英国トラス政権はなぜ英国史上最短政権で終わったのか? ←MMT的な金融政策はかならず失敗するから

コラム:スナク英次期首相、乗り切れるのは当座の危機だけか

https://jp.reuters.com/article/breakingviews-sunak-idJPKBN2RK00R


まずはおめでとうございます…m(_ _)m

正しい判断だったと思います。


彼が英国政治史初のインド系(少数派)とか、史上最年少とかの「ポリコレ大好きくるくるぱよく」な話などというのはくだらない話なので、しません。大富豪の嫁をもらって超お金持ちになった「逆タマ」な彼の人生についても特に興味もありません。またスナク内閣の国際的(対外政策)・政治的(英国内政策)な方向性に関しても「ワイが英国人でもなければポンドで納税したこともない」ので英国政府への内政干渉はしないつもりです。興味、あんまりありません。


代わりに強く感じたのは「日本は世界の20年先をいく国家だった」という事です。

現在、先進諸国でコロコロと内閣が変わっています。不安定な短命内閣が続くということですが、これは安倍政権以前の日本が20年間続けてきた迷走とほぼ同じ。つまり「現在の政権が経済問題に対処できる能力がない」ということの繰り返しだったという事です。日本の後追いを世界が始めた理由ですが、ワイが思うに「債務破綻」が早かったか?遅かったか?…の違いと思っています。


日本はバブル崩壊で当時のGDPの1.4倍近い債務を抱えて国家破綻寸前まで逝った。このため景気は長期に低迷した。「政権が長く続くかどうか?」とは国内の経済状況が良いか悪いかだけの問題であり、景気が悪い政権は支持率が低く短命で終わる…という西側民主主義国家の鉄則に従った時代でした。


現在の世界は日本のバブル後の失われた20年と全く同じ問題を抱えた「国債バブル」時代の結果であり、国債を全世界が刷りまくったために発生した高インフレ発生と貧富の格差増大という問題に直面し、景気悪化になれば政権の支持率は低く短命で終わる…という西側自由主義陣営の鉄則に従ってEU諸国などではコロコロと政権が交代する不安定な時期を迎えたというだけに過ぎません。カネでみれば単純でわかりやすいのです。


スナク首相は手堅い実務派で、しかし「手のひら返し」を得意技とする曲者です。カネにまつわる悪い噂も結構あるのですが、多分、英国国民はそんなこと気にもしてないでしょう。高インフレと景気悪化という実質的なスタグフレーションをどうするか?…という極めて難しい問題に対処できるかどうかだけです。極めて難しいとは思いますが…( ・᷄д・᷅ )


立場は緊縮財政派と言われていますが、ワイが見たところ「現実主義者」です。その時々にあわせて柔軟に対処できる手堅い実務派、つまり「手のひら返し」が出来る経済人です。なのでマネタリズムもケインジアン的な手法も両方用いることが可能ということで、その意味では現下における正しい選択肢だったと思います。新コロ前は減税や新自由主義的な景気拡張策を、新コロ後は弱者救済のための財政出動を行ったとされています。スタグフレーション下の国家運営という誰もがやりたくない事をやる事になった彼は、ごく普通に考えれば緊縮財政と高金利政策による速やかなインフレ脱出を狙う「国民に激痛を伴う政策」をやるしかないでしょう。将来は不透明ですね、こりゃ…(๑¯ω¯๑) 

  

なので此処では別の話を…m(_ _)m

なぜ前任者トラスは失敗したのか?…です。


トラスの手法は彼女が崇拝しているサッチャーのやり方です。新自由主義的…というよりもむしろハイエクなどの、より強い自由主義的な政策運営です。サッチャーの頃と同じく2022年は景気悪化と失業率増加、インフレにも苦しんでいた。なので金持ちへの減税を含めた大幅な減税によって景気刺激を行い、金持ちは投資によって・貧乏人は労働によって自律的に自分たちの経済を立て直す。政府の役割は小さくし、結果、支出は抑制され、景気回復と共に税収入自然増から財政状況も好転する…ということをトラスもまた目論んでいたように思います。

実際、約9兆円の減税案を提出したのですが、現実にはその直後に「財源の裏打ちのない減税」に対する政府財政の悪化への不安から市場が動揺。トラス政権への不信感からポンド売り・英国投げ売り祭になり、証券債権ポンド全面安になりました。特に資金運用の原資を英国債に頼っていた年金各社は実に29兆円もの損失を出したと伝えられています。これは致命傷です。こうなった理由は「トラスへの不信感」です。信用できない政府の資産は暴落するのです。


しかしサッチャーの時にも似たような状況の時に似たような事をやったのに、サッチャーは英国を回復させトラスは英国を没落させた違いは何だったのか?


