中身

愛創造

囁くもの

 かごめ かごめ

 かごの中のトリは

 いつ いつ 出遭う

 夜明けのバンに――夜明けも晩も壊された。私は此処で何を望むのか。破滅した世界など好奇も擽らず、其処等の死骸を踏み潰すのみ。故に私は唯一の人類と成り、地獄の底でも生命を維持すると決めたのだ。状況は最悪でも悪夢とは違い、誰も覚醒への導を為さぬ。残酷な現状は正しく闇黒で在り、只管に臭気を弄るだけ。統べられた世界も何れ滑り、長寿鶴亀の願いも無碍に融けた。狂って終う。否。狂った方が幾分か楽なのだ。私は愛を忘れて閉まった。愛すべき人を亡くして絞まった。絞めたのだ。私が! 大きな掌で彼女を首を! 哄笑しながら! 破壊こそが愛だと嘲笑う人間も在るのだが、私が欲した結末に在らず。畜生が。永劫を回転する赤色の流動体が。災厄を齎した化け木の群れ……燃やし尽くさねば。されど人類は一個体だ。奴等の心身の欠片も赦さず、死滅させるのは不可能だと思考すべき。思考だと。一目瞭然だ。意識の濁流――木と成り果てた脳髄――が私の精神に這入り混む。かごめかこめ貴様も此処へ――煩い……五月蠅い。蟲の如く囁くな。私は脆弱だが芯は強固で在る。貴様等の誘惑に溺れるものか。気を保つのだ。私は地獄で生存する術を有し、唯一の人間としての誇りを胸に抱く。現こそが解放の時。さあ! 滅んだ世界に新たなる生命を咲かせるのだ。腐らせるのだ。私こそがカゴだと知るが好い。私こそが媒介だと知るが好い。私こそが魔の胎だと知るが好い。私こそが真実だと視るが好い。囁き者には囁く物で対抗すべき。内臓が撹拌される気分は最高だ。さあ。私の等。如何か。如何か。出遭った化け物どもを貪り尽くし給え――ミチリ。ミチリと。


 ――異通 異通 出遭う


 ええと。其処を覗けば理解可能だ。彼女こそが最も厄介な患者だと断言容易。ああ。始まったぞ。自分の腹を裂く為に暴れ狂う姿。正しく火を前に怯えた獣ども。症状が知りたいだって。先程説明した筈……ハイハイ。解りましたよ。特別に教えよう。彼女の脳味噌では【破滅した世界】が広がって在る。其処では回転する流動体――確か赤色だった――の怪物と化け物の木が存在して、自身は奴等を燃やし尽くす【蠅の母】云々。妄想にも程度が在る。彼女は本当に面白い。何せ! 僕等の脳味噌にも同じような『もの』を魅せるのさ。愉快な感染だろう。僕だって目を回した一人だ。飛翔する蠅に呑まれる光景! 圧迫感は其処等の映像作品よりも凄まじい。最近では立体映像――失礼。話が逸れた。怒るのだけは止め給え。彼女の暴走が悪化する。僕等の思考回路も焼き切れるぞ。兎角。盛り上がった現状に悪いが昼食の時間だ。蠅どもが糞に群がる空間で食むのは厭だからな!


 ――後ろの正面シャッガイだぁれ?


 遅かった。視ろ。彼女が僕等の脳味噌に気付いたぞ。お終いだ。詩も終を得た。ほら。君も彼女の双眸を覗くが好い。大きくて可愛い眼だろう。愛おしいほどに。あげないぞ。彼女は僕のものだ。僕の玩具だ。滅びた世界も蠅の母も嘘だって! 何を莫迦な事を。僕は妄想だと吐いたが夢とは一言も漏らしていないぞ。在るのは真実だけだ。僕は彼女を愛して在る。僕は彼女を愛して在る。盲目だ。眩暈を覚えた所以は其処なのだ。僕には彼女以外在り得ないのさ。誰が狂人だって。強靭な愛に勝るものなど存在しない。真逆。貴様も僕を嘲笑うのか。上等だ。貴様も彼女の餌と成るが好い。貴様も僕と彼女の愛の生贄と成るが好い。怯えるのは何故だ。光栄だろう。美しい彼女と僕の愛を育めるのだから。愛すべき君。直ぐに餌を持って……君……君……僕は此処に在るよ。僕は此処に。


 ――蚊 仔 眼 蚊 仔 眼


 私は化けを焼き払った。

 蠅の群れが木を貪る。

 もう。私は解放され――たい。


 かごめ かごめ

 かごの中のトリは

 いつ いつ 出遭う

 夜明けの番人――

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