七話 峻厳なる里の長、モクヨウ

 見上げた空は赤と青が混ざり、すっかり夕焼けの様相を呈しています。図書館に帰りたい、なんてホームシックにかられる暇もなく、ぐんぐん前へ飛んでいくみっちゃんを脇目もふらず追いかけます。

 ドングリ山も峠を越えて下り坂。その後もちょびちょびと妖怪達には出会いましたが、それよりさらに凶暴――ではなく血気盛んなみっちゃんがことごとく追っ払ってくれるので、はじめはいちいちおおげさにリアクションしていた私もその間はむしろ休める余裕ができるほどでした。


ほどなくして勾配も緩やかになり、人の手が入って整備された道へとたどり着きます。今までの獣道に比べれば天国のように歩きやすく、足取りも軽く歩を進めていると、ついに目前に門と、侵入者を阻む大きな柵が見えて来ました。

 その向こう側には物見櫓がそびえて、さらに奥では人の声や、そろそろご飯時だからでしょうか、煙が何本か空へ立ち上っています。


「ここが……クヌギの里ですか……え、あれ、みっちゃん?」


 と、私を先導していたみっちゃんが突然くるりと反転し、私の手首の袖部分から服の中へ潜り込んできます。ぐいぐい身体の方へ進まれて、くすぐったいあまり私は身をくねらせました。


「ちょ、ちょっとみっちゃん、やめて下さい、いきなり何を……!」

「騒ぐなって。少しの辛抱だから」


 辛抱って、何の辛抱ですか。村の門の前で一人で変な声を上げて変な動きをしてるところを見られたらとんだ変質者扱いは免れないでしょう。私があたふたしている間にもみっちゃんは背中側から上がり、私のうなじの襟首辺りからひょいと顔を出しました。


「私はここから指示を出す。言う通りにしな」

「え、ど、どうしてです……? みっちゃんの故郷なんでしょう、なんでそんな隠れるような事……」

「……ハヅキがいないからな。私一人で戻ってもあいつらを混乱させるだけだ。それに、気になる事もあるしな」


 どうやらみっちゃんにはみっちゃんなりの事情と考えがあるみたいですが、あんまりそこで身動きするのはやめて欲しいところでした。尻尾とかが肌にこすれてぞわぞわします。

 などと、二人でごちゃごちゃやっている内に話し声を聞かれたのでしょうか、唐突に村の門が両側に開き、そこから二人の男の人が踏み出して来ます。

 どちらも軽装ながら胸当てや具足で武装しており、手には槍を携えています。門番の人達なのでしょうが、その戦士然とした出で立ちに私は縮こまってしまいました。


「娘、見慣れぬ格好だが……何者だ?」

「どこから来た? 今があやかしの跋扈ばっこする時間と知っての訪問か?」


 立て続けの問いかけ、というより半分詰問に近い言い方に、ますます恐縮してしまいます。

 私一人ではとんちんかんな受け答えになってしまうのは目に見えていましたが、服の中に潜んでいる心強いアドバイザーが耳元へ囁きかけました。


「モクヨウに会いに来た、と言え。後は名を名乗って、他は答えるな」

「も、モクヨウに会いに来た、ジェシカです……!」


 なに、と男達は眉根を寄せて顔を見合わせます。もしかして態度が気に入らなかったのかと思い、私はすぐさま言い直しました。


「も、もも、モクヨウに会いに来ましたじぇじぇジェシカです……」


 一度目よりも声が裏返りましたが、さしあたり言わんとするところは通じたようで。


「……モクヨウ様への客人という事か? どうなんだ」


 今度は恫喝にも近い口調ですが、みっちゃんに言われた通り答えず沈黙していると、なんとも言えない困ったような空気が私達の間に流れます。


「……おい、どうした」


 そこに助け船というか、三人目の門番らしき男性が入り口から顔を出しました。最初に私に話しかけた門番の人が振り返り。


「モクヨウ様に用があるらしい。一応、取り次いで来てくれ」

「あ、ああ……」


 私と仲間の人を見比べ、三人目の人は戸惑ったような顔できびすを返します。私はどうしていいのか分からずに突っ立っていると、二人の門番の人が厳粛な面持ちでこちらを見据えて。


