ははの話

めるえむ2018

第1話

         一


 11月になるとままはきまって不安定になる。

 今日は家にいてねって約束したのにいなかったり。

 朝から信じられない数のケーキ焼いてたり。

 ままは有能な看護婦だったときいている。

 でもあたしが宿ってやめて、そのあとずっと専業主婦らしい。

 でも11月。

 何で11月だけ…?


「二瀬(にのせ)さん、最近元気ないね」

 担任のタカナカがいう。

 高中 未冬。

 すごい美人。

 でも、あたしタカナカきらい。

 美人だからでなく、ときどきあたしをムシするから。

 おかげで配点めちゃめちゃ低い。

 ままは国立大出てるし、ぱぱはモロ東大理Ⅲだ。

 そんなにできないわけないって、あ。


 ままの11月パニックひどくなったのって、あたしがこの中高一貫校入ってからだ…


 タカナカは中学免許も高校免許も持ってる。

 中ーから国語はタカナカだった。

 クラス担任になったり教科担任になったりで5年間、何かかんかタカナカとかかわってきた…



 ばんごはんつくってるしげさんのよこで、ままはぼんやり宙をみてる。

 この五年、秋から年こすまではとくに、ままは家事もなんもできなくなる。

 それでしげさん雇われた。

 いまではしげさんがあたしのままみたい。

 いちごお好きでしょ?

 おやつはいちごパフェにしますね。

 お弁当残さず上がってくださったんですね。

 しげはほんまうれしいですよ…


 いくらしげさんがすきでもままはまま。

 ままをこわしたのがタカナカなら、あたしはタカナカを許せない…



「そろそろ来る頃だと思ってた」

 職員室では話せないからとタカナカは言い、自宅~学校からほど近い、高層マンションの一室~へ私を招いた。



 小綺麗に片付いた室内に、かなり大きく伸ばされた写真があった。

 タカナカに似てるけど、もっときれい。

 少し陰のある、幸薄そうな…

 タカナカのまま?

 何かがあたしに警告する。

 ここにいてはだめ。

 でようとする。

 タカナカが機先を制して玄関に続くガラス戸の前に陣取る。

 表に誰か来た。

 鋼の扉を拳でガンガン叩いてる。

「呼子(ここ)ちゃん! 呼子! いるんでしょ!? 返事して!」

「ままっ!!」

 ガチャンと扉があいてとびこんできたままは、タカナカの顔といわず髪といわずひっかくようにしてつかみかかった。

 タカナカのきれいな顔が歪む。

 まま!

 まま!

「あんたに呼子はやらせない! 笹野がどんなひどいことしたか! あんたわかってないでしょ!」

 ササノ?

「あんな目に遭わされる筋合いはなかったことくらいは…知ってますよ!」

 

 ままに押されながらタカナカは徐々に、部屋中心からベランダの方へ押し出されていった。

 ままはカつよい。

 腕相撲いつも負かされてばっかだったこととか思い出す。

 でもまま、そのまま押したらタカナカが、ベランダへ、手すり低、まま!!

「きゃあああっ!」

 四十三と三十二。

 もつれ合ってベランダを落ちていった。



 事件になった。

 ワイドショーネタになった。

 事は女教師と父兄のもめではなかったから。

 ワイドショーは残酷だ。

 十五年の時の向こうにあった小さな事件を掘りかえしたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る