第2話

         二


 タカナカの母、渥美笹野は昔、トークアプリをやっていた。

 とても仲良しの仲間ができたけど、その関係がひどく揉めたことがあったのだそうだ。

 ままと他に二人の人が、腹いせに、悪い噂をネットに流した。

 男に飢えてる人妻です。

 うんと乱暴にヤッチャッテください。

 悪意のいたずら。

 書き込み。

 誤算はそれが実行されてしまったこと。

 タカナカのままは年の割にきれいで、四人の男のひとに…



 近くの川に身を投げたのだという。

 六倍くらい膨れ上がったみにくい屍をさらしたのだという。

 タカナカはうちの学校に来る前に、ほかの二人を既に葬っていたらしい。

 そしてまま。

 タカナカは私が、タカナカのままとおなじめにあうのだと、ままに毎日のように言っていたみたい。

 どんどんままがこわれていって、そして…



 うちはみごとに解体した。

 東大理Ⅲのぱぱは、輪姦企んだ女の子の父親であることを拒み、一族もそれに同感した。

 ままの親族も同様に、あたしを引き取ることを拒否り、あたしはこの世で天にも地にも、全く寄る辺のない身になってしまった…

 見かねて引き取ってくれたのは、何の縁もゆかりもないしげさんだった。



 二瀬呼子から猪森呼子へ。

 名が変わって二年になる。

 赤の他人のはずのしげさんが一番優しいこの現実。

 身よりのないしげさんと、親族全てに捨てられたあたし。

 これからも仲良く生きられると信じてた。

 三回忌終えてままの墓の前で二人で手を合わせてる。

 親切すぎる猪森しげ。


 渥美笹野がかつて生み捨てた娘…………


 そうなのだ。

 この世に無償のものなんて無く、私は一人目のタカナカから逃れて、二人目のタカナカの手に墜ちたのにすぎなかったのだ。

「あたしも殺すのね」

 ままの墓に手を合わせたまま横を見ずに問うと、よこでしげさんが息をのむ気配がした。

「妹がし残した分をあなたがってとこですか?」

 でもあたしは言いたい。

 引き取ってくれてありがとう。

 楽しい時間をありがとう。

 そして…

 言いたい、臆病なあたしの心は言わせない。

 しげさんの気の済むようにしていいよ…

 生きていたい!

 しげさんと生きて行きたいんだ!!

 その欲が、あたしの身を震わせてしまってる。

 勇気だせ呼子。

 ありがとう。

 たった五文字じゃないか!

「できませんよ私には」

 しげさんの言葉が私の中にゆっくり、ゆっくり沁みていく。

「はじめはそのつもりでした。未冬が出来なかったときのための予備人材。そんなつもりで二瀬家に入りました。でもお嬢さん仲良くしてくれたでしょ。二年目の春にはもうそんな気なくなってました」

「それじゃあ…」

「今奥様にお願いしました。これからも呼子様と仲良くいかせてくださいと。でもなんかよくわからなくて。奥様怒ってらっしゃいますかね」

 しげさんの声が震えてる。

 あたしを失いたくないって。

 だよねだよねだよねだよねだよね!

「OKに決まってるじゃん!」



 こうしてあたしは今もなお、母殺しの犯人家族と暮らしてる。

 ひとからはそうはみえないかもしれないけど、あたしはこれでなかなかけっこう幸せだと思う。

 来年しげさんは遅い結婚をする。

 西洋風にやるそうなので、あたしはフラワーガールをつとめさせてもらおうと思ってる。

 ままはいない。

 タカナカもいない。

 でもあたしにはしげさんがいる。

 未来永劫いてくれる…

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ははの話 めるえむ2018 @meruem2018

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