ワイは「トラスが市場との対話が出来なかった」からだと思いました。サッチャーの時の英国の問題は、労組などに対する過大な保護政策や、福祉などへの財政能力以上の支出、それに対して経済成長率を上げるための政府の施策がないということを「市場」が認識していて、この市場の認識ニーズを嗅ぎ取ったサッチャーが「市場の望むとおりに」やったために政権運営できた、と見ています。サッチャーの最初期は景気低迷などが続き、経済状況は「非常に悪い」のですが政権崩壊に至っていません。市場は「やってほしい」事を困難な環境下でやっていた事を認めていたからです。


一方、トラスの場合、市場は「速やかで包括的なインフレ対策を」求めていたと思われます。


一般論として、高インフレは長く続く悪性のガンのような病い。なので治療には激痛を伴う。なら激痛を伴う治療はできるだけ短期間でまとめ、その間に患者が死なない工夫をした挙げ句、健康を回復するための包括的で実行可能な治療プログラムを提出してくれ…ということでした。


現在の市場の認識だと、まずインフレ対策。これは金利を上げ、市場でのカネの流れを抑圧する事です。当然、景気が著しく悪化し、失業率悪化・貧乏人の生活苦をもたらします。この時に政府が弱者救済を行い困窮者を助ける「手当」をすることで、後の景気回復時の労働力と消費市場の確保をやってほしいのです。そして高インフレの抑圧が確認できたら、今度は逆にインフレ成長戦略へと戻し、失業率と国民所得の向上を目指す…という治療法が求められていました。「インフレ抑圧→生活苦の癒やし→好景気へ反転」というプログラムです。


この通りにやることを市場は期待しており、インフレ抑圧と貧困の時期をできるだけ短期間に縮めてやり過ごす。たとえ死にかけるほどの激痛を英国が負うことになっても短期間なら我慢でき、この短期間の激痛を癒やすための諸政策を実施するのが政府の役割…とされていたのですが、トラスは全くこれに答えられませんでした。高インフレ時の減税は「市場にカネを放出する=インフレ促進」なので、対インフレ政策への重大な矛盾となります。同時に減税は英国政府財源への著しい不安感をもたらしました。


もともとキミら、カネないのに、ますますカネ、なくなるよね…ಠ_ಠ;?


という不安に対して「こうやれば、こうなる」という迫力ある「復活への道筋」がトラスにはなかったのです。「市場」との対話不足、納得させられる方向性が無く、疑問に堪える事も出来なかったトラスを「阿呆」と判断したために一斉に英国資産を売却し「一旦逃げ出す」事にした…ということでした。海を真っ二つに割ったのはいいが、地図も持ってないので「約束の地」がどこにあるのか紅海の底でウロウロさまよい始めた…という「迷子のモーゼ」がトラスでした。不用心な救世主でした(爆死



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しかしより重要なことがあります。市場は「英国はこっそりと財政ファイナンスをしていた(ꐦ°᷄д°᷅)💢」事を知っているのです。W&Mファシリティーズの事です。詳細はこちらの方に譲るにしても…


『だから財政ファイナンスは辞めるべき(中編)←いやいや、ちょっとまって(゚д゚)!? 意外とイケるよ、これ。キミもヤッてみないか?(by英国+インドネシア)』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884987864/episodes/16816700427376090013



…要するに「信用創造」を悪用した形です。信用創造とは「結果として、銀行に預けたカネが数倍に増える」という理屈であり「預金額の1/支払準備率」倍だけ増えるという内容です。たとえば「銀行には預け入れ金の10%はイザという時に備えて残しとけ。あとは貸付にまわしてもいい」という事ならば、その結果、銀行は貸付回った挙げ句、預け入れ金100万円×(1/0.1)=1000万円を手に入れることになる…という理屈です。


ならば「預け入れたカネ×(1/支払い準備金)」分はカネが生成されるはずなんだから「その分、カネを借りてもいいじゃん(๑•̀ㅂ•́)و✧」…という理屈も成立します。英国のW&Mファシリティーズは「そういう事」なのです(ただし英国は2006年以後、支払い準備金制度自体はやめているのですが…汗)。


あらかじめ英国政府が英国中央イングランド銀行に預金を入れておく。んで、新コロの時のような莫大な政府支出が必要となる緊急事態の時、英国短期国債(←金利が超安い)を担保にイングランド銀行からカネ「借りる」。この借りたカネで政府財源を補う。これだと政府は国債という借金を増やすこと無く資金をゲットする事が出来、後の財政破綻を防止できる(少なくとも破綻しにくくなる)…


