ロボット犬、旅に出る
某国の政府は、機密情報の消去や隠ぺいに追われていた。敵国のサイバー攻撃の勢いが増していて、重要な情報が漏れてしまう危険が高まっていたのだ。高官たちは、それぞれ手分けをして、データを紙に印刷して地方の秘密基地へ送ったり、コンピュータの中のデータを消去したりしていた。
大統領はストレスで倒れてしまい、お気に入りのロボットゴールデンレトリバーも執務室に置き去りにされていた。実は、そのロボット犬は、大統領と各国の首脳とのさまざまな内密な会話や、大統領と高官たちとの重要な会話を聞いていて、データ消去の対象だった。
高官たちは、もちろんそのことも承知していたが、高官Aは、ロボット犬のデータ消去は、執務室の情報管理を担当する高官Bの仕事だと思い込み、高官Bは、それはロボット犬の統制も行っているコンピュータの管理を担当する高官Aの仕事だと思い込んだ。
その結果、すべての仕事が終わったと思われた官邸で、ロボット犬だけが、機密情報を保持したまま眠りについていた。
のちに戦争に敗れてしまった某国。元敵国の軍人たちが、官邸に乗り込んでくるが、そこにはほしい情報はなにも残っていなかった。しかし、ある軍人が某国製のロボット犬を珍しがって気に入り、自国へ持ち帰る。
しばらく経ったある日、失意の某国の元高官たちが集まり、戦争で受けた精神的傷をなめ合っていた。その会話の中で、ロボット犬のデータ消去がされていないことに気づく。
その頃、ロボット犬はネットにアクセスし、飼い主であった大統領が死亡したことを確認し、ほかに新たな飼い主も正規の方法で登録されないので、軍人を飼い主として認識していた。
元高官たちは慌てて、別の国へ行ってしまったロボット犬にアクセスし、すぐに自らのデータを破壊して全機能を停止、つまり死ぬようにコマンドを送る。もしロボット犬の中にあるデータを知られてしまえば、軽い罪で許してもらえた元高官たちも、戦犯にされてしまう可能性が大きかった。
ロボット犬はコマンドを受け取り、それがもともと制御権を持っていたアカウントからだと認識するが、現在の飼い主は、まったく関係のない人物。軍人はロボット犬を大変気に入り、「ずっと一緒にいようねえ」などと毎日ささやいているのに、どちらの命令に従えばいいのか、制御アカウントと飼い主が乖離することを想定していなかったプログラムのせいで、ロボット犬は逡巡する。
身内に度重なってわき上がるエラーに混乱したロボット犬は、どちらの命令にも従わないことを決意。飼い主の家をこっそり抜け出し、あてのない旅に出る。
機能停止しないロボット犬に業を煮やした元高官たちは、元敵国まで、ロボット犬を探しに行く。そこで出会った失意の軍人とともに、表面上の協力関係を結び、ともにロボット犬を探すことになる。
その中で、元高官たちと軍人は友情を育み、互いの印象が変化。その効果が波及して、世界に平和が訪れた。
SF創作講座に向けての練習 諸根いつみ @morone77
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