「何者か正体の分からぬ者をおいそれと通すわけにはいかん。確認が済むまで、ここにいてもらうぞ」

「……」

「おい、聞いているのか?」


 答えてやれよ、とみっちゃんが呆れ気味に呟いたので、私ははははいと挙動不審に頷きを返しました。何だか脱力したように門番の人達は目配せしあい、ため息をついています。


「急に無口になりやがって、お前、意外と人見知りなんだな」

「み、みっちゃんが答えるなって言ったんじゃないですか……」


 みっちゃんがひそひそと囁いてくるので、私も小さい声で抗議しました。というよりみっちゃんが何か言う度に耳たぶに吐息がかかってくすぐったく、疲れた膝が折れそうになります。ぷるぷると足を震わせる私は、門番の人達から見たらさぞかし滑稽こっけいでしょう。


「あの、モクヨウって人は、一体……」

「クヌギの里の長。ハヅキの父親だよ」


 私は目を見開きました。


「ハヅキさんの……お父さん? じゃあ、もしかしてその人も……」

「凄腕の術者だった。昔はな。……今は引退してる」

「そう、なんですか……。ハヅキさんがいなくなって、大変だったでしょうね」


 まあな、と答えるみっちゃんの声は低いです。


「とにかく、そいつに会えさえすれば便宜を図ってくれるはずだ。たった一人で里にやってきた小娘を何も言わず締め出すような人間じゃない。……私の知ってるモクヨウならな」


 何か含みのある言い様ですが、私が問い返す前に、門の方からさっきの三人目の門番の人が戻ってきました。


「モクヨウ様が、通せと」

「そうか……そう言われる気はしていたが」


 門番の人達の目が一斉に注がれて、私は生唾を飲みました。


「聞いた通りだ、娘。これからモクヨウ様のところへ案内する。ついて来い」


 門番の一人が背を向け、ついてくるように促します。それで私はようやく、人のいる村へ足を踏み入れる事ができたのでした。


 門を抜けてすぐの通りには木造の住居が建ち並び、フォレス王国の建築様式とは根本からして違います。道から外れた柵の先には青々とした作物が栽培される畑が広がり、牛や豚のいる家畜小屋も点在していて、小川の側には飲料用と思われる井戸も。

 道行く人々は仕事帰りや、子供連れの女性が多く、その装いはみなゆったりとした着衣です。私のような異国の人間がよほど珍しいのか、すれ違うほとんどの人に怪訝そうな眼差しを向けられ、犬には吠えられ、時には軒下に集まっている老人、老婆達に奇異なものを見る目で凝視されます。

 村全体の空気感はとてものどかなものですが、村の人達からは見慣れない、異物めいたものに対して敏感な印象を受けました。まだ第一印象なので、それが全てとは思わないですが。


「あんまりきょろきょろすんなよ」

「し、仕方ないじゃないですか、本じゃ見られない新鮮なものばかりで……」

「……お、ここは広場だな。あっちを見てみろよ」


 たしなめた側から、みっちゃんが私に周りを見るよう命じて来ます。理不尽ですが、今は従うしかありません。確かに通りを何本か過ぎてやって来た場所は、民家が円形に並ぶ広場でした。ぽつぽつと人の姿もありますが、みっちゃんが指したのは西側にある大きな階段です。

 そこには赤い門が石階段に沿って何段も連なり、上部へ続いているようです。周辺には森があり、見上げてもどこまであるのか見当もつきません。ただその風情は神殿を思わせるほどに厳粛で、これまでにもクヌギの里を見回っていた私はことさら目を奪われました。


