ニウスライト

安良巻祐介

 

 モト・ポートというところへ行けばどうしようもない人生に救いが得られるという新聞広告に釣られ、幾人かの若者が土曜日の午後に使われなくなった汽管廃線の駅にこっそりと集まって、放擲されたカプセルのいくつかを盗用し、架空番地へ逃亡しようとする事件が昨日起きた。新聞の片隅にキチキチッとした四角い文字で印字されたところによると、若者らは老朽したルートの枝を幾つか出鱈目に疾走したのち、工場のある地帯へ空中射出され、燃料炉の密集区域へカプセルごと突っ込んで行って爆発炎上、一人も助からなかったということだ。テレ・ヴィジョンの中でもキャスターが悲劇的な顔でこの顛末を報告していたが、なぜか後ろには近代超現実美術館の庭で天然のオブジェが精製されたという直前のニュースの映像が続いており、恒星が溶けて流線型に歪んだような大きな虹色の固まりが、人の顔に似た斑紋を一面に浮かべている気味の悪いズームインがじわじわと続いた辺りで、番組が終わってしまった。少し変色した今朝の新聞を畳みながら、私はキセルに電気煙草のチップを差し込んで口にくわえ、椅子にどっかりと腰を下ろした。そして閉じた瞼の裏で考えた。ここのところこの手の事件が多い。どこにもなさそうな地名は、麻薬のように人を動かし、どこへも行けないと分かっているのに、いつも何人かが犠牲になる。あの情報を流したのは一体誰で、何が目的でそんなことをしているのだろうか。思想犯であろうか。愉快犯であろうか。何らかの目くらましででもあろうか。しかし、タールと一緒に脳内麻薬が鮮やかな色を流してこめかみのうしろ辺りを通過して行くと、必ずしもそのどれかではないのかもしれない、などとも思う。でたらめな地名を造語して、新聞に広告を出して、夢見る人々を招待する。その行為の周りを縁取る不思議な色彩が、このことを現代におけるメルヒェンの形なのだと、暗に告げているような気もする。そう、全ては溶け流れ、混じり合い、繋がっていることを、不器用にも熱的な衝突によって確かめようとしただけのような。

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ニウスライト 安良巻祐介 @aramaki88

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