残雪の下には

ゆうすけ

第1話序章

長野、河井スキー場。そこはこじんまりとしたスキー場で常連客や修学旅行生などから主に収益を得ていた。上級コースは標高が高いため、雪が溶けにくく、他のスキー場より長く滑れるという理由で常連客が一定数いたのだ。

しかし2013年4月28日。河井スキー場でスノーボードをしていたプロの卵、佐伯佳奈の死亡事故が発生。警察の捜査の結果、佳奈のボードと一致するプラスチック片が付着した重さ90kgほどの石が発見された。佳奈のボードが先端部分が不自然に欠けていた事実と相成り、佳奈はコースを滑走中、ボードの先端が石に激突、バランスを崩し転倒した際に頚椎を骨折したと見られた。

佳奈の死体は雪を深くえぐり、地面に到達していた。シーズンから外れていたのも佳奈が死んだ大きな要因だろう。もしシーズン真っ只中での事故ならば柔らかな新雪がクッションになって地面叩きつけられるような事は起こらなかったはずだ。これは文句のつけようのない事実だった。

しかし疑問は残る。

事故現場はコースの中間に位置しており、90kgの石を人間が運ぶ事は難しい。第一、4月下旬となると雪は降らないので運ぶとしても足跡や何らかの痕跡が残るはずだった。

だが事故現場は綺麗に整備された滑らかな雪に囲まれていた。

河井スキー場の上級コースは両端が山で、岩肌が露出している部分も多かった。そのことから警察は何らかの原因で山から落石が発生し、それがコース上に落下した事による事故

と判断して捜査は打ち切られた。そして佐伯佳奈の事件は不慮の事故として片付けられた。多くの人の心に傷を残しながら。

家族、学校の友人、ボード仲間…多くの人間が悲しみにくれる中最も悲痛な叫びを上げた者がいた。

植木耕助。

佳奈の恋人であり、河井スキー場の社長の息子で河井スキー場の手伝いをしていた。

佳奈が死んだ前の日のコース整備をしたのが耕助だった…



それから一年。2014年の佳奈の命日から、この物語は始まる。





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残雪の下には ゆうすけ @kamisama390

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