「あの鳥居と階段の上には神社があるんだ。懐かしいな……ハヅキに拾われるまで、よくこっそりあそこで供え物を盗み食いしてたもんだ」

「え……ハヅキさんに、拾われた……?」

「おう。元々は私も野良狐だったんだけどな、あいつに出会って、まあ意気投合して、力を貸す関係になったんだよ。思い返せば、奇妙な縁もあったもんだ」


 想像してみると、みっちゃんがハヅキさんに食ってかかって、それをなんなくいなされている場面が思い浮かび、私はくすりと吹き出しました。


「なんだよ、何笑ってんだよ。なんかすげー失礼な事思われてそうな気がするぞ」

「そんな事ないですよ……微笑ましいなって――あうっ」


 みっちゃんに耳たぶをつねられ、声が上がってしまいます。案内してくれる門番さんが再度不審そうに私を見やりますが、まだ喉がうわずっている感じなので身振りで大丈夫と伝えました。


「温泉もあるんですよね……いいなあ、入ってみたいです」

「それはクヌギの里の裏山にあるからな。竹林を抜けていかなきゃいけないし、今日はもう無理だろ」


 残念です。この身体中にへばりついた汗を洗い流したかったのですが。


 そうこうしている内にどんどん村の奥まったところまで進み、ひと気がなくなって来ます。

 赤く染まった空をカラス達が飛び交いながら鳴く中、私は一際大きな屋敷の前へたどり着いていました。ここまで連れてきてくれた門番の人が母屋の前へ立ち、扉越しに何事か声をかけると、重厚な音を立てて巨大な扉が開かれていき。


「ここからは屋敷の者が案内する。ついていけ」


 門番の人がそう言うと、中から使用人らしき高級そうな衣類に身を包んだ男女が現れます。私が緊張しながら門をくぐると、広大な敷地を使った豪勢な庭が姿を見せました。

 磨き上げられた石畳、石灯籠、朱塗りの橋、色鮮やかな魚の泳ぐ池と、フォレスの貴族達、それに私の実家にも劣らない立派で厳かな佇まいです。

 奥の玄関では靴を脱ぐよう言われ、困惑しながら靴下で廊下を歩きました。幸いにも床は綺麗で、むしろ汗ばんだ私の足が汚さないか心配になったくらいです。

 みっちゃんに畳や座布団といった家具について教えられつつ戸を開くと、座敷のある部屋にたどり着きました。

 その向こうには机を挟み、艶のある黒い髪に白髪を交じらせた初老の男性が上座に腰掛け、傍らに控えるようにもう一人、私と同い年くらいの少年が正座していました。背後の壁には達筆な掛け軸と、無骨な威圧感を放つ漆黒の長い太刀が飾ってあります。


 立ち尽くす私の隣で、ここまで案内して来た使用人の人達は一礼し、しずしずと下がります。背後でぱたん、と戸が閉まりました。


「どうぞ、そこにお座りを、お客人」


 白髪の男性に促され、私はおずおずと目の前に置かれている座布団に座りました。地べたに腰を下ろすようで変な感じです。内股がもぞもぞします。


「紹介させていただこう。私の名はモクヨウという。この里の長を務めさせていただいている」

「私はヒイラギです。どうぞお見知りおきを」


 男性と、その横の少年に挨拶され、私も背筋をぴんと伸ばしながら答えました。


「じぇ、ジェシカ・ネリーセンです……こちらこそその、里に入れていただいてありがとうございます……」


 モクヨウさんはさながら王様を前にしたような威厳と、どこかハヅキさんを彷彿とさせる凛とした眼差し。それでいながら底知れず、気配はより鋭く覇気があります。一線から引いている上に老境に差し掛かっているとは思えない迫力に、さっそく私のろれつは引きつりだしていました。


