつ努力すればいいのではないでしょうか?
プロにならなくても夢は叶うし、アマでも500円稼ぐことができる、と心に刻む。
金銭のやり取りは責任であり、責任は大きく成長を促す。今度はコミケに向けて再チャレンジだ。目指せ、同人作家……じゃなくて、イラストレーター!
唐井ひつじと付き合ってたくさんの技術を教えてもらった。また、夜に、違うことも教えてもらった。彼女は、「めえめえ」と得意そうに言った。
ちゃんちゃん。
※プロじゃなくていい、アマチュアで好きなことをしよう、というお話でした。ありがとうございました!
イラストレーターになりたくて震える。 ハカドルサボル @naranen
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