四話
さて…時が経つのは早いもので、俺は五歳になりました!
あっという間だな、ホント。
というのも、五歳まで特筆すべきことが何もなかったんだよ。
ラノベの主人公とかはさ、最強になるべく、赤ん坊の頃からコソコソ特訓とかやってる訳だけど…。
「俺、最強願望無いもんなー…」
あくまで俺、平凡ライフをご所望だしね。
姉さんや兄さんと一緒に遊んだりして、この世界においての一般常識なんかを身につけていった。
今のところ、チート的なものは無いみたいだ。
最初からこの世界の言語が理解出来たのは、かなーり便利だったと思うけど。
まぁ、異世界転生あるあるだよね。
「シグマ様、入ってもよろしいですかー?」
「あ、はいー。どうぞー」
…言い忘れていたが、今生の俺、結構やんごとなき身分らしく…。
「シグマ様、おはようございます!」
「…おはようございまーす」
確か伯爵だ。
神よ。俺は、『そこまで金に困っていない一般家庭』を願ったんだが…
まぁいいか。
どうせ三男坊だし、後継うんちゃらの話は気にしなくていい。
でもさ、様付けとか、もう一般庶民の俺にはこそばゆくてこそばゆくて。
何年経ってもなれないな。
部屋に入って来た、いつもの可愛らしいメイドさん…アイさんは、俺の手を引いて鏡の前に座らせた。
寝起きの、少しぼーっとした表情の俺が映る。
顔は母似なんだけど、髪色とか目の色とかは全て父譲りだ。
まぁ、ふつうに綺麗な容姿なんじゃないか?
この世界、美形が多くて普通がわからん!
「シグマ様、とうとうこの日がやって来ましたね! 運命の日ですね!」
「あぁ…適正判定かぁ」
説明しよう!
まず、この世界には、属性という概念がある。
大別すれば、下位属性と上位属性。
下位属性は、炎、氷、風、土。
上位属性は、闇、光、無。
下位属性は、四元素とも呼ばれる、基本的な属性だな。
上位属性を持つ者は、まぁ少ない。
一般的には、下位属性を全て扱えれば、そこそこ優秀な部類に入るんじゃない? って感じ。
そして、アイさんが言っていた『適正判定』。
その名の通り、扱える属性と魔力量を調べるものだ。五歳になると、みんなその検査を受けるらしい。
世知辛いもので、ここである程度将来が決まる。
王国騎士団なんか、子供達に人気があるけど、魔法の才が無ければ、その未来は限りなく消える。
「正直、適正とかどーでもいいんだよねぇ…」
「何を言ってるんですか! シグマ様は冷めすぎですよっ。ヒーロー願望とかないんですか!」
「えー…俺の将来は、どっかの田舎で静かに御隠居生活を楽しむってなってるんだけど…」
「夢も希望も浪漫もないですね!御隠居生活まであと軽く半世紀はありますから!」
ちょ、夢も希望も浪漫も無いって…そりゃあんまりだ!
「アイさん、想像して下さい。畑を耕して汗をかいた後は、大自然に囲まれて日向ぼっこ。奥さんと共に、ささやかな食卓を囲む…」
『おや、今日はお肉がありますねぇ』
『鹿肉がたまたま手に入ってのぅ』
『神様に、感謝しないとねぇ』
『そうさなぁ、幸せだのう、婆さんや』
『そうじゃのぅ、爺さんや』
良きかな、良きかな。
俺がそんなしあわせな老後の妄想をしていると、頭上から盛大な溜息が聞こえてきた。
言わずともがな、アイさんのものだ。
「とても可愛らしいのに、思考回路はまるでジジイですね、ホント」
「失礼な。まだピチピチの5歳だよ」
精神年齢は二十歳くらいだけど!
「ピチピチとか、そんなこと言ってる時点で年寄りですよ…はい、終わりました」
「ありがと…正装はあまり好きじゃないんだよな…」
「我慢して下さいね。もうグラン様方は馬車で待機されてますよ、行きましょ!」
そういえば、父さん達はすごく期待していたなぁ…。
期待というより、楽しみって感じかな?
残念だけど、結果はあまり期待しないで貰えると助かる…。
自由気ままな異世界平凡ライフ! …を満喫する筈だったのだが、神よ、これはどういうことだ? Aya @Aya422
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