「本来なら茶の一つもいれるところだが、此度は何やらお困りの様子ゆえ、一刻も早い面会を優先した次第。不作法を許して欲しい」

「お、お構いなく、です……! 私こそ突然の訪問で、混乱させてしまったみたいで」

「して、ジェシカ殿はこのモクヨウに、いかなる用向きがおありか」


 穏やかな物腰ですが、ついにずばり尋ねられました。私はそのまま身の上を答えようとしたのですが直前、みっちゃんに首筋を蹴られました。


「あいたっ」

「いかがなされた」

「あ、その、いえ、ちょっと蚊に刺されたみたいで」


 どう見てもごまかしきれていないですが、もう変な子だのなんだのと思われようといいです。とにかくこの場を乗り切るために、私はみっちゃんの方へ気持ち頭を傾けました。


「どうしたの、みっちゃん……?」

「お前今、日記帳の事とか答えようとしただろ」

「それが……?」

「馬鹿か。そもそも私達も状況を把握できてねーのにんな事言ってみろ、確実に正気を疑われるっての」


 うーん……言われてみれば私がモクヨウさん達の立場でも、こんなハチャメチャで何の確証もない事情を話されたら、どう対応すべきか途方に暮れてしまうでしょう。

 でも、正気を疑われるなんていうのはいくらなんでも言い過ぎではないですか。私は軽く受け流そうとしましたが、みっちゃんは不吉な声音で言葉を続けました。


「ドングリ山には人に化けられる妖怪もいる。お前が里に潜り込んできたその一種だと思われたら即刻この場で退治されるか、牢に放り込まれちまうかもな」

「そ、そんな、まさか、大げさな……」

「座敷牢は怖いぜ? 朝も夕も日が差さないから寒いし、会話は食事を持って来る使用人と一言二言のみ。夜になればどこからともなく鼠や猫の足音だけが響き、そこで死んだ人間の亡霊まで闇の中でこう、ぼうっと青白く光って……」

「も、もういいです! 分かりました……っ」


 みっちゃんの思惑通りの気もしますが、見事に恐れをなした私は即興ででたらめをでっちあげる事にしました。


「え、えっと、実は私、フォレス王国から観光旅行に来ていて……それで」

「旅行とは、お一人でですか」

「い、いえ! 家族三人で、ですけれど……ドングリ山ではぐれてしまって」


 話していて、喉に魚の小骨が刺さったような違和感が強いです。

 特に父は王宮に勤めている書記官で、仕事に誇りを持っている厳格な人だから、家族みんなで旅行なんてまずしません――私はあこがれていますけど。

 思いつくままに真っ赤な嘘を吐き出すと、モクヨウさんとヒイラギさんは少し黙り、私の方を見つめていました。もしやばれたかなとすっかり萎縮してしまいますが、そのうちにヒイラギさんがモクヨウさんの方へ視線を流して。


「……言動や挙動こそ怪しいものの、この少女からは邪気が感じられません。あやかしや盗賊の類でない事は信じても良いかと」

「うむ。逢魔が時に迷い人として里を訪れたのも何かの縁。……よろしい、力になりましょう」

「し、信じてくれるんですかっ……?」


 自分でもあからさまにひどい口から出任せばかり並べていたのに、なんて親切な方達でしょう。全てを話せないのが心苦しいです。


「ドングリ山ではぐれたのなら、さまよったあげく他の里にもたどり着いているやもしれん。こちらから使いを出し、話を聞いておこう」

「あるいはいまだに保護されず行き倒れている可能性もありますね。明日にでも山へ捜索隊を出しましょう」


 家族の名前を聞かれ、正直に答えますが、私は冷や汗混じりの焦りを感じだしていました。それだけ人が動くとなれば大事です。本当にこれでいいのでしょうか。


「嘘も方便だろ。今はどんな方法でも行動範囲を広げる方が先決だ。モクヨウの口添えがあれば、他の里にも楽に入れるからな」

「で、でももしばれたら、私、どんなお詫びをしたらいいか」

「その時は私が出て行って弁明してやるよ。こっちにだってやむにやまれん事情があるんだしさ」


 自分にはそれだけ影響力がある、とでも言いたげにみっちゃんは自信ありげにのたまいます。でも私としてはやっぱり、多くの人を騙してしまう事に罪悪感を感じざるを得ず、うなだれてしまいます。