…とまあ、よく考えたこと(爆)

そして実際に「良く機能している」のです。リーマンショックの時にこの仕組みを使い、判ってるだけで4兆円規模の「(疑似)財政ファイナンス」を実施し、英国経済を立て直した実績があります。政府を運営するにあたって「支出 > 収入」となる場合(そして大抵はそうなる)、どう対処するか?…の英国流の解決法です。日本が「多額の国債を資産として投資に回す」という「国債特会」とは別のやり方です。


このW&Mファシリティーズは擬似的な財政ファイナンスなので、財政ファイナンスの問題が出ます。つまり「政府はカネがないかもしれないが市場はそうとも限らない」という事です。財政ファイナンスをすると、結果としてその国の貨幣乗数倍だけお金が増えます。んで、市場でカネが増える=通貨の総量が増える=インフレなのでイギリスに物価高をもたらします。2022年9月の英国の物価上昇率は前年比9%以上ですが、この物価高の一因はW&Mファシリティーズが原因です。財政ファイナンスなのだから、物価高で苦しむのは当然のことで、政府が新コロ直後に「政府財源が足りない」からカネを中央銀行から引っ張ってきて撒いたのであれば、これは本来、市場では「必要はなかったかもしれない」カネです。そういう場合に過度なインフレになり、この後始末をしなくてはなりません。


これがトラスには判らなかったことでした。よってスナクは「撒きすぎた過剰なカネ」の回収から始めねばなりません。いま英国に必要なのはカネの回収という「インフレ対策」であって、景気を良くするという「インフレ成長(≒カネの総量が増える)」ではないのです。

ただし、現下ではこれがまた問題となります。インフレは物価高。よって貧乏人がより生活苦になります。この困窮民救済のための財政支出をどうするか? 「英国政府にはカネが足りない」という問題です。

市場にはカネがありすぎ、政府にはカネがなさすぎ…というジレンマをスナクがどう対処するか?…ということなのですが、再びW&Mに頼れば結局、さらなるインフレ。またスナクが言うように財政均衡(緊縮財政)で新コロ後の英国財政を立て直す…というのならば貧困層は援助がなくなり潰滅。それは今後の英国国内市場の劣弱化を招く愚策となるわけです。


ワイが思う唯一の解決策は「金持ちをターゲットにした大幅増税」しかありません。増税は常にデフレ要因でもあるわけで、対策としては正しいのですが、そもそも保守党は「金持ちの党」でもあるので政治的に可能なのか?…という問題にぶち当たります。


スナク政権も短命で終わるかもしれませんね…(๑¯ω¯๑)



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我々にとってより重要なことは、「MMT的な解決方法は失敗する」ということの方でしょう…(๑¯ω¯๑)


インフレの時、庶民生活が苦しいということで大幅な減税をすれば財政悪化懸念から株安・債権安・自国通貨暴落という「円を投げ売りして逃げ出す」という動きに繋がります。これは誰にとっても貧困を招く結果です。多額の債務のある日本では出来る方法ではありません。

また仮に可能だったとしても(=財政状況がよいor政府債務が少ない…などの国)、市場にカネがバラ撒かれることで益々インフレが亢進します。今日の日本もジリジリと物価高です。およそ前年同月比で3%と、日本にしては「かなり高い」といわざるを得ない状況です。この悪い状況に拍車がかかるだけです。


貧乏人がたくさんいてカネがないのなら、カネを刷ればいい

いくらカネ(国債)を刷っても国家は破綻しない


その結果がいまの英国であり、国家は破綻しなくても庶民生活(特に貧乏人)が破綻するのです。カネを撒きすぎれば必ずインフレになり、インフレは貧乏人を殺す「苛税」でしかありません(:_;)


この時、「国家にはもうカネがないから緊縮財政を採用する」というのならば、もはや富裕層への大幅課税しかないということです。結局、増税です。本当に残念な話ですが、国が困った時には増税しかなくなるのです。これもしょうがないことで、増税しなければ「インフレ」という「貧乏人により重い負担」がかかる事実上の税金…俗に「インフレ税」と呼ばれる状況になるからです。ならば国を事実上動かしている富裕層に対して、勇気を持って増税をぶち上げることの出来る政府が正しい政府ということになります。


右翼・左翼のポピュリズム的な扇動政治屋のいうことを「聞いてはいけない」ということでした。バカと悪魔は甘い言葉で、皆さんの軽くなった財布に近づいてくるものなのですから…m(_ _)m

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