第5話
私は横たわる坂さんの脇に跪いた。
さて、どうしたものか。
薄く唇を開き軽い寝息を立てる顔を見つめながら思いを巡らせる。
彼女にはどの品種が相応しいだろう…
整った容姿をしているとは思うが、ずば抜けて美しいとは言い難い。
残念ながら、私の最も愛するダマスクローズには成り得ない。
では、何が良い?
茶色く染められた長い髪をひと房掬い取り、鼻孔に押し当てると
仄かに石鹸の香りがした。
―――プリンセス ドゥ モナコ―――
女優からモナコ公妃へと華麗に転身したグレース・ケリーに
捧げられた薔薇だ。
白地にピンクの入った覆輪の、とても上品な花色をしている。
女優志願の彼女にはぴったりなのではないか?
…いや、しかし。
私は大輪の花径と強い香りを思い出し、首を振った。
小柄な体躯と純朴さを感じさせる様が、豪奢な花姿とかみ合わない。
そう、もっとこじんまりとした――…
夢乙女!
突然脳裏に浮かぶ花影。
八重咲の小輪は、白とピンクの咲分けで可憐な雰囲気が漂う。
夢を追いかけ続ける、そこはかとなくあどけなさの残る女性。
これ程彼女に似合う品種は無いだろう。
私はすやすやと眠る【夢乙女】の柔らかな頬に、そっと口づけた。
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