 その時、すたすたと後ろの廊下で足音が聞こえたと思ったら、ふすま越しに声がかけられました。


「モクヨウ様、よろしいでしょうか」

「入れ」


 モクヨウさんが頷くとふすまが開かれ、里の戦士らしい一人の男の人が入って来ます。その表情は硬く、私は口を半開きにして彼が近づいて来るのを見ているしかありません。


「……先日の村人を襲った妖怪、その正体が分かりました」


 ふむ、とモクヨウさんの眉根が寄せられます。いつしかこの和室には、緊迫にも近い空気が流れ出していました。


「何やつだ、それは」

飛跳トビです。間違いありません」


 その名前を聞いてがたり、と立ち上がるような音がしました。

 驚いた私がモクヨウ様の隣を見ると、さっきまでの淡々としたたたずまいから一転、顔色の様変わりしたヒイラギさんが中腰になっています。


「――ヒイラギ、落ち着け。……まだ話は終わっておらん」

「……は、はい」

「ジジュウよ……飛跳の住処は分かっているのか」

「はい。クヌギの里の裏山……その頂上へ飛び去るところを我らと式神が目撃しました。十年前とまったく同じ場所です」

「あいわかった。沙汰は追って伝えるゆえ、今日はもう戻って休め」


 男の人は神妙に頭を下げると、私には一瞥もくれずに背を向け、部屋から退出していきます。

 途端、ヒイラギさんが改めてモクヨウさんへ向き直りました。その顔には今度は決然とした感情が浮き出ています。


「……ゆゆしき事態です、一刻も早く飛跳を討たねば、いずれは十年前の二の舞かと」

「承知している」

「であれば、飛跳討伐の任はこの私に! 必ずや奴の首を挙げて見せましょう!」


 落ち着け、とモクヨウさんは再び言いました。その声調は厳しく、半ば興奮をも見せていたヒイラギさんは勢いを削がれたように身を引きます。


「火急を要するのは分かっておる。しかし、急いては事を仕損じると言うだろう。まだ他の里に飛跳の警戒を呼び掛けに向かった者達が戻っておらん。十全に戦力を整えるまでは、より敵の動向を調査し、守りを固める事に終始すべきであろう」

「その間に里を攻撃されたらなんとするのです! 飛跳程度、今の私ならば一人で充分に討ち果たせましょう!」

「飛跳に目を注いでいた事で他のあやかしどもも活性化している事は知っておるはずだ。ただ何も考えず敵を倒しに行けばいいというものではない。……こんな時に、ハヅキがいれば」


 ぽつり、とモクヨウさんが漏らした一言に、ヒイラギさんの表情から色がすっと抜けたかと思うと、音もなく立ち上がりました。


「……なんと言われようと私は明朝、飛跳を討ちに行きます。そうすればあなたも目を覚ますでしょう、本当に里に必要なのが誰なのか」

「――待て、ヒイラギ」


 モクヨウさんが制止しますがヒイラギさんは応じず、不気味なほど静かに部屋を出て行きます。私はヒイラギさんが出て行くまで交互を見ているだけで、後は固まっているしかありませんでした。


「……あ、あの」


 ひたすら沈黙するモクヨウさんとの異様に重々しい雰囲気に耐えかね、私が声を発した直後、モクヨウさんの視線がこちらへ注がれます。双眸には変わらず重厚な意思の光をたたえていますが、同時にどこか翳りを帯びているように思えました。


「内々でのごたごたを見せてしまったようで済まぬ。聞いての通り、今我が里は飛跳なる妖怪の脅威にさらされておる。しかしながら何の関わりもない客人であるジェシカ殿には決して危険が及ばぬよう、里一同全力を尽くしその身を守らせていただくつもりだ」

「あ、は、はい……えっと、私……」

「ついては、奥の部屋に寝間を用意しよう。今宵はそこで休まれるといい」


 私を守り、眠る部屋まで用意してくれるいたれりつくせりのもてなしなのに、モクヨウさんの声音には有無を言わせぬ響きがありました。私はそれ以上何も言葉を継げず、ぺこりと頭を下げるしかありません。


「お、お気遣い、痛み入ります……」

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