愛の手紙を海から貴女に
凪 奏
愛の手紙を海から貴女に
「ーーーー君は今どこにいるの?」
今日も少年は砂浜に座って水平線の向こう側に沈む夕日を誰かに重ねて見つめる。
「僕はずっとここにいるよ……」
『ーーーー、おはよう』
『うん!ーーーー、おはよう。また遅刻するよ、いい加減早く起きたら?』
毎朝、僕は遅刻ギリギリに家を出るというのにいつも君は玄関先で待っている。
その時の君の優しい声は、もう君はいない今も毎朝僕が家を出るときに頭のなかに再生される。
『ねぇ、ーーーー。今日はすぐ帰る?』
『ねぇ、ーーーー。あれ? 今日は部活なのか……残念……』
『ねぇ、ーーーー。昨日駅前にできた新しいカフェに行ってみない?』
学校の教室や廊下、帰り道で君が僕を呼ぶ始まりはいつも一緒で、君のその無邪気な声は僕の胸を弾ませたり僕の感情を穏やかにしてくれる。
疲れたときにかけてくれる君の『大丈夫だよ』は励みになった。
喧嘩して君に投げかけられた『もう、大っ嫌い!』は僕の心に突き刺さって僕を何日も苦しませた。
でも、仲直りで『ごめんなさい』とお互いに言い合えた時は嬉しかった。
寝る前のメールで『好き』って打ち合ったのはとてもドキドキした。
けど、もうそれは出来ない。
君は僕の側にはもういないから……
君がいなくなってから僕の生活は変わってしまった。
学校には行かなくなった。行く意味が無くなったから。
自分の両親とも会話をしたくなった。ご飯もほとんど食べなかった。
話したら、食べたら君は帰ってくるのか?そんな時間があったら僕はずっと君の全てを思い出していたい。
君がいないと僕はホントにダメだ……
君と過ごした時間は長いのか短いのかわからない。
君の手の暖かさ。
君の頬の滑なかさ。
君の唇の柔らかさ。
君に触れたときの感触を必死に思い出してーー。
君と過ごした時間は嘘偽りの無い本物だと信じて僕は今日まで昨日まで生きていた。
しかし、もう限界だった。
だから今日僕はいつも君と放課後に過ごした海から明日の夕方に旅立つことを決意した。
次の日の朝。僕は午前中は砂浜で過ごしてから……と決心した。
起きると直ぐに家を出たところ、普段気にもしない郵便受けに目が行き、何故かそこに挟まれた一通の手紙から目が離せなかった。
衝動に刈られて手紙を手にとると宛先が自分だったことに驚いた。そして差出人を見ると彼女だった。
そこから僕は奇跡を信じることにした。
直ぐに手紙を読まずにまず砂浜に行った。そこで僕は自分が最後にめにする文書が彼女の書いた物に誇りをもって読んだ。
ーー君へ。
久しぶり!って言うのも変かな?
この手紙を読んでいる頃私はもう君のそばにいないかもしれない。
なんかありきたりな始まりでごめんね。
でも、私たちはいつもそうだったね。君を呼ぶときもそうだった。
最初に私は君に謝りたい。
ごめんね。勝手にいなくなっちゃって……
君を一人にしてごめんね。
君と行った遊園地、私は全然絶叫系が駄目なのによくもつれていってくれたね!でも、楽しかったよ。
君と行った水族館ではイルカのショーで一緒に沢山の水を被ったね!覚えてるかな?
君と行った駅前のカフェ美味しかったよね。私、もう一回あそこのアップルパイが食べたいな……
この手紙が届くのは私がいなくなってからしばらくたってしまうからごめんなさい。
そういうふうに郵便屋さんに頼んでるの。
君は弱い人だから私のことできっと色々悩んでいると思う。
無責任かもしれないけどそんなに悩まないで欲しい、心残りはあるけれど私は満足よ!
謝ってばっかりだから最後に、
君と過ごした時間はとても楽しかった。
私はとても幸せだったよ。
だからその一部だけはこの手紙に私の幸せを込めて君に恩返し。残りは私が全部持っていく。文句はないよね?
君もしっかりと寿命が来るまで生きるんだよ!
本当に幸せだった。ありがとう。またね!
大好き。
僕は何も言葉が出なかった。
だだ一人、嗚咽混じりの声で鳴き。
吐き出すものが何もない胃は絞られるように痛い。
ただ、何よりも心が痛かった。
彼女からの手紙がただ嬉しくて、悲しくて。ありがたくて。彼女はまだいるのだ。
僕の中で僕を思ってくれていると感じた。
まだ読んで間もないのに手紙はすでに僕の涙で文字が滲んでいた。
そんなになった手紙を見て僕はーー
旅立つことをやめた。
僕は直ぐに立ち上がって走った。もう帰らないと決めた自分の家に向かって全速力で走った。
勢いよく開けた玄関には出勤する父と見送る母がいた。
二人は僕を見開いた目でじっと見つめた。今はかまってる時間は無いとそのまま僕は自分の部屋に向かった。
直ぐにでも彼女に手紙の返事をしたかったから。
僕は机の引き出しから便箋を取り出して書き出した。
ーーへ。
まずは手紙をくれてありがとう。
君からの手紙を読んで僕も手紙を出そうと思ったからこの手紙を出すよ。
こちらこそ本当にありがとう。まずはそれを言いたい。
君と過ごした時間は忘れられないものばかりだった。君が笑ったとき、君が泣いたとき、君に触れたとき。君は様々な表情を僕に刻み込んだ。
それとごめん。もっと君と一緒に色んなところに行って沢山の思い出を作りたかった。本当にごめん。
君が幸せだって言ってくれてぼくは本当に嬉しい。それだけで僕はもういっぱいだ。
この行まで手紙を書くのに二日もかかったよ。何しろ君に手紙を出すのも、手紙自体を書くのすら僕にとってははじめてなんだ。
君の言う通り君がいなくなってから僕は色々と行き詰まっていたよ。でも、安心して。もう大丈夫だから。
君に言われた通りにしっかりと生きて七十、八十年後に君に会いに行くよ。
僕も君みたいに手紙に幸せを込めようと思う。届くかな?とどくよね?
沢山送るよ。手紙。君にももっと幸せを届けたいから。
それじゃ今回はこの辺でまた書くよ。
じゃあね!
しっかり。
そう自分に言い聞かせて玄関を出る。
どうこの手紙を送ろうかと悩んだが結局はあの砂浜に来てしまった。
だから君と過ごしたこの砂浜から君に手紙を届けよう。
だから僕は彼女への手紙を海に投げた。
きっとこのまま手紙は波に浚われて彼女に届くだろう。
返事は来ないだろう。でも僕はまたは彼女に手紙を書こう。
だから今日はもう家に帰ろう。
二ヶ月後
めが覚めた。以前とはちょっと違う目覚め方だ。
自分のベッドの横には制服が置いてあり、机の上には彼女への手紙がある。
制服に着替えて朝ごはんを食べてる。
「いってきまーす」
そう母と父の言って家をでる。
彼女はもう玄関先で僕を待っていることは無い、けど僕は言う。
「もう遅効はしてないよ」
愛の手紙を海から貴女に 凪 奏 @Keni
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます